大型恐竜との接触
まだ来るならもう一発と思ったが、相手の野生の勘が逃げろと言ったようで距離を取り始めた。十匹以上群れで行動する恐竜を倒すという依頼なので数的には十分だと考え、相手が下がりだしそして走り去るのと同時に剣を鞘に納める。
依頼完了だなと思ったものの、この恐竜たちの亡骸をどうしようかと頭を悩ませた。シシリーが私が解体屋さんに行ってこようかと言ってくれたのでお願いする。これだけあればこの先不可侵領域での戦いの後もお金には困らずにいられるだろう。
明日はイザナさんがリベンに到着する前に接触し、計画を話して協力を取り付けるまで進めたい。順調にいけばついにリオウとの再戦が成る。少し前までなら恐怖し不安に駆られていただろうが、今は少しだけ心躍っていた。
ここでまた負けるようであれば先にいるクロウに勝つことなど叶わない、必ず勝ってクロウ戦へ進む。アリーザさんを取り戻し、皆とまた暮らすためにあの場所に帰るんだ。決意を込めて拳を握り先の方を見つめていたら、とてつもない殺気がこちらへ向かってくる。徐々に地面が揺れ始め、ドスドスと音も聞こえてきた。
ふいに先にある森からバサッと恐竜の頭が出る。きょろきょろしたあとで目が合うと同時に咆哮を上げながら、よだれを垂らしつつこちらに向かって突進してきた。近付くにつれそれが例の五メートル級の恐竜だと分かり、前振りが効き過ぎだろと思ってげんなりする。
ターゲットにされてしまったからには逃げられないだろう。今回は自ら抜けてはくれなかったので、自分で妖精の宝の柄を握り引き抜いて構えた。徐々に前傾姿勢になり森に潜ったが、直ぐに口を開けた恐竜の顔が突っ込んで来るのが見えて恐怖する。体だけではなく顔も大きく、隕石が飛んで来るみたいな圧を感じて急いで飛び退いた。
恐怖を払うべく柄から左手を離し、自らの左頬を叩いて気合を入れる。先ほどの恐竜たちと比べてもっと速い速度で噛みついて来るのかとか、尻尾が長いだろうから薙いでくるかとか考えながら身構えた。
ところが五メートル級はこちらを無視し、さっき倒した恐竜たちのところで立ち止まると食事を始める。怖いもの見たさで近付いたが一瞬こちらに視線を向け目があったものの、相手はゆっくり視線を逸らし気にしないとばかりに食事を続けた。恐らくお腹を空かせていたところに御飯を見つけたので、急いで拾いに来た感じなのだろう。
相手がやる気なら戦わなければならないが、依頼でも無いし倒さなければならないとかも無いので斬り掛かる気もない。ただ恐竜の残骸は回収しないといけないので、少し離れたところで座りながらぼーっと食事が終わるのを待ってみる。あっというまに十匹ほど平らげ、背伸びをするように立ち上がりゲップをした。
次はこっちの番かと思ったが、こちらを一瞥しただけでそのまま来た方向を戻っていく。満足したのかそれともこちらが倒したのを理解して多少残してくれたのか、三匹ほど手を付けずに残っている。ここら辺は彼の縄張りなのかもしれないな、と思いながら去って行った方向を見つめている間に、シシリーが荷車を引くセリナさんの助手たちと共に戻ってきた。
助手たちは三匹だけですかと拍子抜けしたように言ったので、三匹から少し離れたところに食い散らかした山を指さすと驚きの声を上げる。五メートル級の恐竜が食べてしまったと説明したら、なぜあなたは無事なんですか!? とハモりながらまた驚かれた。
ギルドで人間は食事にならないと聞いていた話をしたが、食事中に近くに居たら食べられかけた話を彼女たちは聞いていたので驚いたらしい。なにより大食漢なので三匹も残しているのは体調が悪かったのではと言われ、大型恐竜の体調不良になった姿を想像し吹き出してしまう。
大食漢があえて三匹残したのは言葉を交わした訳ではないが、別れ際の一瞥にそっちは仕事でやったんだろうから少し残してやる、というのを感じた。助手たちに詳しい説明を求められたが、こっちが勝手にそう思っているだけで正解かどうかは不明なため笑って誤魔化す。仕事仕事と言いながら三匹と残骸をそれぞれの荷台に乗せ、助手たちを急かして解体屋敷まで移動する。
屋敷に着くと謎の現象について我先にと助手たちはセリナさんに話す。とうのセリナさんは面白そうに聞いただけで特に追及はせずに、いつも通り記載されたメモを渡されまたねと言われた。追及されても説明しようがなかったので、こちらも話はせずに感謝の言葉を述べて一礼し、ギルドに提出するべく屋敷を後にする。
ギルドに到着した時、ふと恐竜を最初に預けた頃から報酬以外受け取っていない気がした。受付の人にこれまで解体屋に出していた恐竜たちの素材とかはどうなっていますか、と確認をしてみる。
するとサラティ様が引き続きセリナさんとやり取りをしているのでこちらではわからないですと言われた。今回は群れで残骸を助手たちにも確認し使えるものは回収して来たので、十三体換算で報酬もその分頂く。
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