エルフ族と蜥蜴族
生きるためには食べ物に限らず幅広く必要で、足りないものを補う時に相手が提示するものを出せなければ取引もままならない、なぜ笑うんだとイザナさんに大真面目に怒られてしまった。ハユルさんと目を合わせると同じような呆気にとられた顔をしていたので、お互いに吹き出しまた笑ってしまう。
心底面白くなさそうな顔をしたイザナさんを尻目に一しきり笑ったあとで、ハユルさんは賃金に関しては兄に掛け合って見ないと分からないと答える。歯切れが悪いのが気になりかなり近い距離で問題解決はお互いの利益になるのではないかと問う。一呼吸置いてから、近いからこそ良くないところが目についてしまい関係がよくなく、相手の利益問題に発展する場合は特に解決が難しいとハユルさんは教えてくれた。
視線をイザナさんに向けるも鼻で笑った後でそっぽを向かれてしまう。だいぶ根深い問題のようで、それを解決するには骨が折れそうだ。時間があれば積極的に解決するべく介入したいが、あいにくそうもいかない。
ふと思ったのだが橋の南側、ヤクヤ・モリたちが住んでいた地域を真っ黒な像から解放すると誰のものになるのか。解決するのは恐らく三鈷剣を持つ自分の身になるだろう。イザナさんたちエルフには橋の件を解決すれば恩は返せる。
仮にもしエルフ族側が権利を主張したら、解決した本人である自分が権利を主張しそのままヤクヤ・モリ一家に渡そう。エルフ族の権利だとかになったらブリッヂスとの関係が余計こじれ、最悪戦になり兼ねない。
これ以上厄介なことにならないためにもその手で行こう。考えが纏まったので二人には先ずは橋の南側の安全を確保するのが最優先なので頑張りましょうと告げた。そうですねとハユルさんが同意してくれたし、イザナさんも確かにそれもそうだなと半ば仕方なさそうに同意してくれて安心する。
隣り合っている二人だけの関係からご近所が一人増えれば、関係を拮抗させられる可能性が生まれるはずだ。ヤクヤ・モリ……よりも奥さんに話しておいて、あくまで中立から動かないようお願いするのが最善だと思った。
話が一段落したところでハユルさんは一旦ブリッヂスに帰ると言うので途中まで送ることにする。イザナさんにお礼を述べた後、皆にもお礼を告げたいとハユルさんがいうので挨拶をしてから家を出た。
森の中を歩きながら話題に困ったので、地図で見たコウテンゲンの話を振ってみる。かなり広い地域を纏めていたので大きな国なんですねと言うと、以前はコウテンゲンは北東の都市のみを差していたという。
ソウビ王がカイテン地方を統一し、次代のソウコウが後を継いで数年で病に倒れ跡目争いに発展。カイテン地方でも人気のありネオ・カイビャクと改め治めるヤスヒサ・ノガミを住民だけでなく将軍も頼り、苦渋の決断の末カイテン地方を接収。
ネオ・カイビャクの一地域としたもののソウビ王に対し尊敬の念を抱いていたのもあってネオ・カイテンと名付けられた。コウテンゲンが未だに広いのは、ネオ・カイテンの意思決定を複数の民族の代表で決めそれをヤスヒサ王へ伝え承認をもらう形式をとっていた名残からだそうだ。
「まったくおとぎばなしのような話です。エルフ族に蜥蜴族、人間族に獣族そして竜人族。それ以外の昆虫族などの少数民族も含めてたった一人の人間族の元結集していたのですから。この状況を見たら嘘だと言われても言い返しようもありません」
ネオ・カイビャクの王になる、それすなわちヤスヒサ・ノガミと同格とみなされる。ノガミ一族以外に誰がその重責を負えるのか、私にはわかりませんとハユルさんはいった。当事者のような感じで話しているような気がしたので、ブリッヂスにもその影響はあるのですかと聞いてみる。
森の中を無言で歩いていると、この先ブリッヂスと書かれた看板の前まで来てしまった。ではここでと告げるとハユルさんは振り返る。
「ブリッヂスを蜥蜴族の悪逆非道の王から取り戻したのもヤスヒサ王です。武そして王の理想として存在し続ける限り、皆そこを目指している。彼が竜族ならまだ諦めもしたでしょうが……」
そう言いかけたところで悲しそうに微笑んで一礼するとブリッヂス方面へ向けて歩きだした。後姿を見送りながら、エルフ族と蜥蜴族の相性以上に大きな波乱の種がこの地にはあるのかもしれないと感じる。すんなり終わってくれるよう祈りながら来た道を戻り始めると、イザナさんが腕を組んで立っていた。
心配だったんですかと問うと鼻で笑われる。偉大なる王と人は言うが、あれは人知を超えた存在だ。最終的には目的を果たすために竜神教を壊滅させ、戦後処理のために王になった。行きがかり上統一してしまったが、欲してのものではない。
ハユルさんとの話を聞いていたかのように、実際にヤスヒサ王に仕えていたイザナさんは教えてくれる。イザナさんたちの話を総合して考えれば、ブリッヂスに統一を欲する者がいるというように聞こえた。思ったままイザナさんに聞いてみるも背を向けて歩き出してしまう。
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