過去の権利を求めた果て
エルフの子どもを肩車し覆気してから風神拳を放つ。なるべくエルフの子どもが落ちないように放ったが、ひっくり返ってしまったので背中でぽんと跳ね上げ元に戻す。覆気をした時に肩車してる子の気に触れたが、通常の生物の気を発していないのがわかった。
確証はないがこの子がこの霧を発生させているんじゃないだろうか。声も霧から聞こえた声と似ている。思い返せばこの村に最初に来た時から子どもを一切見ていない。今このタイミングを見計らったかのように出て来たのには理由があるはずだ。
霧を発生させてこの村を閉じ込めたのは、村長たちが他の町を襲撃しようとしたのを抑えるのが目的だったのかもしれない。あの光の巨人が先陣を切り村長たち改造エルフが後に続けば、シャイネン以外の国なら何とかなった可能性はある。
「あいつの弱点とか知らないか?」
「……アイツはエルフの命を吸い込んで出来た魔人。その数だけ潰せば消えるよ」
肩車の体勢から前に倒れて来て視線を合わせる。しっかり目を合わせてみたら無表情に見えるその目の奥には涙が溜まっているように見えた。ならここはおじさんの出番だろうな。
「なぁ君、何て名前?」
「名前? 何故?」
「君、なんて呼び続けるのは変だからさ。名前を出来たら教えて欲しいんだ。俺の名前はジン・サガラ」
「……フルドラ」
「フルドラ、この霧を晴らすか二人だけこの村に通して貰えないか?」
「誰?」
「あのデカいのを黙らせるにはちょっと骨が折れそうなんだ。今の相棒は嫌な奴だが死なせるなら一対一での勝負でケリを付けたい。だからエレミアと妖精のシシリーっていう二人の女の子がこの辺に居るから連れて来てほしい」
「妖精……その二人が来れば倒せる?」
「任せてくれ」
微笑んで言うと、フルドは元の姿勢に戻ると背中から降りて後ろへ走って行った。完全に居なくなったのを見計らってかシンラが横に来る。
「随分と長い話し合いだったな」
「そうか? だがギルドとは関係なくあのデカいのをぶっ潰す意味が見つかったのは良かった」
「意味?」
「俺は冒険者である前に、子どもを助けるおじさんだからさ」
「……なら精々頑張ることだな。奴はこの間にもエネルギーをチャージした。あの子どもの話通りならさっき落ちた村長たちの命の取り込みが完了したというところだろう」
「せめて思い残さないよう全力で立ち向かって欲しいな……絶対に塵も残させない」
「同感だ!」
お互いに力を放出し纏うと光の巨人に突っ込んで行く。光の巨人はこちらに対してビームを放ちけん制したが直ぐに止め拳を構え繰り出して来た。速度はそうでもないがこちらより何倍も大きいので動く範囲がつかめず少し当たって吹き飛ばされる。
地面に当たってバウンドして戻るかと考えていたが、シンラが急いで駆け寄ってくれて手を掴み放り投げてくれた。その勢いをかりて頭突きを巨人の顔面に叩き込む。背後からシンラが来たので巨人の注意を上に向けさせるべく、風神拳を放ち上へ移動した。
口を向けこちらにビームを打とうとした巨人に対しシンラが拳に黒い気を纏わせ強打する。みると背中からこうもりの羽を生やし浮遊していた。それにしてもあのシンラが気のコントロールも出来るのかと驚きながらも、この方法で痛い目に遭ったのなら習得してもおかしくないなと納得する。気を操る力をシンラが修得したなら早いとここっちも新しい技を習得しないと。
新しい技について考えていた時にある技が頭を過ぎった。光の巨人と交戦しながら不意を突いてその背中に触れ
「吸気!」
叫んでみると巨人は叫び声を上げながら凄い速度で距離を取る。以前これをやって暴走したが、司祭ほど強くないだろうし暴走してもコイツに向かっていくだけは出来るだろう。そう考えていたところで急に頭にエルフの村の風景や人々が流れてくる。
女性や子どもたちが笑顔で楽しそうな村から一人二人と消えていき、例の地下室へと画は移動していく。嘔吐しながらも進み一番奥になんとか辿り着き、そこにあった扉を開けると笑顔だった人々の無残な姿があり、その景色を見て悲鳴を上げた。
恐らく巨人に吸収されたエルフの誰かの記憶の一つだろう。他人が見たもの感じたものをダイレクトに転送され、吐き気が襲ってくる。地面に着地するも態勢を崩しよろけた。シンラが急いで駆け付け腕を掴んでくれなかったら倒れていただろう。
「大丈夫か?」
「ああ……悪いがフォローを頼む。もう少しあれをやってデカブツの力を削ぎたい」
「無理はするな」
「殺したい相手に言う台詞じゃないだろう」
「自分の手で殺したいからな」
そう言うとシンラは俺を連れて巨人の近くまで移動する。気は進まないが絶対に倒すためにはこの方法しか今は思いつかない。巨人は吸気後、確実に少し縮んでいた。こちらの動きに気付いて振り払おうと襲い掛かる巨人。
シンラはそれを読んで避け、俺を放り投げる。今度は右肩に触れて吸気を発動。頭の中に流れてくるのは暖かな陽の光に小さな女の子の姉妹の笑顔。夜になり村長に村のためだと姉妹は連れて行かれ、泣き崩れたが泣き疲れたあとで探しに家を出た。村長の家に忍び込み、地下室を発見する……その後は一緒だ。
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