ネオ・カイビャクを作りし王
「……普通に起こしてもらえませんかね」
疲れていたせいか気配に気付かず、自然と目が覚め開けるとベッドを囲んでこちらを見下ろす人たちが居た。最初お化けか夢かと思ってびくっとなったが、見覚えのある人たちが瞬きしたので胸をなでおろす。それにしても何故か無表情で見ていてこわいんだが。一つ息を吐いて上半身を起こしても瞬き以外動かない。
唯一欠席していたシシリーが扉の方から来て肩に座ると部屋を出て行った。シシリーにあれは何かの儀式なのかと問うと、女の恨み的な? とわからんことをいう。ベアトリスにエレミア、シスターだけでなくニコ様やミアハにDr.ヘレナまで居たのに女の恨みとか言われても承服しかねる。
なにか妙なことが起きないのを祈りつつベッドから出て着替え、部屋を出た。フルドラが部屋のすぐ横にいて挨拶をする。今さっきのことをフルドラにも聞いてみるも首を傾げるだけだった。ぐっすり寝たせいなのか足元がおぼつかない。
シシリーとフルドラはこちらを見ると顔色が悪いという。自分の体に力を入れてみるもいまいち入りが悪い。ふと森が頭を過ぎり、ちょっと散歩に行ってくると告げて受付まで移動する。親父さんにもその旨を伝え町を出て集落を超えて森に来た。
まだ朝露が残る森の空気は新鮮で深呼吸だけで癒される。ついて来てくれたシシリーとフルドラに元気な木はどれか、とたずねるとここの辺りは皆元気だという。一つから全て吸い取ると枯れてしまう恐れがあるので、少しずつ吸気を行い分けてもらっていく。
だいぶ深くまで進んでようやく二人から顔色が良くなったと言われ吸気を終了し町に戻るべく引き返す。変身するとかなり生命エネルギーを持っていかれるな、と思ったと同時に昨日のことも思い出し、シシリーに注意した。
なら別の笛を買ってくれと言うので、いいけど笛にはまったのかと聞くとどうやら何故か上手く吹けるのではまったらしい。前世の記憶とか? と聞くも首を傾げるだけだった。妖精はまた生まれてくるらしいが、必ずしも記憶を引き継いでいるわけでは無いらしい。
森の中を歩いている内に気分的にも回復し気力が湧き上がってくるのがわかる。今後ネオ・カイビャクへ行って森が無かったらどうしようと呟くとフルドラが心配無いよと言った。エルフの村にはネオ・カイビャクから流れてくる反竜神教エルフが多く来て、あっちの話をよく聞いたそうだ。
以前荒野だったところや砂漠も、ヤスヒサ・ノガミによって緑地計画が行われたという。魔法などを使用してあっという間に回復したらしい。緑地化によりネオ・カイビャクは多民族国家として一時期壊滅的だった人口を回復し、また英雄を戴く国として民族を超えてネオ・カイビャクに誇りを持っていると聞いて驚く。
ネオ・カイビャクに対する誇り故に他国の同民族と喧嘩になったりする場合もあると聞き、どうやって統治しそうした国民性に持って行けたのか気になった。血でも民族でも国に誇りを持てるなんて凄いとしか言いようがない。
戦いばかりに目がいってしまったが、統治の面でも偉大な功績を残したからこそまるで神のように崇められるのだろうな、とフルドラの話を聞いて思った。自分は御免被りたいが異世界を渡り歩いた先輩として今のところ尊敬している。
のんびり散歩しながら宿に戻り食堂へ行って三人で朝食を食べることにした。シシリーはフルーツをフルドラはこないだのリゾットを注文する。聞くと二人とも森を散歩して回復したので空腹を満たすというより栄養を補給するために食事をすると言う。
自分も御腹が空いたという感じじゃないなと思い、お肉と野菜だけ食べることにした。今は通常モードだから普通の人間なはずだけど、変身の影響で人間離れしてきたのかな。まぁもうそろそろ有利期間も終わるらしいしこれくらいのアドバンテージは有難く頂いておこう。
ひょっとすると人間離れしたところで普通ってこともありえなくはない。ネオ・カイビャクはあのノガミ一族が多くいる場所だ。有利期間終了した自分が無事不可侵領域へ辿り着けるのだろうか。段々不安になってきた。
残り二週間弱、師匠に改めて鍛えてもらって戦いに備えよう。しっかり噛んで食事を終え三人で城へ向かうべく宿を出る。宿屋の親父さん曰く、エレミアたちは揃って無言で宿を出たらしいので城にいるだろう。
毎度の受付でのやり取りを終え町に出て、ちょっとお高めのフルーツ屋さんでパフェを食べる。完食間近で外を走る兄弟子を見掛け手を振った。すると鬼の形相でこっちに向かって来て店内に入ると頭を叩かれる。
いい加減ちゃんと受付に説明しろと言われながら引きずられ城に行く。最上階に移動すると師匠含め全員揃っていた。そして今日の午後から山籠もり修行に出発すると告げられる。パワーダウン前にその差を縮めるための修行が始まると思うと楽しみ半分恐怖半分だ。
何しろ前回鍛えてもらった時は短かったが生きた心地がしなかった。今回はあれより厳しいだろう。
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