剣の師匠との稽古
城を出たところでクニウスとパルヴァがいたので声を掛けた。どうやら待っていてくれたようで、一族会議はそろそろかと問われる。稽古終わりの話をすると二人は一瞬複雑な顔をしたものの、聞き終えると笑顔になりイザナさんとの接触と偽装に協力すると言ってくれた。
町の付近で待ち構えて接触する予定だったが、近くで待つより少し先で接触した方が安全だと提案される。確かに直前で接触出来ずに中に入ってしまった場合、三鈷剣が倉庫に無かった時の偽装がし辛い。
去年の年末はカーマから真っ直ぐ来たらしく、ある程度目星が付くならと考えカーマとの中間地点の丘陵で待機することにした。明日の行動が決まったところで締めの稽古をしようとクニウスに誘われ、近くの森へ移動する。
いつもの開けた場所に立つと向かい合って立つ。いつも通り妖精の宝を抜いて構え、クニウスもどこからともなく現れたロングソード二本を手に構える。締めだから特別にこの状態での本気を見せてやると言った後で凄まじい殺気を発し、まるで心臓が鷲掴みされたような感じがして動けない。
あっという間に距離を詰められ左右の剣を同時に振り下ろして来た。肩に乗るシシリーの悲鳴で金縛りが解け、さらに妖精の宝も反応してくれたので弾くのに成功する。慌てて距離を取ってクニウスを見たが、これまでののんべんだらりとしていた顔つきとは別人で間違いなく本気だと分かった。
負けじと気迫で押し返そうと妖精の宝と共に攻撃を仕掛けるも、一に対して二返ってくるという状況で押されっぱなしだ。今日まで一生懸命稽古を積んできてレベルアップはしたが、最強には程遠いと思い知らされる。
強くなればなるほど天井が遠くなっていくのを感じ、しんどくなったが諦めるわけにはいかない。アリーザさんを助ける為にも勝たなければならないし、なによりこれまで稽古を付けてくれた成果を見せたい。
これまでを出し切るべく斬撃を弾き身をひねって回避し、隙が見えたら切り返す。例え当たらなくとも諦めず何度もそれを繰り返し続ける。徐々に彼の振るう剣の速度もパワーも上がり始めた。強烈な攻撃を受けながらマジックアイテムである妖精の宝なら折れなくてもわかるが、見た目は完全に普通の剣なのになぜ折れないのか疑問だ。
特別な気を発しているとは思えないが、達人が愛用するだけあって見た目ほど正直な代物ではないということなのだろうか。こちらも負けじと力を入れ剣戟を交わし合っているのに刃こぼれ一つ見当たらないのだから、そう考えるのが妥当かもしれない。
折れてくれれば一瞬だが勝機が訪れるかもと考えたが、期待するだけ無駄な気がしたのでその考えは捨る。偶然を期待出来ないとなると上回って勝つしかないが、二本対一本では明らかに手数が劣っていた。ならばとスタミナを使い切るつもりで力を込めながら速度を相手より上げて斬りつける。
相手のパワーが上がっているということは、斬る時だけでなく受ける時も力強く崩れにくい。妙な受けをしてもきっちりガードされてしまい絶望感が漂う。全て力を入れていたら持たないぞ、一番力を入れるべき時に入ってないからガードを崩せない、とアドバイスが入った。
一番力を入れるべき時と言えば当たる瞬間だ。ずっと力を入れるのではなく当たる瞬間だけ歯を食いしばりならが、拳を打つ時と同じように踏み込んだ足で地面を鳴らしてみる。受けたクニウスは目を見開き腰を少し落として万全の態勢だったので失敗かと思ったが、右の受けた剣が流れたのを見て押し込もうと試みた。
しかし空いている左のもう一振りの剣でこちらを振り払おうとして来る。避けるには遅く防ぐにしても剣は一本しかない。やられるかと思った時、妖精の宝の鍔の両脇に付いている羽が小さく二回羽ばたく。
緑の気が剣に宿り周りが停止したように感じた。直ぐにこちらを振り払おうとして来た左の剣へ向けて剣を振る。インパクトの瞬間に腹に力を入れて弾き飛べと念じながら当てた。視線を急いで元に戻し先ほどの右の剣を弾くべく叩き付ける。
ガガン、という連続した音が聞こえて流れが通常になった気がした。目の前のクニウスはバランスをついに崩し、ここだと思って喉元へ突き出し直前で止める。
「参ったな……言いたいことはあるが、一本は一本だ」
下がって二振りの剣を上へ放り投げ、消えるのを見た後で溜息を吐き苦笑いしながら言った。現実感が無くて突き出したままの体勢で止まっている。音が鳴るように手を叩かれて我に返り、首をすくめたのを見てやっと一本取れたと思い嬉しくて叫び声を上げた。
ひと月前は右手の剣と稽古するのも精一杯で、一本取れるなんて想像も出来なかったから喜びもひとしおだ。声がかれる勢いで叫び続けていると突然太ももを蹴られる。見ればいつの間にか目の前まで来て眉間に皺を寄せながら立っていた。
腕を組みながら彼は言う。一本は一本だが、その剣の協力が大きいんだからそろそろ落ち着け、と。確かにその通りだと思い深呼吸を何度もして気持ちを落ち着ける。
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