光のエルフ
「まだ行くか?」
「ああ頼む」
記憶が終わり元の視界を取り戻すとシンラに抱えられていた。見るのも辛いし見る必要がない記憶かもしれない。だが苦しみ誰にも知られることなく無念の死を遂げた人々の想いを、一人でも知っていれば心から安らかな眠りをと願いながら弔える。
自分が同じ立場ならそう思うという、ただの自己満足な面もあった。吸気をしているせいで満足に攻撃ができず、シンラの足を引っ張っている。相手の体は小さくなり攻撃力は下がっているが、体力も早さも下がっている気がしない。
それでも吸気を続ける。確証はないが吸気することで、あの巨人に取り込まれたであろうエルフたちの魂を空に帰せるんじゃないか、と思ったからだ。
「オオオオオオオ!」
今度ははっきりと叫ぶ言葉とわかる。吸気を繰り返した結果、巨人の体はこちらと同じくらいまで小さくなった。相対して見ると光の巨人状態でははっきりとしなかった顔かたちが、今は明確になる。
村長とは違う、三十前くらいのほうれい線ができ始め頃の顔立ちのエルフだった。吸気を繰り返す中で村長の記憶は出てこなかったので、恐らく最後まであそこに残るという意思表示だろう。
「どうする? まだ吸気とやらを続けるか?」
「いや、もう十分だろう……ケリをつける!」
構えはしたものの、精神状態はかなり危険だと自分でも認識している。辿り着いた場所は同じでも、一人一人絶望も憎しみも悲しみも悔いも違う。見るだけでなくエルフたちの心も伝わってきていた。気は生命エネルギーであり生きる力そのものだ。
生きる力を失い自死を遂げる人は、総じて気を発しないから通り過ぎてもわからないと司祭はいつだか言っていた。エルフたちの最後を見続けた者として、なんとか彼らのためにもと気を張ろうとしたが出てこない。光のエルフがこちらに攻撃を仕掛けて来ているのが見えるが、手に力が入らず立ち尽くす。
拳が顔に迫ってきて直撃かと思った瞬間、自然に腕が上がり交差して攻撃を受け止めさらに足に力が入り踏ん張ったお陰で攻撃を弾き返していた。驚き腕や足を見ると、うすぼんやりとした多くの手が俺の腕と足を支えている。自分の不甲斐なさを恥じ大きな声を上げると、丹田からマグマのような熱い気が溢れて体を包んだ。
「行くぞ!」
前屈みになり地面を蹴り、弾き返して距離が離れた光のエルフとの間を一気に詰めた。今度は向こうが腕を交差させて頭を隠しこちらからの攻撃に備える。脇腹を強打した方が良いのかもしれないが、あえて腕を強打した。
ゴン! という音が鳴り遅れて光のエルフのうめき声が聞こえて距離が離れていく。見るとこちらが弾き返した距離よりも短い。サイズは小さくなったが防御力はまだまだ高いのままなのだろうか。もう一度攻撃を仕掛けようと動くと相手も動いて来た。
今度はスピードを見ようとけん制の拳を素早く繰り出してみる。下がったり体を半身にしたりとこちらの動きにはついて来ていたが、反撃してこない。さらに回転を上げて距離も詰めると嫌がり組み付いて来た。
急いで飛び退くとお構いなしに追って来た。何か変だ……攻撃を受けるのを嫌がっている? それなら逃げれば良いと思ったが、霧があって逃げられない。時間を稼いでも好転する材料はないだろうから、ここは長引かせずに止めを刺そう。
「気を付けろジン・サガラ!」
拳に気を凝縮し顔面に叩き込むべく突き出しあと少しで接触、というところで姿が消えた。組み付こうとしているのかと思い下を見たがそこにもいない。左右を見るとなんと右の方へ走っている。最初からこちらと素直に交戦する気はなかったのか。
シンラが光のエルフの後を飛びながら追い、その後に続くべく走り出した。光の巨人があたりを壊したとはいえ瓦礫はまだ残っていたり地面が隆起していたりと見晴らしはよくない。それでも向かう先はこの村なら一つしかないのは明らかだ。
迷わず走り追いつくとやはり村長の屋敷下へ飛び込んで行く。エルフたちの記憶を見ているので足がすくむが、そうも言ってられないので覚悟を決めて飛び込もうと飛び上がる。
「やめておけ。この下はよほど悪趣味な奴以外下りたところで精神が持たん。俺ですらな」
いつまでも下へ行かないので上を見たらシンラがおり、襟をつかまれていて体が浮いていた。追わなければ何をしてくるかわからないというも、隠している余裕はないので今度こそすべてを出すだろうから好きにさせろという。このまま切り札を隠したままではアイツも寝覚めが悪いだろう、と言いながら少し離れたところに移動し下ろしてくれた。
「ジン!」
離れた位置からシンラと共に光のエルフが戻ってくるのを待っていると、後方から久し振りに聞く声がした。振り返るとシシリーが凄い速度で突っ込んで来て顔に覆い被さる。お母さんが居なくて寂しかった? と聞くのでそうだね寂しかったねと言いながら顔から離す。さらに後ろからエレミアがフルドラの手を引いてこちらに駆けてきた。
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