時と星を渡る人
間仕切りが取り払われて周囲を見ると皆の視線を集めていた。愛想笑いをしながら後頭部を擦って会釈するものの、全員に視線を逸らされる。参ったなぁまだなにもしてないのに注目を集めてしまった。とりあえずどうしようかと皆と相談する。
「よっ! 坊ちゃん嬢ちゃんご機嫌如何ですかねぇ」
ひそひそ話があちこちでされる中、大きな声でこちらに声を掛けつつわざと音を立てるように椅子を引きずりながらこちらにくる人物がいた。テンガロンハットを目深にかぶりボロイ緑のポンチョにウェスタンブーツ。
背中には日本刀と思しきものを背負っている。こちらのテーブルまで来ると椅子を丁寧に置き、座る前に後方の人たちに対して咳払いをしてから座った。テンガロンハットを親指で弾くと不精髭を生やした四十前半くらいの男がニカッと歯を見せて笑う。
「皆さん初めまして! 俺ぁクニウスっていう冒険者だ。ここは初めてみたいだな!」
自己紹介をするとがっはっはと大きな声で笑った。周囲は蜘蛛の子を散らすように居なくなっていき、後ろを振り返って確認するとクニウスは肩をすくめた。わかっていると思うがと前置きした上で、冒険者家業というのは元々生き馬の目を抜くような職業だ、誰もがランクを上げたくて命を削っているのに自分の都合で降格して欲しいなんていうもんじゃないとたしなめられる。
向こうで御金を貯めてから来たり目的が別にあるとは言え、ここで生きる人たちの気持ちを考えていない発言だったと思い知らされた。バツが悪くて苦笑いしながら謝罪すると今後気を付ければ良いと笑顔で肩を叩きながら言われる。
「なにしてんのアンタは!」
釣られて笑顔になりかけたところでクニウスの顔が縦に潰れて顔が固まった。背後からサッカーボールくらいの球体を思い切り頭に叩き付けられたようだ。叩き付けた主を見たら革の軽鎧にブーツ、白のシャツと赤いスカートを身に付け、ピンク髪をツインテールにした童顔垂れ目の少女が立っている。手に持っている杖で強打したようだが、とてもそんなパワーの持ち主には見えない。
「なんで叩くんだパルヴァ」
「なんでじゃないわよ……初対面の入り方が可笑しいのよ毎度毎度! いつまでお坊ちゃま気分でいるつもり!?」
「お坊ちゃまこんな挨拶しなくね? ……あっぶね!」
シングルのマットレスくらいの範囲内で攻防戦が開始され、なにがなにやらわからず終わるまで観戦する。攻撃をする方も避ける方も只者じゃないのは見ればわかった。急に殺気がこちらに向いて杖が振り下ろされる。
覆気を右手に全開全集中し、一瞬触れて勢いを殺し直ぐに受け止めた。通常ならこの方法である程度軽減されるが全く軽減されずにダイレクトに衝撃が伝わる。あの体でこの怪力はイカサマもいいところだ!
歯を食いしばりながら椅子から立ち上がりながら押し返す。パルヴァと呼ばれた少女は涼しい顔をしてこちらを見下ろしている。どこかの大魔王かなにかか!? と思いながらもなんとか押し返して立ち上がった。
「流石ゴールドランクね……あ、こっちだとシルバーだっけ?」
なんとか驚かせようと気を放出し右手にさらに集めて押すも今度はびくともしない。エレミアとシシリーが援護しようと動いたが、クニウスがそれを遮る。しばらく押し合っていれば終わるかと思いきや、相手は止める様子がまったくない。
なんの力が働いてるのかわからないがこのままではじり貧だ。まさか修行のせいかをいきなり出す羽目になるとは思わなかったが、そんなことを言っている場合じゃない。素早く側面に回り込み脇腹に一撃入れて止めようとするも、最短最速で体をこちらに向け両手握りから左手握りに変え杖を突き出して来た。
避けて踏み込むがこちらから見て右横へ体を捻りながら思いきり薙いでくる。ギリギリ避けたが風切り音が尋常ではない。あの細い腕でそれを可能にする方法があるとすれば、魔法以外にないだろう。杖がそのキーなのかもしれないと考えがら空きのボディより握る手に拳を突き出す。
ただそれは当然のように狙われていた。空いていた右手は小さな魔法陣を掴みながら振り被っている。ギリギリ不死鳥騎士団の盾を取り右手を防いだが追撃で蹴りを入れられてしまい距離を取られた。
「まぁまぁってところね。これで修業後となるとだいぶ厳しいけど」
「そうか? 俺から見たらそうでもないと思うがなぁ。パルヴァは昔から厳しすぎんだよ」
「失敗しても死なないならアンタのように甘いことも言えるけど、この子死ぬじゃないそんなんだと」
「今回はちっとばかし条件が厳しいか」
短い戦いだったがそれだけでこっちは汗だくで肩で息をするレベルだってのに、パルヴァは涼しい顔してよくわからない会話をクニウスとしている。膝に手をつきながら息を整え気を回復させようとしていると誰かが腰に触れた。
見るとフルドラが心配そうな顔をしている。正直参った。あんな厳しい修行を積んだのにあっさり無かったことにされてしまったかのような敗北を喫してしまったのだから。
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