貧困街へ
リベン新名物ハーブクッキーについての話を興味深く聞いていた時、受付の方でベルが鳴った。お客さんかなと言ってサラさんは席を立つ。護衛がてらついて行ってみたところ、受付にはモヒカン刈りでいかつい顔にガタイのいい革の鎧を着たおじさんが立っている。
目付きが鋭いので喧嘩かと思ってサラさんの前に出ようとしたところ、おじさんが掴みかかってきた。
「てめぇうちの可愛い娘に何してんだコラァ!?」
どうやらサラさんのお父さんらしい。あまりの圧とインパクトに目を瞑ってしまい、一歩下がってしまったところにサラさんが割って入ってくれて、事情を説明してくれた。するとおじさんは一息吐いて落ち着いてくれたようで、ほっと胸をなでおろす。
食ってかかってきた理由をおじさんが教えてくれて納得した。最近宿に嫌がらせをしに来る者がいるらしく、その一味かと思って掴みかかり怒鳴ったようだ。相手に心当たりはあるのか聞いてみたがサラさんもおやじさんも一瞬黙り込む。
少し間をおいてから想像でしかないがと前置きした上で、サラさんが始めようとしている事業について好ましく思っていない連中かもしれないとおやじさんは言った。どうやら先ほどサラさんが話してくれたお店の場所は、貧困街の一角を買い取って始めようとしていたとも教えてくれる。
鍛えてもらう条件と引き換えにサラティ様に頼まれたことだったが、親切にしてくれたサラさんが危ない目に遭っているとなれば解決しなければならない。宿にいる間は嫌がらせを受けたらすっ飛んで行くが、居ない間どうするか。
ふと外へ視線を向けた時、チリウ隊員と幼馴染の三人が通りかかった。流石に警護しろとは言えないしなにか別のことで宿に来る切っ掛けはないだろうかと考える。そういえばさっきサラさんに試食させてもらったクッキーがあると思い、サラさんに試食相手は欲しくないかとたずねたら欲しいと答えた。
ならばと急いで宿を出て呼び止め手招きする。少し戸惑ったものの、チリウ隊員たちは駆け足で宿の前まで来てくれた。なにか御用でしょうかと聞かれたので、試食を手伝って欲しいと言う。当然戸惑ったが、食べて感想を言ってくれるだけでいいからと頼むと顔を見合った後頷く。
早速サラさんにさっきのクッキーを持って来てもらい、四人に一つずつ渡す。試食と聞いて躊躇っていたが一口食べるとその後は一気に口の中に入れた。しっかり噛んで飲み込んだ後立ち尽くす四人。さらに四人にボウルを出し良ければとサラさんが言うと、我先にとクッキーに手を伸ばしてくる。
あっという間に完食しごちそうさまでしたと四人は頭を下げた。味の感想はとたずねたら美味しいと元気よく言う。まだ初めて食べたから詳しい感想は難しいだろう、良ければ毎日決まった時間ではなく時間をばらけて来て欲しいと頼んでみる。
チリウ隊員たちはタダで御馳走になるのは、と恐縮したがしっかり感想を教えてくれれば良いし、商品化した時は是非宣伝して欲しいと言うと喜んで協力させて頂きますと言った。突然の流れに驚いているサラさんとおじさんに、彼らが一日一回必ず来てくれたらいやがらせする連中を遠ざけられるかもと耳打ちする。二人はこの作戦に同意してくれ、是非今後も宜しくと四人に言った。
四人は喜び一礼して去っていく。こんな試作品で良いのかというサラさんに対し、彼らは町の維持を頑張っているのが給料が安いので、是非美味しい試作品を食べさせてあげて下さいとお願いする。一応これで居ない時に関する現時点で打てる手は打った。
どれだけ時間を稼げるかわからないがその間になんとか解決まで辿り着きたい。根本的な向こうの資金力も不明だが、貴族というだけあってこちらよりは豊富だろう。長期戦になれば勝ち目はないしこちらの時間切れが先になる恐れもある。
貧困へ糸引く人物をなんとか見つけないとなと決意も新たにし、早速サラさんたちに貧困街の顔役がいないかを聞いてみた。すると顔役かどうかは不明だが、毎朝貧困街の広場に仕事を斡旋する人物が来ると聞いたことがあるという。
各ギルドのブロンズ級の依頼は競争になっていて、昼前には無くなってしまうらしい。貧困街に住む人たちは早々に諦めてその人物の斡旋する仕事をこなしている人間が多いようだ。夕方や夜にもひょっとすると仕事の斡旋をしているかもしれないと聞き、フルドラとシシリーの面倒を頼んで早速貧困街へと向かってみる。
町の南口付近まで来ると狭い路地に入り西を目指して進む。わかりやすい感じで道が荒れ始め、普通に真っ直ぐ歩くことも困難になるくらいにゴミか私物かわからないものがあちこちに置かれていた。恐らく家の中も凄いことになってるだろうなぁと思う家の間を進み、やっと通路を抜けたと思ったらガラの悪い人物たちがたむろする水の出ない噴水がある広場に出る。
凄い注目を浴びてしまったが何事もなかったかのように通り過ぎていく。着てるものを新調してなかったのが良いのか悪いのか特に絡まれなかった。
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