沼地の怪物対策
どうやら本気で動かないらしい。多少やったら諦めるかと思いきやずっとしがみ付いている。学校へ行くエルフの子どもたちにも指を差されひそひそ話をされ、エルフの御婦人方にも遠巻きに厳しい視線を送られた。
なんというゴネ力……! 他人の自分に対する奇異なものを見る視線に離れていたが、しがみ付いているお婆さんたちが可哀想になって来て条件付きだが依頼を受けると伝える。その条件は何かと言われたのでイザナさんとイサミさんに手伝ってもらうことだと告げた。
お婆さんたちはイザナさんとイサミさんに凄い速度で近付きしがみ付く。後生だから一生のお願いだからと言うだけでなく、お経のトーンでイザナさんを崇め奉る言葉を口にする御爺さんもいる。結局逃れることも出来ずに三人で討伐に出掛けることになった。
とは言え今は寝ている間にもらったローブと布団の近くにあって拝借したサンダルしかない。防御力がという話をしたところ、お婆さんから良いものがあるから待っていてと言われ待機する。凄い速度で家まで行き、重そうな箱を抱えてあっという間にお婆さんは戻ってきた。
エルフとはという気分になったが、箱を開け取り出して来たシャツとスラックスが魔法糸を使用して編んだものだと聞いて驚く。なんでも近くの森に棲んでいるハイアントスパイダーと協力して試作したもので、魔法に関するダメージを軽減するだけでなく使用にも効果があるらしい。
どうやって効果があると実証されたのかとたずねると、サラティ様のお召し物に代々この方法が用いられていると言う。あの人はダメージや使用時の軽減も関係ない気がするけどなと思ったが黙っておいた。
これをやるからなんとかして欲しいと言われ、なにもないよりマシかと思い早速着てみる。自分用にあつらえた物ではないのでサイズはやはり所々緩かったが、とても着心地がよくて感謝を述べた。御爺さんと御婆さんはにこやかに人間族なのに細いねぇそのお陰で大丈夫だったねぇと言った後、急に真顔になって絶対倒して帰ってくるんだよと念押しして離れる。
圧の凄さに唖然としながらもイザナさんに促され一旦家に戻った。リビングに入るとイサミさんはかまどの薪に火を点け、鉄瓶に水を入れて沸かし始める。皆で席に着くと討伐相手の話が始まった。交易路を塞いでいる怪物は沼の中にいるという。
幾らなんでも沼の中で呼吸は出来ない。なので出没地点の近くで餌を吊り下げ食いつくのを待つ作戦で行くようだ。サイズ的にはどれくらいなのかとたずねたら見たことが無いという。襲われた者の証言はこうだ。
荷物を載せた馬車で沼地に架けられた橋を通ったら着く前に食べ物が無くなっている。漠然とどでかい怪物を想像していたがどうやらちがうようだ。集団で襲い掛かっている可能性もあるとイザナさんは言う。
荷物以外の被害は今のところ出ていないので、犯人も狙いは荷物だけのようだ。まだまだネオ・カイテン周辺も未開地が多く、こちらに迎合していない勢力の可能性は十分考えられる。出来ればもうしばらく様子を見たかったが、このままではおにぎりを食べられないと辛そうな表情で語るイザナさんに大きくイサミさんは頷いた。
心の中で食いしん坊親子と命名し小さく頷いてから装備品はどうするのかたずねる。お前は呪術法衣を纏えないのかとイザナさんに言われ首を傾げた。魔法はと聞かれ使おうと思って使ったことはないと思いますと告げる。
一度だけクロウ・フォン・ラファエルに操られ、それっぽいものを発動した覚えがあるなと思ってつい口から出てしまった。聞いた二人はそうかと言うだけで特に驚いていない。クロウを知っているのかとたずねたら当然だ世界の敵だからなと答える。
この村はクロウによって世界樹を切り倒され、未だに復活の目処は立っていない。ヤスヒサ・ノガミによって退けられたが今もその名前は憎悪と共に残っている。さらりとイザナさんはいうが、世界樹って名前からして凄そうだしそれを斬り倒された被害は甚大だったはずだ。
英雄の名が未だにこの地に根付き大事にされているのは、その甚大な損害を忘れる意味もあるかもしれないなと思った。ぴーっという高い音が部屋の中に響き、イサミさんは席を立ってお茶を入れてくれる。
呪術法衣について改めて説明してくれたが、要はヤスヒサ・ノガミの防具で彼の呪術と気をブレンドして生成した物らしい。残念ながらそういったものはないと答えるとイザナさんは腕を組んで天井を見上げた。
防具に関して不安があるなとは自分も思っていると告げる。イザナさんは見つけた時に防具の類は一切無かったという。エルフが主流のこの村では防具の類もほとんど制作されていないとも話してくれた。
ここは準備のためにブリッヂスへ行くしかないかと言うので何処なのかと聞くと地図を指さした。見ればそう遠くない位置にその名前があるものの、距離の問題が解消されても金銭的な問題が残る。村のツケにするから気にするなと言われ、一抹の不安が残った。
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