風神剣
翌日、捌くだけでなく反撃もしてくるようになったクニウスとの稽古をする中で、昨日の彼からのアドバイスを受けたことを思い出す。剣だけでなく武術を取り入れた戦い方かと考えた時に、不意に妖精の宝を使って風神拳が出せないかと考えた。斬り払われ斬りつけられたのを防いで飛び退いた位置が少し離れていて、これは試してみるチャンスだと思って切っ先を拳の先に見立てて風神拳を打ってみる。
風が細いドリルのように回転しながらクニウスへ向かって飛んで行った。彼は一瞬受けようと構えたが、寸でのところで横へ飛んで避ける。標的を無くした風は、森の中を切り刻みながら飛んで行き見えなくなった。
行方を一緒に追っていたクニウスからあれは俺で試すんじゃなくて恐竜でやってくれ、そこらに困るほどいるんだからと真面目に叱られ慌てて謝罪する。さっそく稽古を終えた後でシシリーと一緒に依頼を受けてから恐竜に対して先ほどの技を試してみた。
「ちょっと! なにすんのよ!」
「パルヴァにエレミア」
放った風は恐竜に直撃すると竜巻に変化し、空高く運んで吹き飛ばし消える。地面に落ちた振動と音が聞こえたのでその方向へ移動した。ギリギリ見えるところまで来てみたら、どういう偶然か恐竜の脇にパルヴァとエレミアが挟むように立っていた。
これは不味いと思って木の陰に隠れようとしたものの、あっさり見つかってしまう。どうやら二人はここで修行中だったらしく、なんとか落ちてくる前に察知して直撃を避けられたと言われほっとする。どういう状況でこうなったのかと問われ、クニウスとの修行で身に付けた新技を試してみたと話すと盛大に溜息を吐かれた。
申し訳ないと二人にしっかり頭を下げて謝罪し許しを得る。ふとエレミアの師匠であるパルヴァは、恐竜にジンが放った新技とかいうのは魔法かどうか彼女に問う。答えを求められ考えた末に魔法ではないとエレミアは答えた。
教え子の回答に対してパルヴァは、私の見立てではこれは魔法よと正解を伝える。魔法と言う意外過ぎる正解を聞いて驚き、風神拳が魔法なのかと聞いたところ新技の方が魔法だと答えてくれた。風神拳はヤスヒサ王も使用していた代名詞に近い技で、異世界転生して基礎能力が上がりさらに鍛えた腕力とそれを振ることで起こる風に、気を混ぜ合わせて増幅させて可能となる技らしいと彼女は教えてくれた。
パルヴァの大師匠であるミシュッドガルドという人物が考案した対魔法使い用の技で、肉体の強化のみならず使い方もしっかり学ばなければならず、どれかが合わなければただの微風になってしまうので難易度が激高だと言う。
魔法使いも体は鍛えるが勉学よりも圧倒的に重要度は低いので、対魔法使い用の技は持っておきたいと言えども修得する者は居なかったらしい。こっちの世界に転生した人間にこそふさわしい技なのかもしれないわねと彼女は話す。
なぜ効果抜群なのか気になってたずねると、理論的には可能ではあるものの気とか体の流れとかタイミングなど修得までに途方もない労力を必要としていて、修得する人間もいなかったため対策が取れないのが大きいようだ。
一般人からすると魔法使いのような雲の上の者たちでも敬遠する難易度激高の技を、よく自分は修得で来たなと驚いている。師匠の教え方が良かったのもあるが、ひょっとしてこれも一種のチートなんじゃないかと思った。
師匠は長くこの世界にいて弟子もクルツ・リベリさん始め幾人かいるし、ノガミ一族もいるのにどこにも風神拳を使う人に一度も出会っていないのが、チートかもと思った理由だ。もしかしたら知らないだけでいるのかもしれないと考え、念の為にパルヴァにノガミの中で使い手はいるのかと確認してみる。
少し考えてから知ってる範囲だとアンタの師匠にティーオティアナ兄妹だけだと言われた。ノガミの本流には確実に受け継がれているのかと思ったが、あの子たちは親から受け継いだ体の強さがあるからよと察した彼女の指摘を受ける。
魔法使いも火を触媒無しで出したりしてるけど、魔術粒子という目に見えない小さな粒子を使用しているので、条件的にはこちらの方が緩めだから人口も多いと教えてくれた。こちらからすると魔法使いも大概な気がするが、これまでクロウの介入以外でしか打てなかった魔法を妖精の宝で可能になり、魔法使いの一人となれたのだとすれば凄いことだ。
魔法が使えるようになったのなら戦いの幅が広がるのでラッキーだと言うと、恐らくその剣がマジックアイテムで握ることで魔法が使用になるのではないかとパルヴァの考察が入る。以前まではこの星にそういったアイテム類は無かったものの、ヤスヒサ王以降魔術粒子の回復によって人類が反映する場所以外でも変化があり、遺跡からアイテムが見つかっているらしい。
妖精の宝もここではない地域のアイテムなのかもというパルヴァの言葉を聞いた途端、妖精の宝から鞘に戻りたい感じが伝わってきたので鞘に納める。マジックアイテムが各地に出没したというロマン溢れる話に胸を躍らせたが、依頼を受けていたのを思い出した。
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