交易路を遮る者
頑張ったところで二人には遠く及ばず、結局早めに限界を迎える。二人が食べるのを眺めているのもなんなのでお先に失礼して休ませていただく。今後どうするかとか考えながら寝ようとしたが目を閉じて数秒で眠りに就いてしまう。
目を覚ましたのはおい朝飯だぞというイザナさんの声に驚いたからだ。体も重く眠い目をこすりながら布団から出てリビングに移動する。イサミさんも起きていて二人に挨拶をして席に着く。今朝も食事は山盛りの魚のお刺身だった。
日本人だからかお刺身を単体で食べるよりご飯が欲しくなってしまう。二人にお刺身単体でいつも食べているのかと聞いてみたらフォークを置いて手を組んだ。少しの間重苦しい空気がリビングを支配する。
意を決したのかイザナさんとイサミさんは同時に目を開きこちらを見た。なにを言うのか固唾をのんで見守っているこちらに対し、一息吐きこれを食べ終わったら村へ行こうと言われる。どうやら村も関係しているようだ。
イザナさんイサミさんが食べ終えるのを待ってから村へ向かう。爽やかな南風と木漏れ日が気持ち良くてハンモックがあれば寝そべって寝たい気持ちになる。のんびりと村へ向かい辿り着いたが相変わらず人が多い。
丁度朝市が行われているらしく、とれたての魚や野菜に出来立ての料理の呼び込みの声が元気よく行きかっていた。イザナさんは大通りを左へ向かって進んで行く。進むにつれて観光客は減り、村の人たちの住居地帯に入っていった。
ゆるやかな傾斜を登り高台に建つ小屋が見えてくる。玄関の前の階段を上がりドアの前に立つとイザナさんがドアをノックした。中からどうぞと声が掛かりドアを開ける。中にはエルフの御爺さんと御婆さんが三人ずつテーブルを囲むように座っていてこちらに視線が集まった。
イザナさんがおはようと挨拶をすると皆一斉に立ち上がり頭を下げる。なにか困ったことがあるとかとイサミさんが切り出すと、皆さんは一斉にイサミさんではなくイザナさんに駆け寄り懇願し始めた。
南の沼地の交易路に怪物が出て作物が入ってこないので、ネオ・カイテンに陳情したが全く返事が来ない。このままだと備蓄が切れて観光収入が激減してしまうので助けて欲しいと言われる。もう隠居した身なので出しゃばりたくないと言うイザナさんに対し、蜥蜴族もエルフ族も兵士の練兵の精度が低く無駄に犠牲が増えてしまう、どうか今回だけはと泣きついてきた。
辟易した顔でイザナさんはこちらを見る。病み上がりの身なので、怪物は流石にどうにもできないと考え首をすくめる他無い。天井を見上げてからわかった何とかすると請け負ってしまうイザナさん。お爺さんたちはその言葉に歓喜の声を上げて盛り上がった。
どこでも誰か強力な一人に頼るという構図は変わらないもんだなと思いながら見ていたら、急にイザナさんから自己紹介をしろと言われ戸惑いながら自己紹介をする。向こうも同じ感じで戸惑いながら挨拶をしてくれた。
驚いたのはイザナさんの次の発言だ。コイツはヤスヒサ・ノガミの聖剣の後継者だと言い始める。時が止まった後、向こうは大絶叫し腰を抜かしてしまった。大変だとなり椅子に一人ずつイサミさんと座らせる。
お爺さんたちは疑念を声を上げた。そりゃそうだろうこの大陸では大英雄というか神に近い存在として語り継がれている元異世界人のヤスヒサ・ノガミ。彼が残さなかった聖剣を持っているなんて聞いてはいそうですかとはならない。
個人的にあれが聖剣なのかも知らないので同じような気持ちでいる。改めて考えてみるとイザナさんはなぜそれを知っているのだろうかという疑問が出てきた。見た感じイザナさんは自分よりも年下に見える。
たずねようとした時、イザナさんに外に出て剣を出して見ろと言われた。その前に聞きたいことがと言うも後にしろと言われ渋々外に出る。あの剣を出す方法ってどうするんだっけと思いながら右手を掲げ、剣よ来いと念じた。
すると昨夜のように空間を割り炎が噴き出し、収まると鍔が爪のように上下に出ている剣が露になりその握りを掴んだ。炎は一体どんな効果があるんだろうかと思いながら剣を見ていると、家の方から絶叫が上がりお爺さんたちが駆け寄ってくる。
なにが起こったんだと思って周囲を見渡していたら足元にしがみ付いて来た。訳がわからず両手を上げて落ち着くよう言うも全く効果無し。イザナさんとイサミさんに助けを求めたいが家の中から出てこない。
出てくるまでにだいぶ時間を要した上に、これで問題無いだろうと言い出す始末。なにが問題無いのかさっぱりわからない。説明を求めるとお前が問題を解決しろと言い出した。要領を得ないので説明を求めたが、御婆さんたちが遮るように是非とも助けて欲しいと泣きついてくる。
病み上がりなんですけどと言うとでしたら回復してからでいいのでと譲らない。お爺さんたちも抱き着いて来て受けると言わなければ動かないぞと言い始めた。
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