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不穏な気配

「キキャァ!」


 蹴られて飛んで行った巨大リスは、地面にどさっと落ちると同時に回転を始めた。少し下がってからこちらへ転がりながら向かってくる。


ベアトリスに狙いを変えたのか少し角度を曲げたのを見て、急いで駆け寄り軽く押して離すと盾を構えて前に出た。


近付いて来る巨大リスを見ていた時、先ほどぶつかったことが頭を過ぎる。このまま受ければ跳ね返って何度も来るだろうし、あれをずっと受けていては手が痺れてしまう。


どうしたら良いかと考えた結果、盾を地面に突き刺せば少し痺れが軽減されるのでは思い、素早く行動に移した。巨大リスの速度が速く盾が若干斜めに突き刺さってしまい、急いで身を屈めたところ相手は盾の上を転がり、そのまま飛び越えて行く。


「ジン! 後ろ!」


 間一髪助かったとホッとしたのも束の間、ベアトリスの切羽詰まった声が聞こえてくる。急いで振り向いたところ巨大リスは飛んだ先の木にぶつかったが、その反動を利用しこちらへと飛んできた。


急いで盾を引き抜き一撃目を防ぐも、相手は跳弾のようにあちこちの木に当り、攻撃の手を緩めない。このままでは一方的に攻撃され続け、やがて盾を持つことも叶わなくなってしまう。


ならば一か八かタイミングを合わせ、今ある唯一の武器である拳を叩き込もうと考える。篭手もあるし上手くいけば怪我無く倒せるはずだ。


「南無三!」


 相手の動きを見ながら盾で防ぎつつ、ここだと思ったところで巨大リス目掛け全力で拳を突き出す。運良く相手を捕えることに成功し、パンッという破裂音と共に木へ向かって飛んで行く。


二本目の木を倒せずそのまま地面に落ちたので、急いで確認しに行くと地面に倒れ込みノビていた。攻撃を受けても怪我は何故かなく、本当にただ巨大になったリスなのか疑問を抱く。


自分もベアトリスも確かめられるような知識が無いため、急いでバロワさんを呼んで確認してもらう。バロワさんは倒れている巨大リスに近付き目を見た上で、気絶しているのは間違いないと確認してくれる。


ここから先は依頼主であるバロワさんの判断になるが、縛り上げてギルドへ連行しますかと問うも、様子を見たいと言った。元々森は動物のものでそこを切り開いたのは自分たちなのだから、命を奪うのは気が引けるという。


「手に負えないと判断したらまた依頼を出すよ」


 巨大リスは縛ったままバロワさんに預けて終了となり、依頼完了のサインを貰いギルドへ戻ることにする。歩きながら先ほどまで戦っていた、あの巨大リスの凶暴化がとても気になっていた。


リスは元来ああいう生き物ではないと思うし、巨大リスが凶暴性があるなら依頼に凶暴化した、などとは書かないはずだ。凶暴化の原因が何かはわからないが、考えられるとすれば洗脳じゃないだろうか。


魔法によるものなのか、はたまた獣使いみたいなのによるものなのかは分からない。巨大リスの様子からして、脳の機能を制限し無理やり襲うよう仕向けられたように見え、獣使いに逸れは無理だろうと思う。


もう一つの魔法についてだが、こちらに来てまだ日が浅いものの、魔法が浸透しているような世界では無く、誰もが気軽に使えるものではない。


聞けば魔法を使えるのは竜神教とか言う宗教とその施設に限られ、使用者も関係者だけというのは間違いないのだろうか。


新たな疑問を解消するにはどうしたものかと考えたが、今頼れるのはミレーユさんしかいないとなり、依頼書を出す際に相談してみると専門家を紹介すると言ってくれる。


「こちらとしてもこの件に関しては、ギルドだけでなく上とも情報共有しておくわ。変な話にならなければ良いんだけど」


 依頼を出された時から違和感は彼女も感じていたが、具体的な面が分からなかったので助かったと言われた。一応討伐の際の報告書が欲しいと言われたので、紙とペンを借りテーブルで急いで記し、書き終わり提出すると今回の報酬五十ゴールドを受け取る。


