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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第五章 取り戻す道を探して

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イリョウの夜

――偽・火焔光背(ぎかえんこうはい)


「偽・火焔光背っ!」


 背後に回り込み声に従い叫ぶ。背中に熱を感じると同時に三鈷剣にも炎が宿り


火焔斬(かえんざん)!」


 影へ思い切り斬りつけた。真っ二つになった影から解放された女性は意識を失っているようで地面に落ちる。三鈷剣と偽・火焔光背は危険が去ったのを確認したのか粒子となって溶けたので、女性に駆け寄り抱きかかえて呼吸を確認し脈を計った。


怪我もしておらず顔は苦悶の表情を浮かべているが、呼吸のリズムがとてもゆっくりで寝ているように思える。襲われているにも関わらず目を覚まさないという異常事態に違和感を感じ、事情を聞きたくて周囲を見るたが幽霊エルフはいつの間にか姿を消していた。


この女性をどうしようかと迷っている間に部屋へ灯りを持った人物が入って来てしまう。正規の手続きをして入ってきた訳ではないので、なぜいるのか問われた時のための言い訳を大急ぎで考える。


「ご苦労様。その子をこっちに連れて来て」


 白衣に赤いシャツに黒のスラックス、そしてサンダルを履いたポニーテールのエルフの女性がとくに驚いた様子もなくこちらに指示を出してきた。逆らう理由もないので指示に従い女性を抱きかかえて後に続いて行く。


四階まで上がった後で左へ曲がり、廊下の突き当りの部屋に入った。中は白いベッドとテーブルに椅子だけという建物の外と同じような殺風景な部屋で、こんなところにいたら余計具合が悪くなりそうに思えてならない。


「初めまして英雄さん、私はマリア・キーファス。ここイリョウ高等病院の医者よ」


 マリアさんは白衣に突っ込んでいた右手を出して握手を求めて来た。英雄では無いですよと答えながら握手を交わす。じゃあ英雄が持っていたと言われる剣を持ってる方って呼んだ方がいい? と言われたのでジン・サガラですと名乗る。


ついでに妙な夢を見てここに来たと説明したところ、私も同じだからあなたを不審者とは思わなかったとマリアさんに言われた。幽霊エルフの根回しは完璧だったのかと思いほっとする。夢の中に出て来たのは彼女の祖母だと言い、若い頃の写真を祖父に見せてもらわなければわからなかったという。


マリアさんの御婆さんはヤスヒサ・ノガミとどんな関係があったんですかと聞いてみる。彼女自身直接聞いたわけではなくまた聞きだけどと前置きした上で教えてくれた。ヤーノの村解放戦からの付き合いでその後軍医として彼女の祖父であるマウロ・キーファスと共に遠征していたらしい。


統一後はネオ・カイビャク一帯に医療技術を行き渡らせるべく尽力し、三年前に他界したという。イザナさんと同じようにヤスヒサ王と同じ時代に生きていた人だったのかと驚いたが、何を根拠に化け物を倒せると思ったのだろうか。


三鈷剣を持っているのも知らなかったし、幽霊だからと言って何でも知っているわけではないのは間違いない。また出てきたらそこら辺を聞くとして、マリアさんに今ここでなにが起こっているのかたずねる。目を伏せ溜息を吐いたマリアさんは、窓の外へ視線を向けた。


 話してくれるのを待っているとようやく重い口を開く。ヤスヒサ王統一後、周辺から危機が去り人々の生活は安定し豊かになる。すると生活習慣病など今までにない病が増加した。それまでにあった病も完全な治療法が確立されていないものも多く、人口増加から一転して減少し始める。


人々はより確実な医療を求めた結果、この世界で一番医療技術の高いイリョウに殺到した。医師たちも懸命に対処に当たったが限界がある。徐々に人も施設も疲弊して行き、今は限られた人間しか受けることが叶わなくなってしまった。


サラティ様にも進言し国民一人一人が不摂生しないよう予防を強化したが、すぐさま収まるものではない。態勢強化を求めた国から医者が足りず新人を大量に雇用するよう指導を受け、資金を受けている病院としては断れず雇用する。


雇用された新人の研修や指導という慣れない仕事に加え、途切れない多くの患者を抱えた医師たちは医療事故が多発してしまった。遺族から病院や医師への抗議が国へ上がり、国から医師の解雇を通達され退職される。人が減った上に罰として設備費を削られ悪循環に陥ってしまう。


万全の体勢であれば防げた病による死も増加し、ここ最近になって入院患者に異変が生じて来た。なぜか重病患者たちが目覚めなくなってしまったらしい。病状は進行しないため緊急性の高い患者を優先していたある日、別の場所で死体で見つかる。


ベッドから出て歩くのもままならない人たちがどうやって移動したのか。病院を疑いリベンから監視官が来たものの彼らがいる中で同じ事件が起こり、現在も究明中だという。魔法使いも派遣されたがそれでも原因不明で困り果てていたところで夢を見たようだ。


あの影はこの世ならざる者アンワールドリィマン に似ている気がする。病院や医者に対する憎しみによって怨霊となっている可能性もあるだろうし、最悪合体している可能性もあるかもと思った。


だとするとどうやって解決したものか。この世ならざる者アンワールドリィマン はその目的も発生条件もまったく不明で、ただ人型のみを狙ってくると言うことだけがわかっている。幽霊エルフはそれに関する情報をもっているのかもしれない。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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