出発の日
ポンチョの下は白いシャツに可愛い刺繍のされたベスト、赤の短めのスカートにスリムなハーフパンツそして茶色の綺麗なブーツを履いていた。エレミアさんも納得の出来でようやくフードから解放されたのもあってかご機嫌である。
エマさんにお礼を言った後にしばらくこの大陸を離れる旨を告げた。涙ぐみながら頷きエレミアとシシリーにハグをして別れを惜しむ。必ず元気で帰ってくるのよと涙声で送り出されエマさんの店を離れる。
帰り道に船での移動を想定して乾燥食品と水を大量に買い込み宿に戻ってリュックに詰めた。宿の親父さんや食堂の人たちにもしばらくこの大陸を離れることを告げお礼を述べる。だいぶ長い間滞在させてもらったのもあってか皆別れを惜しんでくれて、今夜は特別にシャイネンの美味しいものをたくさん出すと言ってもらった。
食堂のテーブルにはたくさんの料理が並び、宿も締め送迎会が開かれ夜遅くまで賑やかに過ごす。この世界に来て多くの人に囲まれる機会が増えた。人の嫌なところは多く見て来たしこっちでも見ているが、それでも人の温かさに触れることで人が嫌いにならずにいられる。
向こうではあくまで取引相手でありこっちの商品を買ってもらうための攻略対象でしかなかった。物をもらうのはお断りをするがこちらは差し上げるそれも相手が恩に着るように上手く促しながら。毎日毎日相手よりも精神的なアドバンテージをいくら稼げるかということに終始していた気がする。
自分の話はせず相手に話をさせ、会社に残るため生きるために自分はあくまで心地よく話を聞いてくれる人間に徹した。ここに来る前には社歴が長くなっていて、新人に取引先を譲るよう言われ人の良い担当の会社を譲った。だがすぐに苦情が来て謝罪に向かう。
到着した取引先の会社では上司の指示で交代したとは言えず、謝らない新人の隣で頭を下げ続ける。会社に帰れば上司から譲る相手を考えろと言われ、新人にはなぜちゃんと教えてくれないのかと文句を言われた。ちゃんと取引先の性格からなにから書いたメモを見せた際、くれというからあげたのにそれも忘れてどこかでなくしたと不貞腐れながら言っていたが上手くやれてるだろうか。
翌朝、宿の皆さんに見送られながら城へと向かう。城でいつも通り受付を済ませ、近くのお店でシャイネンの朝の光景をのんびり眺めながらお茶をする。行きかう人々は誰もかれもが生き生きしているわけではない。
世界が変わっても、誰にとっても朝が気持ちのいいものではないというのは変わらないんだなと思う。自分も今や転生という夢から覚め、この世界の人間としての朝を迎えた。朝から昼へ向かい、不可侵領域に辿り着いた時は夜を迎える。
思惑が交差する夜で何が起こるのかはわからないが、またこの気怠い朝を迎えたいなと願いながらぼーっとしていると人だかりができた。見ればリベリさんと竜騎士団が目の前に並んでいる。
案の定頭をはたかれそのまま連行されていく。今回に関しては受付さんが悪いのではなく、シャイネンを離れるのでのんびり町を見たかっただけだと言ったが無視された。最上階に着くと投げ捨てられやっと解放される。
師匠やニコ様、シスターにDr.ヘレナがソファに座っていてこちらを見ると立ち上がった。お待たせして申し訳ありませんと立ち上がって頭を下げると、迎えに行ったリベリと入れ違いだったからこっちが悪いと師匠は言う。
「皆さんおはようございます」
今回はニコ様によって例の球体が呼び出され光を放ち、それが収まると輪っかになるよう黒髪を左右で結わいた女性が微笑んで挨拶した。こちらも挨拶すると頷き早速今日の旅程について説明が始まる……と思いきや改めてこちらの身元の確認が始まった。
とはいえ詳しいものは誰もないが、ここひと月の生活態度などが報告されサラティ様は頷く。
「ゲンシ、報告ご苦労様です。以前聞いていた功績からさらに積み上げてくるとは思っていませんでした。受け入れに関してはなんの問題もないどころか是非来て頂きたいです」
またしても過大評価されてる気がしたので、皆の協力と運によるものですと訂正させてもらうとニコ様はこちらを見て口を手で覆った。どうやら口答え厳禁らしいので失礼しましたと頭を下げる。サラティ様は可愛らしく笑ったてから謙虚なのも宜しいと言われてちょっと照れてしまった。
ノガミを統べる女性と聞いているが見た目も表情も可愛くてギャップがある。師匠の姉であるから恐ろしく強いのだろうから油断は禁物だし軽口をきかないよう気を付けないといけない。
「ではDr.ヘレナ、陣の準備を」
「はい、姫様」
Dr.ヘレナはサラティ様の指示を受け部屋の中央に移動し右手人差し指をかざす。先が青白く輝いてから地面に二重の円を描き、その間に文字とも記号ともつかないものを描いていく。それが終わると円の中へと促され皆で移動する。
「待ちなさい」
円に入るとサラティ様から少し強めに言われて驚いた。なにか持ってちゃいけないものとか持ってたかと思い体を触る。
「ジン、あなたではありません。ティアナ、なぜあなたが円の中にいるのです?」
見ると後ろに隠れるようにしてシスターが居た。空笑いをして誤魔化そうとするも、サラティ様から出るように促される。それでもどかないシスターに対して師匠やニコ様がどかそうと腕を引っ張るがこらえた。
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