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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第六章 負けない力を探して

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クロウを討つ者たち

「ヨシズミ国のギルドは良いんですか?」

「ええ、さっきも言ったようにとても大事な用だから……私にとってはそれが大事だからこそ、ここに留まっていたと言っても過言ではないわ」


「御嬢様も来たわよ」


 Dr.ヘレナが指さした方向を見るとクニウスとパルヴァがこちらに向かって歩いて来ていた。あの二人もこの時が止まった町に閉じ込められていたのかと思い話し掛けようとしたが、パルヴァはこちらを見もせずDr.ヘレナたちの方へ歩いて行ってしまった。


「ミレーユ教授、御久し振りね」

「相変わらず嫌な言い方するのね、パルヴァ。そんな言い方をしても私に教えてくれる優しいあなたに感謝するわ」


「いいえ問題無いわ。あの野郎こと大先生を倒すためには、あなたの力が必要だって言うのはこの世界に来てから分かっていたことだからそうしたまでよ。必ず倒さないとおちおち寝てられないのよね」

「……あの人が死んでも気が済まなかったら私も殺してくれて構わないわ」


「自殺したいならご自分だけでどうぞ。あそこにいる間抜け面は教授の子が送ってきたんでしょう? 私まで恨まれたくないわ」


 パルヴァはこちらを向いて俺を指さした。一瞬何の話をしてるんだかわからなかったが、パルヴァの言葉を反芻しているうちに気付き、目と口が全開で開いていく。冗談だとしか思えない……記憶の中を探っても先生の親である自分にとっての大先生(おおせんせい)は、ほっそりとした白髪の優しそうな笑顔の似合う人だった。


ミレーユさんはこちらを見て強く眉をひそめてから苦笑いをしパルヴァに視線を戻した。大先生だったらと思うと条件反射的に一歩引いてしまう。あの感じはとても怒ってる……優しく肩を抱かれ長時間如何に大事に想っているか伝えられ、それと同じくらい自分を大事にして欲しいと言われたのを今更思い出す。


園を出てからの生活を思うととても合わせる顔が無い。暴飲暴食に上っ面だけ笑顔で生きてきた日々を知られている筈はないが、ひょっとしたらと思うと胸の動悸が酷くなる。


「困ったものね……」

「望むと望まざるとに関わらず血は受け継がれたようね。魔術師としてだけでなく魔法使いとして覚醒した。その結果が大魔法使いミシュッドガルドの魂転移に祖父の亜空間直結とかいう離れ業は恐れ入る」


「二度と魔法にも魔術にも関わらないようにと医者にしたんだけどね」

「無理でしょうね。アイツの狙いは結局元の世界に繋がる。私たちに出来ることはこっちからアイツを出さない、出したとしてもまともな形では出さないための努力だけよ」


 辛そうに笑うミレーユさんを見ているこちらも辛くなってきた。話の内容はさっぱりわからないが、出来るだけのことを全力ですることが恩返しになると思い拳を握り顔を上げる。決意表明をしようとしたところ、後頭部になにかが激突して地面に突っ伏す。


気絶しないだけ良かったと思いながらも後頭部をさすると何かがくっついていた。形からして羽っぽかったので一瞬虫かと思ったが、すすり泣く声が聞こえてくる。声を聴いて第二の母と言ってはばからない妖精を思い出した。


「シシリー泣くなよ」


 立ち上がりながら羽を軽くぽんぽんと叩くと声を上げて泣き始める。二日だけで本当に良かったと心底思った。一か月以上も生死不明だったらもっと悲しませていただろうから。


「ジン!」


 振り返るとエレミアも来ていたので笑顔で手を上げる。近付いてきた彼女は睨みながら思い切り右頬を平手打ちしてきた。意識が飛びそうになるのを堪えている間に強く抱きしめられる。本当に二日で良かった……二日でこの威力なら日数が伸びていた場合は命が無かった可能性があった。


凄まじい威力に驚きながらもシシリーとエレミアをなだめながら落ち着くのを待つ。その間にミレーユさんやパルヴァたちは用があるからと立ち去ってしまう。正直ミレーユさんに大先生なのかどうか問いたい気持ちと、聞かずにミレーユさんとして接した方が良いような気がするのと半々で、見送る際もどういう顔をして良いか分からずぎこちない笑顔で見送る。


忙しい日々に流されて園のことは辛い傷として思い出さないように生きて来たから、大先生がどうなっていたかなんて知らなかった。いまさら何を知ったところで不義理であることには変わりない。給料から寄付をしていたのだって、全てを込めた贖罪であってそれ以外の何ものでもなかった。


あの人に対する不義理を少しでも返すために、この命を賭けてでもクロウを必ずここから退ける。この町を包んでいた霧を晴らしたのだから、戦えるというのは知ってもらえたはずだ。あともう少しで皆が待つあの場所へ帰ることが出来る。


その先にも大きな問題はあるが、ここを通らないことにはどうにもならない。どうか自分以外一人も欠けることなく元の場所へ帰れるよう祈りながら空を見上げた。


 シシリーとエレミアが落ち着いたのを確認し、とりあえずエリート宿の食堂でこれまで会ったこととか話すからと促し戻る。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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