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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第四章 光を探して

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前を向く方法について

釣られて笑いはしたものの、個人的には楽観視できない。何しろ喧嘩の経験があるくらいで武術の嗜みがあった訳ではないからだ。しかも年齢は三十五と、冷静に考えれば今まで相手を圧倒出来たのは先生の加護によるチートがあったからこそだと思っている。


無くなる前になんとしてでも同じくらいの戦闘力を保てるようにしておかなければ。先生がわざわざそれを宣告しに来てくれたのも、なんとかしてみせろってことだろうし無駄にしない為にも出来るだけ頑張りたい。


こちらの不安をわかってくれたのか師匠は直ぐに仕事を片付けて出発しようと言ってくれた。二週間でどれだけ埋められるかはわからないが、もう一度なんの技も持たなかった頃に立ち返り奮起しよう。黙って待っているのは失礼だと考え師匠の仕事を手伝おうとして立ち上がると下の階から誰かが上がってくる。


見ればニコ様とシスターだった。二人とも久し振りに会うが少し疲れているように見える。魔法書の紛失の件や司祭の件もあるから仕方ない。二人に対して元気に挨拶すると笑顔で二人は答えてくれた。


師匠から褒美として二週間ほど稽古を付けてくるから後を頼むと言われたニコ様は黙って頷く。仕事をしていた方が気が紛れると師匠が付け加えると小さい声でそうねと答える。母親であるニコ様にはなんとなく司祭がもう止まらないことがわかっているのかもしれない。


そして彼を止めるには完膚なきまで叩き潰すしかないというのも。司祭が何の手も無しに師匠やニコ様に反旗を翻すとは思えない。ひょっとするともう師匠を超える力を得ている可能性だってある。今まではシンラを念頭に置いてきたが、さらに上の存在として司祭を考えなければならない。


クロウだって現時点でどう動くのかわかっていないのだから、不安要素が多くて頭が痛くなる。どうすべきかと思っているとふいに袖を掴まれた。見るとシスターが微笑んでいる。出会った頃と違い力なく笑うシスター。


手を握るととても冷たい。仕事も多く心労が解消されない影響で冷えているに違いない。これではいけないと思い師匠に提案してみる。国を救った褒美として師匠一家と暫く修行のため山に籠るというものに変更して貰えないかと。


厳しいと言われたが、この国にだって優秀な人たちはいるし何より替えが効かない人が多すぎてはいざという時に困るのではと言ってみる。シャイネンの人々にとってもいい勉強になるのではと告げると、師匠やニコ様は答えない。


答えを待っている間にタイミング良くリベリさんが上がって来て、提案した件について意見を求めると是非そうするべきだと言ってくれた。長期間は流石に難しいがたかだか二週間も堪えられないような貧弱な態勢ではないはずですとも言い、師匠たちに提案を受け入れるよう促してくれた。


しばらく間があった後、師匠から一日考えさせてほしいと言われ、これ以上押すと断られかねないと判断しシスターの手を引いて一度部屋から出る。リベリさんは俺に任せておけと言って城を出て行った。


 とても頼りになる兄弟子に感謝しつつ、シスターと一緒に久し振りに散歩をすることにする。色々なお店を見て歩き時には商品を手に取り話し掛けるも、終始無言のままだった。元気で騒がしいシスターがここまで落ち込んでしまうとは。歩き続けていたが一息つくため町中のベンチに座る。


一緒にいない間の話を面白おかしくしてみたが反応は薄い。一朝一夕でどうなるわけではないだろうけど、少しでも元気を取り戻して欲しいと諦めずにトライし続ける。あまたを悩ませながら話題を探しつつ話をしていたら突然誰かが前に止まった。


なにかと思ってみようとした瞬間、足が飛んで来る。身を屈め左腕を立て右手で抑えて防御するもベンチから転げ落ちた。シスターがジン! と叫ぶのが聞こえこちらに駆けてくる。反応してくれたのは良かったが誰がこんなことを。


「人がいない間になにイチャイチャしてんだこらぁ!」


 腰に手を当てて仁王立ちする赤いショートヘアで切れ長の目の綺麗な顔をした少女がいた。皮の軽鎧にスカートを履いている。スカート履いて人を蹴るとか何考えてんだコイツ……ってなんでここにいるんだ!?


「ベアトリス!? なんでここに!?」

「なんでって司祭に手紙を持って行ってくれって頼まれたからよ! それよりなにしてんの!? 許せない!」


 歯を剥き出しにして掴みかかってくるベアトリス。今はそれどころじゃないので振り払おうとするも組み付いて来る。しばらく攻防を繰り返していると急に手を止めベアトリスはシスターを見た。そういえば二人は何故か会うとよく喧嘩していたなぁと思い出す。


「おい」


 容赦なくベアトリスの蹴りが飛んだがシスターは力なく横へ倒れた。それを見てベアトリスはシスターの胸倉をつかんで立ち上がらせる。色々あったことを説明しようと近付くと手で制止されてしまった。


「アンタなにしてんの? こういう時は何があろうと立ち向かってくるのがお約束でしょう? 何があったか知らないけど、何があっても変わらないことがあるのは大事なのよ!?」


 シスターになにかあったのはベアトリスだって見てわかったのだろう。それでも二人の間で毎回必ずあるやり取りをすることで、いつも通りになれるかもしれないと思ってやったんだとわかる。おじさん不覚にも涙がでそう。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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