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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第五章 取り戻す道を探して

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この世のものではない者

再び黙って戻り釣り糸を垂らした。こういう時に呑気に寝ていられるイザナさんを羨ましく思う。さっきまでののんびりした空気は一変し、緊張感のある釣りが始まる。なにか釣れた際には急いでイサミさんの前に立たなければならない。神は言っている、お前が泥にまみれろよと。でなければ血の池地獄がはじまるぞと。


一言も発さないイサミさんをちらりと見たが、口元だけ微笑んでいた。目が合わないうちに前を向き代わり映えのしない景色を眺め続ける。時の流れは緩やかで陽はまったく動かない。元の世界ならスマホなりテレビなりパソコンなりがあっただろうけど、ここにそんな素晴らしいものは無かった。


気を抜かずに釣りをし続け陽も傾き無の境地を習得した頃、今度はゆっくりとこちらに近付き沼から上がる時もとても慎重に上がって泥まみれ君は目の前にやってくる。


「勝負しろ」

「は?」


 食い気味のイサミさんによる、は? にビクッとする泥まみれ君。隣にいるこっちに視線を送ってきたが目を逸らす。悪いが命は惜しい。下手に加勢したら間違いなくまた死線を彷徨うことになるだろう。


「お前たちの要求は」

「お前たち?」


「……あなたたちの要求はわかりました。ですがこちらとて生きていくために必要なのです」

「生産性のある仕事をしろ」


 頷き拍手をする他無い。完全論破してしまった。農家の人が畑を耕し作物を生産し、それ以外の者は別の仕事で得たもので作物を購入する。損にならない物々交換でなければ誰が大変な思いをして作物を育てるのか。


他人から奪ったなら自分も奪われる。元の世界よりこの世界ではそれが確実に行われていた。補填するものが無いからと見逃されたりはせず、無いなら家族や身内そして自分自身の命で償わなければならい。


冒険者ギルドの依頼でも、執行に関する依頼は多くある。表のギルドでは穏便な内容だが、解決しなければその多くは裏のギルドに流れる。ここには裏ギルドが無いので交渉結果次第では即最終段階で執行だ。


「こんなことを言うのはなんだが、私たちの住んでいる地域に得体の知れない化け物が現れ、村がいくつも滅ぼされてしまった。生産性のある仕事をしたくてももう」

「お父さん……」


 沼の中から泥まみれ君の小型が五人と女性が一人出てくる。橋の上で強奪を行っていた犯人はこの家族だったのか。誰一人傷つけず物だけ奪うなんて凄い。身体能力に優れた彼らすら敵わないほどの化け物とは一体どんな奴なんだ。


「ならばその化け物とやらを倒せば万事解決となるのだな?」

「お父様、不躾ながら倒したところでいきなり食べ物は生えて来るとは思えませんが」


「そ、それなら大丈夫です。奴らは息をする者動く者に反応するだけで、なにか食べている形跡はありませんでした。昨日見に行ったところ木の実などは沢山残っているのを確認しています」


 奥さんであろう女性は会話のキャッチボールが可能らしい。ようやく目を覚ましたイザナさんはなら問題は解決だといって立ち上がり、早速明日その化け物を見に行くぞと言った。乗り掛かった舟なので解決するしかない。


その日は一旦解散となり、翌日早朝同じ場所で待ち合わせして出発する。聞けば泥まみれ君たちは基本海の中で活動するが、寝たりするのは陸上が多いので村は海辺近くにあるようだ。遠い先祖は海の中だと聞きいて、イザナさんは蜥蜴族の親戚では無いのかとたずねた。


泥まみれ君が長老から聞いた話によると、以前ブリッヂスを治めていた蜥蜴族の王と仲違いになって以降、こちらの方との交流は途絶えたという。イザナさんは顎に手を当てて唸り、なかなか困ったことになるかもしれんと呟く。


修行をしないで勝てるのか不安だが、イザナさんとイサミさんもいるし興は見学だから万が一の時は皆で逃げると確認もし合ったので大丈夫だろう。


「なるほど最悪の展開だ」


 ジャングルの中を歩いていると前方に真っ黒な像のようなものが見えた。遺物なのかと思い近付こうとするとそれは動き出す。地面を滑るように移動し、あっという間に目の前まで来た。どんな攻撃をするのか分からないが、物理攻撃だろうと考え腕を交差させ直撃を防ごうとする。


真っ黒な像はいきなり大きな口のようになり牙を剥いてこちらを噛もうとして来た。噛まれるだろうと考えなんとか頭だけでも守ろうと右腕を上げようとしたが、その前に右横から腕に何かが当たり吹っ飛ばされる。


空振りになった真っ黒な口はまた像の形に戻るとこちらへ向かって来た。今まで見たことが無い敵にどう対処したらいいか分からず混乱し、逃げ出すのが出遅れ先程の同じ距離まで詰められる。今度こそ駄目かと思った瞬間、空間を割り炎が噴き出して像を包み込んだ。


抵抗したりもがき苦しんだりするかと思いきや、電源が切れたかのように止まりそのまま溶けてなくなってしまった。驚きイザナさんに視線を送るも首をすくめられてしまう。炎が収まったところで三鈷剣が出て来たので用心のため装備しておく。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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