西北のエルフの村へ向けて
気合の入った二人と共に明日から依頼のために出発するべく、野宿対策のアイテムや薬草などの買い出しに向かう。雑貨屋で買い込み領収書をたくさん発行してもらいギルドへ戻って提出する。ある時に出しておかないと依頼途中で噴出してしまった場合経費にならないからだ。
受付嬢は何も言わずハンコを押し、買い込んだ品と値段を書いた紙にハンコを押してこちらに渡す。依頼完了後の支払いになると言われ同意しギルドを出た。余計なものは買い込んでいないがあっさり許可が下りて驚く。
エレミアが言うにはゴールドランク自体が少ない上に特別依頼だからだろうという。こんなところでもめたりつめたりしても意味が無いし、ギルドとしては依頼をこなしてくれないと困るからだろうなと思った。
何しろ指名での依頼だし……確認対応ってズルい言葉だよなぁと思いながら三人でお昼も食べたお店で夕食を取る。明日西北への移動はどうするのかという話になった時、町の西出口に馬車乗り場があると受付嬢から聞いたとエレミアが言う。
シャイネンの馬車乗り場では、商人たちが相乗りする者を探しているとも聞いたらしい。料金は通常の馬車に乗るよりも安いが、自分の身は自分で護るシステムのようだ。少しでも稼ぎたい商人らしいなと思ったが、個人的に商人に対して良い思い出は無いし経費なので通常の方法で行こうと提案し、二人も経費だから良いかと同意してくれて決まり宿に戻る。
翌朝、食堂が開くと同時に朝食を食べて宿を出た。馬車乗り場に向かうと十台もの馬車が停まっていたが、並んでいる人も二、三十人ほどいる。最後尾を確認してから並んで少し経った時、前の方から相乗り希望者はこっちへ! と叫ぶ声が聞こえた。
ぞろぞろとその声の方へ進んで行くので自分たちは列の横へ出ると、後から来た人も皆そちらへ移動する。しばらくすると馬車乗り場に停まっていた馬車もあっというまに移動して行った人たちを乗せて居なくなってしまう。
呆然としていたところにシルクハットを被りタキシードを着たチョビ髭のおじさんが声を掛けて来る。相乗り希望? と聞いて来たので違うと答えると今時珍しいねと言われた。最近は景気が良くなくて、馬車屋も配送の依頼のついでに相乗りで出るのがほとんどだと教えてくれる。
相乗りがいまいちなら馬を駆りて行った方がいいと言われるも、場所を言うと驚き相乗りでもそれは難しいと苦笑しながら言った。西北のエルフの村周辺は最近特に妙な事件が多発していてエルフですら近寄らないという。
「おや、あなた方は」
馬車は諦めて馬を借りに行こうとすると一台の馬車が横に来て停まる。見れば例のンデロ兄弟を雇っていた商人さんとその馭者さんだった。その節はどうもと挨拶されたのでこちらこそと一礼する。なにか困りごとですかと聞かれたが、嫌な予感がしたのでなんでもないですと答え、ではまたと言って去った。
「どうしたの? ジン」
「なんか悪い予感がして仕方ない」
具体的な理由はないが、またなにか起こる気がしてならない。自分の直感は信頼している。二人も了承してくれたようで並んで歩きながら馬屋を探す。あともう少しで馬屋というところでまた馬車が横に来た。
無視するのもなんなので見ると、やはりあの商人さんと馭者さんが笑顔でこちらを見て会釈するので同じようにして返す。なんとか去ってくれると良いんだけどと思いながら歩いていたが、西北の方角へ行かれるのですかとたずねてきた。
さっきのおじさんが話したのだろうが、相乗りは希望していないのでお気になさらずと先に断る。商人さんは間髪入れず、あなたには恩があるので相乗りでなどと言いません! と力を込めて言った。ちょっと込み入った事情があるのでと再度断るも大丈夫です! と食い気味で力強く言い放つ。なにが大丈夫なのかまったく理解出来ない。
こちらの理由も俺の直感なので理屈ではないから面倒だ。エレミアはここまでいうなら乗せてもらったらと言い出し、商人さんも是非にと乗っかってくる。どうしたものかと思っていると、いつのまにか手にDr.ヘレナから手芸専門店でもらった魔法のカップが出ていた。
「あの、お近づきのしるしに一杯どうぞ」
「え、あ、こりゃどうも」
そりゃ突然カップをだされて渡されたら驚くよなと思いつつ渡す。渡す前は何も入っていない状態だったが、商人さんが手に持つとあっという間に何かが満たされていた。首を傾げながらカップに口を付けて飲んだ瞬間、目を丸くし吹き出す。
「な、なんですかこれは!?」
「どんな味でしたか?」
「どんな味って、例えるなら泥水のような味です!」
飲んだことあるんかなと思いつつ、シシリーとエレミアを手招きし二人にもらった経緯とあのカップの効果を話すとムッとした顔をしながら頭をはたかれた。あの時二人に黙って渡したからだと思い出し頭を何度も下げる。
「申し訳ありません、では失礼ついでにお世話になりますわ」
上品な感じで答えるエレミア。引き止めようとするもシシリーに耳打ちされた。相手にこちらを貶めようとする気があるなら、乗って今のうちに叩いておいた方がいいんじゃないか、と。なるほどと思い、すいませんお世話になりますと言いながら馬車に乗り込んだ。
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