闇へのあこがれ
「……暗闇の夜明けの誰を知ってるんだ? 出まかせを言うな」
どうやらチョビ髭は暗闇の夜明けに対して思い入れがあるようだ。調べればわかることだがと前置きした上で、リーダーであるシンラとシャイネン西にあったエルフの村で起きた暴走事件を解決したと話す。
他には誰を知っていると聞かれ、テオドールはじめ出会ったメンバーの特徴含めて言っていくとチョビ髭の顔が青ざめていく。言い終えたところで彼は唾を飲み込んでから急いで外へ出ていった。嘘は言ってないが、この大陸で暗闇の夜明けに関して正しいと判定できる人間がいるのだろうか。
暗闇の夜明けは竜神教から魔法を解放し世に伝えるため活動している。ネオ・カイビャク領の現体制崩しを考えてる連中からすれば、あこがれのようなものがあるのかもしれない。師匠やニコ様が仕切る国で負けても立ち向かう。
シンラたちに夢を見てもおかしくはないだろう。実際は師匠はあちこち移動してるしニコ様はシャイネンから動けない。さらにティーオ司祭が裏で糸を引いていたプラスこの世界の神まで居るのだから、こちらで行動を起こすのとは訳が違うと思っている。
生意気を言わせてもらえばこないだまで稽古を付けてくれた師匠の状態でももちろん強いが、こないだ組手をしたサラティ様はさらに一つ上をいく強さだ。二人が本気を出したら星が砕けてしまうかもしれない。サラティ様があくまでも皆での統治を望んでいるから大人しいのであって、本気で威圧されたら生き残れる者は限られてしまうだろう。
夢を見るだけなら良いが、実行に移した際に多くの命と引き換えになる可能性が高いものを見逃す訳にはいかない。まだ来たばかりとは言えこの国の一般人が犠牲になるのは避けたいところだ。なにを確認しに出て行ったか後を付けたい衝動をぐっと堪えて待った。
だいぶ待たされ眠くなりかけたところでやっとチョビ髭が椅子を二つ持って戻ってくる。神妙な面持ちで椅子に座り、こちらにも椅子を進めてきた。特に抵抗する気も今は無いので向かい合って座る。
空気の重さが気になったのか、急に今日の天気について話し始めたのでこけそうになった。雑談をだらだら始める彼の意図がわからない。適当に相槌を打ち時間が過ぎていくとドアがノックされる。
入ってきたのはチリウ隊員で時間ですと告げた。大きく息を吐いて椅子から立ち上がり、もう行っていいと言われる。首を傾げながら席を立ち外へ出かけたところで、お前の目的はなんだとチョビ髭に問われた。正直に言うわけにもいかないので、この国の真実を見に来たと相手が気に入りそうな答えをしてみる。
すると彼はそうかと短く答えたのみで話はそれ以上なかったためその場を後にした。クニウスとおっさんに関してチリウ隊員にたずねたところ、酔っぱらって話にならない状態なのでとっくに外へ放り出されたらしい。留置しておかないのかと聞くも、泥酔している酔っ払いなんて朝起きたら何も覚えていないし重罪人でもないのでと言われる。
それも確かにそうかと思いながら連行された治安維持部隊の詰め所を後にした。少し離れたところで大きく息を吐く。今回の収穫は大きい。貧困街で現体制転覆のための仕掛けをしている人間が複数いることがわかったし、チョビ髭の後ろに何者かが居ると分かったのだから。
貧困街で蠢く者たちの目もあるので、今後サラティ様に真正面から接触するのはなんとか避けたいところだ。明日は適当な用を見つけて謁見しこのことを彼女に相談してみよう。夜空を見上げながら帰路に就いた。
特に後も付けられずにエリート宿に着くと、なんともう正面入り口が仕舞っており裏手に回る。広く無い路地を歩いていたところで前から男が二人歩いて来た。酔っ払いではなく例の屋敷で見た男と同じように目以外を布で隠している。
明らかに怪しい二人組に対しどうしようか迷っている内に通り過ぎてしまった。急いで振り返るもそこには居らず、気配を探ると気を抑えながら速いスピードで南へ逃げている。夜でもそれなりに人通りがあるので居てもおかしくはないんだろうが、あの格好でうろちょろしたらあからさまだろうにと思いながらエリート宿の裏手に来て驚いた。
小火が起こっていたのだ。彼らからしたら見られたくないところを見られてしまったと思っただろう。こちらを襲わなかったのは、二人のうち一人はひょっとしてあのおんぼろ屋敷にいたやつなのかもしれない。
考察している場合じゃないと気付き急いで煙の下へ行くべく塀を乗り越える。中庭のようになっていたところに生えている大き目な樹に火が付いており、直ぐに消そうと試みたが誰かに見られているのを考慮し、入口に移動して物陰に隠れながら戸を叩いた。
おやじさんが出て来てくれたものの、あっさり犯人と間違えられ殴りかかって来られる。まぁ事情を説明してないからそうなるよな、と思いつつなんとか攻撃を避けてサラさんが来てくれるのを待つ。やがてサラさんも来てくれて、正面からこっちに来たら火がついてたんですと告げると話はあとでと言われ消火活動を始めるべく宿の中へ手招きされる。
中へ入ると急いで鎧などを脱いでシャツとスラックスの身になり、誰かに見られてもすっとぼけられるような状態になった。用心のためさらに近くに遭った手拭いを頭に撒き、サラさんが用意したバケツを持って消火活動を開始した。
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