悪徳医師
同じような夢を見たとは言え手続きも無く入ってきたと言うこともあり、一旦出直すよう言われ宿に戻って就寝し翌朝イリョウ高等病院へ再度赴くことにする。鍵を使って宿へ入り鍵を閉めて受付のカウンターに置いておく。
ベッドに入ると直ぐに眠りに就くことができ、あっという間に朝を迎えた。部屋を出て一階へ降りると丁度おじさんが応対をしていたので、終わるのを待ってからお礼を言う。宿のおじさんことイマさんから昨夜のことを聞かれ、白い建物を見に行ったと話した。
するとあそこには行かない方が良いと言われる。言い辛そうにしていたが、こちらが話の続きを待っているとその理由も教えてくれた。今では医療事故が多くなっているものの高等病院というだけあって、あそこしか頼れない人たちが押し掛けてくる。
希望と絶望が入り交じる場所が町にあるせいで、元々住んでいる人たちも陰鬱な気持ちになり気分が落ち込んでいた。最初はなんとか盛り上げようとあの手この手と住民も頑張ったが、家族がいなくなるという絶望には勝てなかったという。
マリアさんの話では大量の新人投入による疲労が原因と言っていたが、他は違う見方があるかもしれないと考え、医療事故が多くなった切っ掛けに心当たりはないかと聞いてみる。イマさんはおもむろに白いシャツの胸ポケットからロケットペンダントを取り出し、開いて中を眺めた。
心当たりがあるに違いないと考え黙って待っていると、個人的な話だがそれでもいいか? と辛そうに笑いながら言われ無言でうなずく。イマさんの奥さんも急な難病に陥り、この町の納税者として優先的にイリョウ高等病院に入院できた。その時担当した男が新人と言うには年を取っていて雰囲気からして威厳があったという。
数週間後、奥さんは容態が急変する。病室に駆け付けたイマさんたちはそこに置かれていた瓶に違和感を覚えたらしい。間違いなくしっかり確認したわけではないが、瓶が虹色に光っていたようにみえたそうだ。奥さんはそれから数週間後、別の場所で亡くなっているのが見つかったという。
「その男の容姿は覚えていますか?」
「ああ覚えているとも。瓶底のように厚い黒のメガネにベストとスラックス、赤いネクタイに白衣を着た赤い短髪を逆立てた男だ」
犯人がわかった気がした。聞けばその男はギルベルトと名乗り、他にも部下のような男たちを引き連れていたようだ。とても重要な情報が聞けて助かりましたと感謝を述べ、少しでも力になれるよう頑張ってきますと告げて宿を後にする。
リベンから監査官が来たところで、予想している男ならば引っ掛かるどころか悪化させる方向で監査官は手を貸していたに違いない。チョビ髭もリオウも暗闇の夜明けをただ知っているだけではないように感じたし、彼らの行動は暗闇の夜明けと似ていた。
真正面から現体制を倒すのではなく、背後から突くような動き。確実ではないが竜神教上層部は暗闇の夜明けとつながりがあると自分は思っている。イマさんの言っていた男の容姿からして呪いに囚われし羊事件で初めてあったテオドールに違いない。
この世界を作った神であるクロウ・フォン・ラファエルの直属の部下であるあの男なら、この世ならざる者を意図的に出現させられたとしても不思議ではないだろう。一刻も早く事実を確かめないと。
急いでイリョウ高等病院へ向かおうとしたが、今日も朝から多くの人があの白い建物へ列を成していた。患者ではないが並ばずに中へは入れそうにも無いし、入ってバレたら騒動になる。ここは我慢して皆と同じように列に並ぶ。
結局夜になるまで入ることが出来なかった。こんなことになるなら食べて来れば良かったとも思ったが、そうするとトイレの心配もあるしかえって良かったかもしれない。正面玄関から受付まで通された後、白いローブを着て三角巾を付けた女性に紹介状を出せと言われたのでないと答える。
どんな症状で来たのかと問われどう言ったものかと考えた結果、マリア・キーファス先生に昨夜の警護の件で話があると答えた。目を丸くした女性は慌てて受付から出て行く。しばらくしてマリアさんが険しい表情で女性と共に駆けて来た。
こちらの顔を見て安心したのかほっとした顔になる。どうやら監査官に呼び出されたと慌てさせてしまったようだ。謝罪すると今後は裏口から入るようにと言われ、受付の女性にも彼は裏から入るから通すようにと指示を出してくれた。
マリアさんに先導され明るい病院の中を歩く。中でも多くの人が診察を待っていてその人気の高さを改めて感じる。診察する部屋が並ぶ場所を通り過ぎ曲がって廊下に出て窓の外を見ると、中庭にも診察のためのテントが建てられているのか患者が並んでいた。一瞬、ひとつのテントのドアが開き中が見える。
中にいた男は間違いなくテオドールだった。こちらを見られないよう急いで窓の下に隠れて膝を曲げながら歩きつつマリアさんに続く。まさかいきなりヒットするなんて運が良いのか悪いのか。
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