二人で分けた後で外の日時計を見るとまだお昼過ぎだったので、昼食を取りながらもう一件こなせそうな依頼を探そうとなり、ミレーユさんから依頼書の束をもらい席に着く。


ベアトリスは依頼を終えてから機嫌がよくニコニコしていた。恐らく巨大リスの攻撃をカットしたことで自信を回復したのだろう。


調子が上がってきたのは良いことだが、まだ冒険者業を始めて間もない。なるべく強敵ではない依頼を探そうとしていたところ、野生のシカの群れが畑を荒らしているので追い払って欲しい、という依頼を見つける。


料金としては追い払うだけなので二十五ゴールドと安いが、ベアトリスがさらに自信を付けるにはもってこいの依頼だと思い、彼女に相談すると怪訝な顔をした。


「ひょっとして気遣ってる?」

「少しだけね。ただそれだけじゃなく、俺もさっきの依頼でミスしたからさ。調子に乗らないように体のチェックをしようと思って、なるべく軽めのを受けて見た」


 ベアトリスのためではあるものの、自分がミスしたのも事実だ。殺意を向けられることには慣れているが、今回のは異質だったからか恐れが生まれたと考えている。


 自分は育ちが良くなく親がおらず、ある場所に小さい頃に捨てられた。甘えが一切許されない生きるためのサバイバル環境に突然放り込まれる。


背が高くないため幾度となく標的にされかけたが、立ち向かい牙を剥くことで回避していた時期もあった。結果としてエスカレートしていき、殺意を向けられることが多くなったので慣れてしまった。


元々手をこちらから出した訳ではないが、喧嘩にならないよう逃げることに方針を変更する。思えば先生に足が早いことを褒められていたなと気付き、最初からこうしておけば良かったと反省した。


改めて引くべき時は引くということをしっかり念頭に置き、前のめりになり過ぎてはいけないと戒める。


 過去のことを色々振り返っているうちに、異世界に来て自分の体ではないのではと思うほど、調子が良いことに気付く。前は風邪を引きやすく事前に察知し予防を徹底していたし、三十半ばということもあってか徐々に衰えは感じていた。


それがここまで全くない。先ほどの遅さも浮足立っているのではなく、自分と体のズレが生んだものだとしたら、と思うと空恐ろしい。体に関しては誰かに相談する訳にも行かないので、窮地に陥ってしまう前に、そのズレを調整したいと思う。


異世界転生物にありがちな死んでも生き返る、が自分にも適用されるとは考えにくい。帰れる可能性も分からないし、セカンドチャンスとして与えられたとすれば尚更死ねない。


「まぁ次も私がフォローしてあげるからさ!」

「頼りにしてるよ? 俺はおっさんだからベアトリスより鈍いし」


「はいはい」


 何か適当な感じで返事をされてしまったが、今のベアトリスならしっかりフォローしてくれるだろう。こちらもベアトリスをいつでもフォロー出来るよう気を付けよう。


気合を入れ直しシカ討伐を受けるべくカウンターに向かい、依頼書を受け取ると早速町の南西にある出入り口へ出発する。


町の中なのであっという間に着き、近くにいた兵士に声を掛けた。今回の依頼は町からの依頼だったので、門兵が案内してくれ現場である町営の畑に移動する。


道すがら依頼の話を聞いてみたところ、シカの群れを追い払う際にボスシカが出てくると思われるので、それに対しても攻撃して欲しいと言われた。


攻撃をするとなると畑で戦闘になってしまう可能性があり、そうなると作物等に影響が出かねないが良いのかと聞くと、仕方が無いと答える。


仮に戦闘になった場合、ギルドにプラスして払ってもいいと上から許可が下りたという。


読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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