表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第四章 光を探して

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

233/616

少しの別れ

なにか買って行こうかと思ったが具体的にこれというものはなく、なんとなく歩いているとエレミアからニナ手芸専門店へ行っても良いかと聞かれたのでどうぞと答える。そういえば捕縛ミッションの報酬でエレミアたちの服を新調したんだったと思い出す。


町を出て集落へ向かいニナ手芸専門店の前まで来る。相変わらず賑やかで女性が多い。今回は遠慮すると告げるとエレミアはフルドラの手を引いてシシリーと共に中へと入って行った。賞金全額二人の服に使ったが、フルドラの分も作れたとしたらラッキーだなと思いつつ、御店の壁に寄りかかりながら待つ。


こういう時は大抵誰かが近寄ってくるのは鉄板と言っても過言ではない。


「見つけたぞジン・サガラ……!」


 どこかで聞いた覚えのあるちょっと高めでしゃがれた声がした。こちらが声のする方向を見ようとした動きに合わせて殺気がこもった得物を突き出して来る。半身で避けた時に凝った装飾の黒いショートソードが見えた。


的確にこちらの致命傷を狙い剣を振るう以前襲い掛かってきた人物。ローブの色や竜騎士団(セフィロト)の発言から暗闇の夜明けの一員であるのは間違いない。太刀筋も鋭く並みの使い手ではないのもわかるが、ブラゴ卿やウィーゼルにガイゼルましてやテオドールなどよりも純粋で真っ直ぐ淀みないものだった。


なぜそんな人物が暗闇の夜明けに加入しているのか気になる。人が多いのであまり広く使わないように不死鳥騎士団の盾を取り出し捌きながら動く。しばらく冷静に動きながら捌き続けていたが、動きがつかめて来たので足を止める。


師匠たちとのあのコウキ山での地獄の修行の成果もあり、相手の速さに素早く慣れピントが合いそれに対して最小限の回避をするために体を素早く動かせた。


「おのれ!」


 相手は周りなどお構いなしに攻めてくる。最初の方は盾で弾いていたが、慣れると避けた次いでに剣腹を盾で押し流れを変えた。どうしても逃げられない戦いならこの押しは正しい。だが自分から仕掛けてきた戦いなら引くべきだろう。


完全に相手の間合いに入れているのに一太刀も浴びせられない上に無傷なのは、生かされているからだ。丁度先日あった稽古時の自分のように。相手はそれもわからないほど未熟なのか。振り下ろしを盾を出して受け、空いている右拳で相手の剣を握る手を強打する。


短い悲鳴と共に相手の左手が離れたのを見て素早く残っている手を掴み、盾で剣を流しながら背負い投げを放った。地面に叩き付ける前に手を離したので相手は不格好ながらも受け身を取り転がる。ちょっと修行の成果が試せてうれしい反面、若年者相手にマウントを取るようなおっさんにはなりたくないので自制した。


「お前の相手は今日までだ。シンラにも言っておいたが用があってネオ・カイビャクに行ってくるから帰ってくるまで元気でやれよ?」

「逃げる気か!?」


「もちろん」


 周りは笑っているがおじさんは大真面目だ。彼が負けたと認めないなら負けてないのだろうし、こちらは負けたと言わせる気も無いし戦えないので逃げたと言われても仕方がない。周りの評価は周りの人がするものなので訂正はしないが。


相手は間があった後おもむろにフードを取る。現れたのは白髪で顔中に紋様のある幼い顔立ちの少年だった。シンラやその妹と同じような紋様なので同じ部族出身なのだとすれば、暗闇の夜明けに入っているのも不思議ではないだろう。


「覚えておけジン・サガラ! お前はこの俺が必ず倒してやる!」

「名前は?」


「お前に名乗る名など……いや、名乗ってやる! 俺の名はバンショウ、お前を倒す者の名だ!」

「そっか、バン。元気でな、また会おう」


「なれなれしくバンて呼ぶな!」


 最初は威勢が良かったが、最後は歯を剥き出しにして唸り声をあげ去っていった。一時的とはいえシンラを再起不能にしたのだから弟なり親族なら恨まれても仕方がないだろう。絶対的な強さとカリスマのある見た目もカッコいい兄が、おっさんにやられたら悔しいだろうし……自分で言ってて悲しいけど。


切り替えるために両手を上げて観衆に向けてポーズをとると歓声が上がる。集落の人たちは喧嘩になれているようで、拍手をした後日常生活に戻って行った。町と違いここには塀が無い。なにか起これば真っ先に襲撃に遭うし、実際遭っているのだろう。


今までの生活で心構えと言うか切り替えというかが備わっているんだと思った。集落の人々のの強さは町の人たちにはないだろうなと考えながら店の壁に寄りかかる。


「おまたせ!」


 のんびりぼーっと人の流れを見ていたらエレミアの声が聞こえたので視線を向ける。するとお揃いの真っ赤なポンチョを着て立っていた。エレミアは蝶の刺繍が細かくされ、シシリーは花でフルドラは急だったのか刺繍はない。


聞けば余った素材をエマさんが至急仕立ててくれたという。代金を払おうとするともうエレミアから貰ったと言われた。例のエルフの村の解決金五百ゴールドから出したらしい。おっさんがくたびれた格好をしてても誰も怪しまないが、女性陣とお子様がそうだと怪しまれるので問題ないというと笑った。


笑った理由は最初俺にもポンチョみたいなものを作ろうとしたが、色々思案している時に出した絵が変で思い出し笑いしたらしい。代わりにお風呂場でくれた物を買ってくれたようだ。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