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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第五章 取り戻す道を探して

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執着の行方

すぐに追いつきイサミさんに雨が当たらないよう葉を掲げて森を進み、無言のまま丘の上の家にたどり着き扉を開ける。中にはこないだいたエルフのお爺ちゃんお婆ちゃんたちが勢ぞろいしていた。イサミさんを見ると立ち上がり一礼する。


これまでの経緯をイサミさんが簡単に説明し、ブリッヂスに使者を派遣するよう指示を出した。お爺ちゃんたちは左手を御腹に当て右手を後ろに回して一礼する。イザナさんに対してならわかるが、イサミさんの養父がイザナさんだからこんなにも丁寧なのか。あまりの仰々しさに疑問に感じた。


問おうとしたもののお爺ちゃんたちは使者の選定を初めて忙しくし始める。ならばとイサミさんにたずねようとしたが既に集会所を出ていた。慌てて後を追うも今度はいつもの魚屋でまたしても大量の魚を購入し聞けず仕舞いで家に帰る。


相変わらず蜥蜴族は寝ていたのでそのままにし夕食を取ることにした。家の周りを大型の蛍が多く浮遊し始めた頃、地響きが聞こえてくる。音のする方角を見てみたら例の大きな蜥蜴が三匹、誰かを乗せてこちらに向かって来た。


 家の近くで停止し下りて来たのはハユルさんと他二名。見た感じこちらに敵意はない様子でまずは一安心する。ハユルさんとイサミさんが握手をし、運び込んだ蜥蜴族たちのところに案内した。兄です、とハユルさんが言ったので事情を説明した。


話が終わりかけたところで彼らは意識を取り戻し上半身を起こし始める。しばらくは夢現だったものの意識がはっきりしてくるとばつの悪そうな顔をした。中でもハユルさんが兄と言った鍔迫り合いを繰り広げた相手は苦悶の表情を浮かべている。


自分も一度負けた身だが、相手が近くに居るのと居ないのではまた違いがあるだろう。ちょっと飲み物を取ってくるといって場を離れ歩き出した。振り返ってみるとここに来て頭に声が届く回数が増えている。


しかも聞こえる度に強大な力を習得していた。声の正体は一体誰なのか、答えて欲しいと頭の中で問いかけても何も返ってこない。力を与えてくれたのだから神様だと思うし、名前からして日本の神様かもしれないなと思っている。


 日本の神様の知識を得られたであろう場所は学校だが、どの教科も義務教育を終わらせたい一心でやっていただけで、今となっては明確に記憶していたり興味が続いているものは何一つない。園の中で人間としての礼節を含めた生き方を学んだし、それがあったからこそ営業として長年生きてこれた。


学校は自分にとって、一日の四分の一の時間内でいかにしてターゲットにならず穏便に終わらせるかという戦いを学ぶ場所だと現在も思っている。教科に興味を持つだとかそんなものはなかった。歴史にだけでも興味を持っておけば良かったと今になって思い始めている。


「ジン殿、ここにいらしたのですね」


 声を掛けられてはっとなる。気付けば沼地の縁にいて暗闇の中黒く光る沼を見ていた。あの頃が泥の中だとすれば、やっと今頭が出掛けたくらいだろう。リオウ・リベリに殺されかけてまた沼に沈むところだったと思うと、心の底から恐怖と怒りが入り交じった感情がマグマのように体を駆け巡る。


「兄が話がしたいと言うのですが、来て頂けますでしょうか」


 このままここに立ち続けていたら、破壊衝動に支配されてしまいそうだ。大きく一息ついて振り返りそこにいたハユルさんに対して笑顔を作り頷く。家を燃やされた時のような感情に支配されない自信がまだない。


ハユルさんの兄と戦った時はコントロールできたつもりだが、次もそうであるとまだ自信が持てずにいた。色々たりない物ばかりだと思い知らされる。この世界を作った神と戦うなら足りないものを補っても足りないのだから、先ずはそこをクリアにしないと駄目だ。


促されハユルさんの後に続いて歩き始めたが、足の裏が地面にべとりと張り付き歩き辛く感じた。病か敵のプレッシャーかと思い警戒していたものの、徐々に気や体力が回復していくのがわかる。まだまだこの程度では敵わないから頑張れと言われている気がした。


頭に響く声もそうだが、相変わらず多くの人たちに支えられてようやく歩けている。多くの想いのためにも負けられない。勝つ為に鍛錬をやっていかないと。長くかかると思われていた事件も早々に解決できたことだし。


「ジン・サガラ、俺の完敗だ」


 家に着くなりハユルさんの兄にそう言われ驚く。直接そうだと聞いたわけではないが、ヤスヒサ王、ひいては人間族に対してコンプレックスを抱いていた彼が完敗だと言ったからだ。


「ヤスヒサ・ノガミと戦うことは叶わないが、戦えば負けない自信があった。だがこの世界に生きる人間族に部下も一緒になって戦った挙句この様では言い訳のしようもない」

「ブキオ兄さん、なぜ急にそのような心境に? 蜥蜴族こそがこの世界の覇王だと言っていたではありませんか」


「そうだな、あえて言うならジン・サガラに受けた一閃によって自らに巻いた呪いの鎖が壊れたといったところだ」


 清々しい笑顔でこれまで溜まっていたものを吐き出すようにハユルさんの兄、ブキオは言う。剣だが斬れない三鈷剣だが、生きている者の肉は斬れなくても別のものは斬れるのかもしれない。剣が今唯一斬れるあの真っ黒な像は、言うなれば人型のみを喰う悪魔だ。悪を斬るための剣なのかもしれない。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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