不思議な剣
構わないが、シシリーを置いて来てしまったので迎えに行ってからでいいか、と確認している間に上から彼女が泣きながら飛んで来て胸にしがみ付いた。怖い思いをさせてすまないと謝罪しつつ背中をさすり、落ち着くのを待ってから皆で宿に移動して朝食を食べる。
エレミアは食事が終わるとパルヴァに襟首をつかまれ引き摺られていった。こっちも始めるかとクニウスに言われ、シシリーも一緒に森に移動する。新しく借りた剣に関しては彼は一切触れずに昨日と同じような形式の稽古が始まった。
懸命に斬りつけたものの、結局この日も剣一本のまま押し切れず稽古が終わる。その後いつものように依頼を受け討伐後解体屋に獲物を運び、ギルドを出てデザート屋でエレミアと合流した。そんな日々が一週間続き次の週に入った日
「おっとっと」
こちらの攻撃をさばこうとするクニウスの剣の速度を上回ることがようやく出来はじめ、あともう少しで胴をとらえそうなところで左手の剣が出て来て弾かれた。ようやく最初のモードまでこれたと思うとこれまでの稽古が無駄になってないと分かり、少し感動する。
クニウスからも成果が出たな、今日からはまた二本で相手をするからと言われた。これを超えられればついにクニウスの攻撃が見れる。リオウを倒すためには切り結ぶまではいかないと話にならない。再度気合を入れなんとか反撃をさせようと二本の剣を持つクニウスに挑んだものの、あっさり斬り払われ続けて昼下がりになる。
出来ればもう二、三回挑みたいなと思うも用事があるから実戦で鍛えてくるよう言われ、残念ながら稽古は終了した。彼が去った後で一人素振りをしてみたが、妖精の宝は軽くて強度がある不思議な剣で、これがあったからこそクニウスに何度も挑めたし二本持つまで戻せた。
サラティ様の本気と思われるモードでの稽古初日に落下した際もカバーしてくれたし、戦っている間も剣自体が判断してバックアップしてくれてる気がする。通常戦えば疲労し気が減るものだが、今確かめてみても気は減っていないし体力にも余裕があった。
認識が正しいのか知りたくて、妖精であるシシリーが話し掛けたら応答したりしないかな、と肩に座る彼女に聞いてみたが何も言わず首を傾げる。少ししてから彼女は肩から飛びたち妖精の宝にゆっくり近づこうとしたが、緑色の光を発したのを見て元の位置に戻ってきた。
何か事情があって会話したくないのかもしれない。会話しなくても三鈷剣と同じようにフォローしてくれる剣なんだと解釈し、無理強いしないことにする。
感謝の気持ちを伝えてから鞘に納めギルドへと向かい日々のルーティーンへと移行した。しばらくは進展せずにもがく日々が続き一週間が経とうかという頃、稽古終わりに来週始めから反撃をすると突然クニウスに伝えられて驚く。
まだ余裕で斬り払われている状態でクリアにすら程遠い。こちらの腕が一向に上がらないので見切りをつけられてしまったのか、と思い悔しさから何故なのか問いただした。彼は眉間に皺を寄せながらもう時間があまりないからだと答える。
出来れば自分としても良い感じに仕上がりかけているので時間をかけてやりたいが、読みではそろそろ一族がリベンに集結し始めるだろう。集結すれば対戦の為の準備を整えるのが優先されるので稽古は難しい。頭に入れて逆算すればのんびりしてる余裕は一切ない、とクニウスは言い切った。
依頼をこなしつつ稽古をクニウスにもサラティ様にも付けてもらっているが、まだ押し切るまではたどり着けていない。答えは自分でもわかっているが、あえてクニウスに対して率直な意見を聞きたいと前置きし、リオウとの差がどれくらいあるのかを問う。
彼は少し考えた後で、剣においては歴が違うし小さい頃から鍛錬を積み重ねてきた者に勝つのは無理だとはっきり言われる。戦歴も修行した年月も圧倒的に相手が上なのはわかっていたし、そこを曲げて勝つために今日まで稽古を付けてもらって来たが、及ばないのかと肩を落とす。
少し間があってからクニウスが笑い始めた。彼に対してなにが面白いのかと問うと、お前はいつから剣士になったのかと言われ首を傾げる。理解していないこちらを見てさらに続けて言った。剣のみで戦うならリオウに勝つのは無理だが、お前の最初の戦い方である武術も使えば勝機は必ずあるはずだ、と。
その言葉を聞いて自分の思い違いと指摘されるまで気付けなかったことを恥じる。拳ではリーチが短く殺傷能力も剣が上、三鈷剣や妖精の宝があることから剣のみで対抗しようと、頭がそっちに行きすぎていたと気付かされた。
あくまでもリオウを倒すために剣でも戦えるようにするだけであって、勝つためにはもっているもの全てを出して戦うべきだと言われて頷く。さっそく依頼がてら剣術と武術を絡めた戦い方を模索するべく恐竜を相手にしてみたが、初日なのでぎこちない。
なんとか倒せたが妖精の宝とシシリーのフォローがあってこその討伐成功で、消化不良は否めないままだった。肩に座る彼女はそれを察してか、初日から上手いことやろうなんて考えが甘いと叱られ反省する。
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