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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第五章 取り戻す道を探して

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毒の仲介人

「おやお若いの、ここになんのご用かね?」


 あまりきょろきょろうろうろしていると目立つと考え、噴水から少し離れた路地にあった空き箱の上に腰かけ周りを眺めていた。通り過ぎる人は誰もが生気がない顔をしている。ここから這い出るのを諦めたのか受け入れたのだろう。


見ているとこちらまで気を吸い取られそうな気がして空を眺めていたら、もじゃっとした頭の御爺さんに声を掛けられた。見ると突いていた杖も着ているねずみ色のローブもそしてサンダルも、さっきまで見ていた人たちとは違い少しばかり綺麗で良いものだ。


「初めてこの町に来たんですが仕事にありつけなくて」


 苦笑いしつつそう嘆いてから溜息を吐く。直ぐではなく間を置いて声を掛けて来たが、初めて見る者が来ると噂になり早く回るのだろうか。お爺さんは隣の少し低い箱に腰かけて前を見る。こちらからあれこれ聞くと怪しまれるので同じように前を見ていた。


しばらくして御爺さんから色々聞いてくる。出身はどこかと問われた際には生まれはこっちだが記憶があるのはシャイネン領だ答え、冒険者ランクはいくつかと聞かれた時にはブロンズだと答える。冒険者証の提示を求められたが、明日の仕事を優先的にしてもらえないかとギルド員に泣きついて強引に冒険者証を渡して来たのでないと答えた。


少し間を空けてから御爺さんは腕に覚えがあるかとたずねてくる。直ぐに答えても良かったが、それではあまりにも素直すぎると考え、先ほどから問われてばかりだがあなたは何者ですかと聞いてみる。


御爺さんは問いに対して答えずひとしきり笑った後で立ち上がった。ワシについて来れば稼がせてやるぞと言って歩き出す。見ない顔で装備はそれなりであれば人手として不足無しとみて声を掛けて来たのかな。


答えを知るべくお爺さんの後に続いて行くと、あちこちから草木が生えている家にたどり着いた。門は右側が下の部分だけ僅かに残っている状態で、そこをまたいで中に入る。雑草が生い茂っていたがそれを掻き分けて玄関まで行く。


杖で三回玄関のドアをお爺さんが叩くと中から人が出てきた。目以外は布を巻いて隠し黒のタンクトップにダボっとしたズボンに草履をはいた怪しい男は、顎で中に入るよう促す。家の中に入ると陽の光以外無い薄暗い状態で、ガラス片や壊れた家具などが散乱していた。


奥まで進むと恐らくリビングだったであろう場所に着き、そこに死んだ魚のような目をした老若男女が隙間なく集まっていて視線がこちらに集まる。目以外顔を隠した男は彼らを掻き分け奥へ行き、皆彼に注目した。


ギルドではなくある貴族からの依頼として、各自二十ゴールドを渡すので食堂などで飲み食いして来いと彼はいう。当然ざわつく一同に対しさらに付け加える。食事をするときは二人一組で食べ、現体制に対する不満を言い続けてくれればそれでいい、と。


場にいた皆はそんなこと頼まれなくてもするぜと言って大盛り上がりする。そのうちの一人がここに居ない家族が通る声だから連れて行きたいというと、ここに居なくても問題無いと一人注目を集める男は言った。順番にお金を受け取り次第早速実行してくれとなり、我先にとお金をもらいに彼に手を出して行く。


最後に残ると怪しまれると考え他の者を押し退けて受け取ろうと前に出る。流れ作業のようにお金を渡していたのでお金を受け取ろうとしたが、男は一人一人用心深く見ていた。しっかり見られてぼろが出るとまずいと考え、なるべく顔が出ないように手を出しなんとかお金を受け取ることに成功する。


 なにごともなく無事屋敷を出たがお爺さんは見当たらない。御礼を言いたいので出てくるのを待つべく少し離れたところに座っていたが、最後までお爺さんは出てこなかった。今度会った時にでもお礼を言おうと考え貧困街から出て行く。丁度出たところでクニウスを見掛け食事に誘ってみる。


どうしたと言われたので耳を貸せと言ってさっきあった出来事を耳打ちした。するとそれは良いなと言って二人で近くにあった飲み屋に入る。ビールとベーコンをカリッカリに焼いた物を先ず頼み、それを食べながら現体制への不満を口にした。


クニウスは盛り上がりデカい声で喋り出す。さすがにやり過ぎだろうと思ったが、近くに居たお世辞にも綺麗とは言えない格好の無精ひげのおじさんまで乗り出し、飲み屋全体を巻き込んでいく。やがて外から治安維持部隊が入って来て、クニウスと無精ひげのおじさんと共に連行された。


チリウ隊員たちは連行されて来たのを見て驚いたものの、直ぐに他の兵士から引き取り別の部屋に連れて行く。部屋でチリウ隊員たちに耳を貸してもらい貧困街で受けた仕事だと言うと驚いた。というのもここ最近この手の件で連れてこられる人間が増えたかららしい。


着実に毒を染み込ませ始めているのかと感心していると見覚えのあるやつが中に入ってくる。例のチョビ髭だった。治安維持部隊でもないのになぜこんなところにいるのかと訝しんでいると、チリウ隊員たちに出て行くよう告げる。


部屋に二人きりになったところでチョビ髭はお前の企みはなんだと聞いて来た。なにを言っているのかさっぱりわからないというと殴りかかってくる。覆気(マスキング)をして拳を受けると痛がって拳を引っ込めた。


このまま行くと貧困街での調査に支障がでるなと考え、あくまで竜神教に対して不満がある者として演じようと思い立つ。早速チョビ髭に対し今の体制にお前は不満はないのかと問うと鼻で笑う。ここで深く突っ込んでも答えないだろうからこちらの話を続ける。


シャイネン領でも竜神教に対して不満の声があると語ったついでに暗闇の夜明けの話をした途端、チョビ髭の顔が一瞬にして真面目な顔になった。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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