改造エルフたち
「ただの冒険者ではないと言うことか……!」
「ゴールドランクなんだからこれくらいの芸当出来て当たり前だろ」
「前に別件で依頼した時に来たゴールドランクの狩人はそんな力はなかったぞ! お前のような人間が冒険者にいるとは計算違いだ」
ゴールドランクの狩人と聞いて、ヨシズミ国の元ゴールドランクで今は引退しギルドの守護騎士になっているヤマナンさんを思い出した。ヤマナンさんが弱いとは思えないので違うかもと思いつつ、来たゴールドランクの狩人はこんな力はなくとも凄かったんじゃないか? と話を振ってみる。
するとその狩人は人間族の男で魔法を感知する力も無く、地下についても嗅ぎ付けられる心配がないのをいいことに、依頼が終わった後もしばらく都合よく使っていたとニヤリとしながら村長は言う。ゴールドランクの冒険者自体数が少なく、ヤマナンさんは確か魔法感知に関して自分で鈍いと言っていた気がするからヤマナンさんかもしれない。確信を得るべく名前をたずねたが、人間族の名前など覚えていられるかと吐き捨てられてしまった。
使える人間族だとわかった村長たちは村をあげてもてなし、留まるよう仕向け家も与え一か月くらい過ぎたある日、地下から実験体が逃げ出た。自分たちでも対処出来たが人間の最高ランクの力を試すには良い機会だとなり、村長たちは討伐を頼んだ。しかし狩人は討伐に失敗し、背中に傷を負って帰ってくる。実験体にすら勝てないようでは大したことはないので追い返してやったと笑いながら語る。
彼らの中で人間族の冒険者の力量はそんなもんだとされ今回も冒険者ギルドに依頼した。異変を解決させるのではなく、あっちだこっちだ言って動かし霧を操るものを引っ張り出させ、出て来たところを冒険者もろとも処分としていたらしい。
しかし最初のやり取りや地下を見られた形跡があったので、用心のために二人のうち一人を始末しようとしてこの家に誘導することに決めた。そして泳がせ今に至るという。
まさかヤマナンさんが冒険者としての最後の仕事をした村にくるとは思ってなかったな。これも何かの縁かもしれない。いつかヨシズミ国に戻った時の土産話、そして笑い話にするためにもこいつらをぎゃふんと言わせてやる。
エルフたちもやる気満々らしいのでここは誰か一人残して事情を聞くのがいいだろう。狭い中で一対多数。普通ならタコ殴りになる展開だが果たして向こうにどれくらいの能力があるのか。
「皆で袋叩きにしようって魂胆だったんだろうが残念だったな」
「くっ……生意気な下等生物め!」
睨み付けて覆気を拳に集中させて右拳を突き出す。彼らからしたら魔法に見える覆気を見た上に、先程自分たちの攻撃を弾かれたこともあってか危機感を感じ全員あとずさり始める。このまま逃がすと事情が聴けなくなってしまうのは不味いと考え、こちらから攻撃を仕掛けた。
案の定村長を護るように村人たちは立ち塞がる。正面に居たエルフの男性を吹き飛ばすべく殴りかかると、こちらの拳を受け止めるため突き出した手は甲殻のようなものに変化していた。他のエルフも次々に腕や肩など一部が甲殻のようなものに変化する。
さっき攻撃を受けた時の衝撃からして、エルフとは思えないほどパワーが段違いだった。まさかとは思うがここに元々住んでいた村人すらも実験体にしていたのか? よくそんなことをされても村長について行こうとするなぁと感心してしまうし、そこまでして力を手に入れ再度支配したいのかと呆れてしまう。
拳を掴まれたが開いている左拳で相手の腕を強打し拳を放させる。この男性の場合左腕だけ甲殻に変化していたようで、ボディに拳を叩き込むと腹を抱えて膝を付き突っ伏した。後ろにいたエルフが次々に襲い掛かってくるが、甲殻化していない部分を攻撃し機能停止させていく。
「ば、馬鹿なっ……たかが人間族に!」
「実験体に逃げられたって話だけどさ、その実験体って本当はかなり強力なやつだったんじゃないのか?」
「廃棄処分にしようとしていた程度の実験体が強いなど有り得ん!」
「ガイラがそうなら勘違いだ。アイツこの前相対したけど倒しきれない化け物だったぞ?」
「嘘だ……あんな出来損ないがそんな強力なわけがない。基本になる体が元々病弱だったが故にあちこちからパーツを繋ぎ合わせ、腐りかけの世界樹の樹皮で補強したような奴が……」
ひょっとしたらシグマリンが強化したかもしれないが、ガイラが強かったのは嘘ではない。村長は目を見開いたまま膝を付きうつむいた。抵抗する気もないようなので常備している縄で縛り上げようと近付く。
あと一歩というところで地面が揺れ出した。やがて床に亀裂が走り不快な臭いが湧きだして来る。建物が倒壊するかもと思い村長を連れて出ようとして手を伸ばした瞬間、村長が居た床が壊れ落ちていってしまった。
あっという間に暗闇に飲み込まれどうすることも出来ずその場を後にする。屋敷を出るも地震は収まらない。一体何が起きているのかと思いつつシンラを探すため走り出す。
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