町営畑のシカ討伐
「何か思ったより重い仕事になりそうだね」
「ああ……ベアトリス、バックアップを頼む」
畑が見えてくると早速そこにはシカの集団が居た。中でも枝のような角も体も一際デカいシカが、仁王立ちしてこちらを睨んでいる。最早人間如きでは驚かないと言った感じだ。俺は早速盾を背中から下ろして構え、そのまま距離を詰めていく。
そして相手の間合いに入った瞬間頭を下げたので側面に回り込むも、その枝角を薙いで来たので盾で防ぐが吹き飛ばされた。なるほどこれ程なら人間が来ても驚いたりはしないだろう。遠距離武器だったらもう少し驚いたかもしれないが、今回は急に依頼が変更になったのでそうじゃなくて良かった。
「そっちも戦いたいらしいな。だったら気持ちは同じだ」
薙ぎ払いを喰らって吹っ飛んだがダメージ自体は無かったので、地面に足が付くと同時に勢いを殺す為に下がり、完全に無くなったと同時に両手を広げ仁王立ちしてそう告げる。これに対して相手もこちらに向き直り目を座らせた。
「キャン!」
互いに隙を窺いながらどう仕掛けるかと思案していた時、痺れを切らしたのかデカい枝角シカの後ろに居た小さいのがこっちに向かって突撃して来る。一応その動きには注視しているが、互いに互いしか見ていない。
間合いに来た時に対処しようと思い身構えていた。そして間合いに入って来た瞬間、デカい枝角シカも動き出す。俺は頭を下げて向かって来たシカを避けヘッドロックしながら、デカい枝角シカを見る。
こちらが失敗すれば追撃しようとしたようだが、あっさり捕らえられたのを見ると急ブレーキを掛け止まった。中々に狡猾な奴。まぁそうでもなきゃ人間とやり合ってこれる訳ないか。お仕事だから戦うというなら受けて立つが、このデカい枝角シカとはサシで戦ってみたいなと思ってしまう。
そんなに好戦的な人間ではないんだけど、なんかそんな気にさせられてしまった。ニヤリと笑うとデカい枝角シカも鼻で笑ったように見え、身を翻し一人山の方へと帰って行く。ヘッドロックしていたシカは気が付くと抵抗しなくなっていて地面に体を付けた。
他のシカを撃退すべく走り出す。全員逃げるのかと思いきや数匹はこちらへ攻撃をして来る。ベアトリスのフォローもあり何とかそれらを退け、その場には倒したシカ以外は居なくなっていた。
「お疲れ様でしたジン殿。今回の依頼はこれで結構です」
「良かったです。このシカたちはどうしますか?」
「我々の生活に欠かせませんから有難く頂戴いたします。ジン殿への報酬に関しても町長に報告したのちギルドを通してお支払い致しますので、少々お待ちください」
兵士の人たちは手を出さず、終わったと見てシカの処理を始めた。俺に話しかけて来てくれた人は門兵の隊長のようで、知らせを受けてきたようだ。
「申し訳ありません、依頼を出したからにはこちらが手を出しては報酬に問題が出てしまうものですから」
「いえ当然ですよそれは。我々冒険者はその為にいるのです。皆さんは町の有事の為に無事で居てくれなければ」
そう告げると門兵の隊長は笑顔で頷き握手を交わした。それにしてもやはり町の兵士だけあって鎧も兜もお揃いだが良い物装備してるなぁ。金額だけでも結構するのは間違いない。奥様が篭手をあっさり下賜されたのも頷ける。
「装備に興味がおありですか?」
「あ、え!? 申し訳ありませんっ!」
いかんいかん、つい物欲しげに見てしまったようだ。慌てて頭を何度も下げると隊長や他の兵士にも笑われてしまう。
「興味があるのは当然ですよ。我々も最初から兵士ではありませんから。町長が鍛冶師を町で雇ってくれているので、町営の鉱山から取れた鉱石を加工し兵に配布しているのです。ここは国の玄関口の町の一つですから収入も多いから出来るので、他の国から来ると驚く方もおられます」
なるほどなぁやっぱ誰でもこの良い装備を見たら気になるよな、当然だ。そう考え頷いていると急にケツを蹴り上げられた。振り向くとベアトリスが苦笑いしながら立っている。後で怒られる予感。
「ジン殿も気が向いたら是非町の部隊に加入してください。貴殿であれば我々も喜んで迎え入れますよ!」
「ど、どうもです。困ったら……」
是非、と言いかけて慌てて笑って誤魔化す。社交辞令とは言えベアトリスのお兄さんを探す約束をした俺が適当な言葉を言っては駄目だ。依頼書に完了のサインと共に町長への報告後依頼料決定の文言も加えて貰ってギルドへと戻る。
失望されても仕方が無いし怒るのも無理はない。道中ベアトリス様が口を聞いてくれないのでどうやって謝罪したら良いものか考えながらベアトリスの後ろをあるいていると、ギルドの前に着いたところで深い溜息を吐いてからこちらを向き
「ホンッッットしっかりしてよね!」
と何とか口を聞いてくれたので誠心誠意頭を下げ謝罪する。暫くの間、ベアトリスの気が済むまで俺の髪の毛をくしゃくしゃにしてもらうことで、何とかお許しを得た。ギルドの中に入りダンドさんに依頼書を渡してからのんびりお茶を頂いて、心底ホッとする。
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