町長とベアトリスの兄について
結局今直ぐは支払いが出来ないと言う話になり明日以降にとなったので宿へ戻り、翌朝改めてギルドへ出向くと町長がラウンジに座っていて驚く。急いで近付き丁寧に挨拶すると
「そんなに畏まらなくても良い。我が愛妻と愛娘を助けて貰ったし、今回も鮮やかな手際で解決してくれ町に貢献してくれてたのだから」
「いえ、今回の件はベアトリスも助けてくれましたし、何よりシカのリーダーとおぼしき者はまだ健在です」
「そのようだな。だがそのリーダーとやらの感じが分かっただけでも儲けものだ。今まではそのような事態にはなっていなかったのでな」
町長はそう言った後、俺たちに席に着くよう手で促し一礼して向かい合う様に席に着く。これまでシカは町営に限らず畑には出没していたものの、頭数も回数もこんなに多く来ていなかったらしい。門兵の隊長が徐々に増えるシカに異変を感じ、町長に依頼内容変更を進言し採用した直後だったと言う。
「どうやらお前は話を先に進める要素を持っているらしい」
その言葉に俺とベアトリスは見合い首を傾げた。だがよく考えて見れば、俺がここへ来てから色々な事態が進行しているような気がしないでもない。偶々だとは思うんだけどね。
「事の発端は色々あり過ぎて最早どれでもあるしどれでもないようなものだが、アリーザにベアトリスの兄、そして元不死鳥騎士団の男。お前は全てと接点があるのだから、私がそう思うのも無理はないだろう」
「兄者を知ってるんですか!」
兄と言う言葉に反応し身を乗り出すベアトリス。俺も町長の口からその言葉を聞いて驚く。何しろこれまで具体的にその陰すらなかったのだから。逸る気持ちを二人で抑えながら次の言葉を待っていると、町長は落ち着いたまま頷き話を続ける。
「ジョルジから話は聞いている、と言うかアイツが調べているところに私たちの密偵もかち合ってな。ジョルジがお前たちに報告をしていないのも私が止めているからだ」
「ベアトリスのお兄さんは、町長たちも調べている何かに関わっているんですね」
ジョルジさんは、少し時間を貰えればと言っていたが大分時間が経っている。そんなに雑な人ではないから、何かあったのだろうと聞かずに待っていた。だがまさか町長に止められていたとは。そんなに長い付き合いでは無いが、ジョルジさんの感じからしてそれで諦めたりせず別ルートでも調べてくれている気がしてならない。
何やら大事みたいなので、宿へ戻ったら町長と話したのを伝え調査に対する感謝を伝えて終了にして貰おう。ジョルジさんを危険に晒す訳にはいかない。俺は別の意味で冷や汗を掻いていた。ベアトリスの所作からして盗賊の子供で無いのは分かる。
俺なんかと違って良いところの出だろうな、と。そして町長からもこの国のこれまでの話を聞いていたし、どうやら色々面倒な状況になって来ているのを察した。
「そうだな。話せば長いし話す時期に今は無いとだけしか言えない。ベアトリス、お前の兄は無事だが、やらねばならぬ仕事があるのでお前の元にはまだ帰れない」
「兄者は一体何を!? 危ない目に遭っているのではないですか!?」
ベアトリスは取り乱し勢い良く立ち上がり町長に詰め寄る。俺も立ち上がりベアトリスの両肩を軽く叩いて落ち着くよう促す。それでは話が進まないと分かる子なので、直ぐに深呼吸して再度席に着いた。
「この世で安全な者など首都に居る貴族や王族くらいのものだろう、と言うのは置いておくとして、お前の兄にもお前の現状を伝えている。丁度今のお前と同じような反応をしていたぞ?」
「ベアトリスのお兄さんと連絡が取れるんですね」
「無論だ。彼の仕事が済んだのなら君たちの元に来るようにとも伝えてある。何か伝言があれば伝えるが」
そう言われてベアトリスを見るが、首を横に振る。逢って直接話が聞きたいのであってそれ以上の伝言は無いのだろう。
「ならこの件に関しては今は終わりとして次の件だ。昨日の討伐の報酬に関してだが、私としては追加依頼を出したい」
「と言いますと?」
「さっきも言ったように前と状況が違う。シカたちが私たちを恐れず町に降りて来たのは事情がある筈だ。それを調べて貰いたい」
それに対して俺は即答を避ける。こないだの巨大リスの件もそうだし、今回のシカの件も何か繋がっているような気がしてならない。
「即答しないのも流石だな。先ずは町の南にある竜神教の教会に行くと良い。そこの司祭とシスターにお前が気になっている点を尋ねれば答えてくれるだろう」
全てお見通しだったか。今はこれ以上町長に問うても答えては貰えないだろうと考え席を立ち一礼する。ベアトリスは俯き問いたい気持ちを抑え込むのに時間が掛かり、暫くして立ち上がり一礼した。
そのまま俺たちは町の南の教会を目指す。この世界の宗教って言うのがどういうものか分からないが、町長が進めるくらいだから怪しい宗教では無いだろう……けどちょっと怖い。初めて一人暮らしをした時に、間を置かずにピンポンされて出てしまった時のを思い出すからだ。
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