ゴールドランク特別依頼書
ランクを上げたくて受けた依頼の方が少ないし、今はヨシズミ国を離れてシャイネンで活動している。捕縛ミッションに関してはたまたま被害者の依頼で護衛をしていた件から派生した。運よく捕らえられたその一回でゴールドにされるのは理不尽だ、と自分は思っている。
半分くらい言いかけて止め、シシリーとエレミアに馬をなだめるようにどーどー言われながらラウンジに移動した。受付嬢に抗議したところで彼女に何の責任も無いし八つ当たりになる。これからどうするか考えないといけない。
元の世界では運が良かったことがあるとすれば三十五歳まで生き延びれたことだ。懸賞にあたったこともないし宝くじも毎回残念賞しかなかった。あと一日遅ければポイント還元が多くあったのにとか、あと一日早ければプレゼントがもらえたのにとか。
そんな状況の方が運が良かったことよりも数え甲斐がある。ゴールドに無理やり昇格させられたのもそう考えればいつも通りってことかな。
いや、悲劇のヒロイン的な思考をしている場合ではない。客観的に見ると、自分自身どこかでちょちょいと依頼をこなそうとしていたところもあるので、ギルドの昇格は妥当なのかもしれないなと思った。大きく溜息を吐いて天井を見上げる。
「まぁまぁ。例え時間がかかったとしても料金はアップするわけだし、なんとか行くギリギリまでに終わる仕事を探しましょうよ、ね?」
「そうそう、シシリーの言う通りよ。アタシたち的には向こうでの生活費の足しになればってくらいの感じだから無理しなくてもいいのよ?」
「わかったから二人とも、俺の頭を撫でながら言うのはそろそろ御終いで」
やれやれみたいな顔をして頭から手を離し、ラウンジ近くにある配膳カウンターに注文しに行った。シシリーはまだしもエレミアにまで母親になられたらたまらない。かなり長い時を生きてるようだけども。
「あのー」
テーブルに左肘を突き頬を乗せてげんなりしていたら後ろから申し訳なさそうな声がする。振り向くと受付嬢が書類を抱えて立っていた。急いで立ち上がり先ほどは申し訳なかったと頭を下げて謝罪する。
彼女はとんでもないと右手を横に振りながら言う。ギルドの決まりなのでこちらこそ申し訳ないのですがと言って抱えていたうちの一枚をテーブルに置く。そこにはゴールドランク昇格承認書と書かれていた。
なんでも昇格したことを認めた場合はサインをする決まりだという。いまさら抵抗したところで無意味なので一応文章を読んでからサインする。そこにはギルド憲章と、ジン・サガラは本日よりゴールドランクへ昇格を命ずとだけしか書かれていなかったのでささっとサインして渡した。
要件はそれだけかと思いきや、ゴールドランク昇格承認書の書類を受け取ると次の書類を渡して来る。見るとそれはゴールドランク特別依頼書と書かれていて答えに困った。苦笑いしながら見ると彼女も苦笑いしている。
曰くこの件があったからこそ早急にゴールドランクさせたという見方もあるらしい。要するに厄介事を押し付ける気で昇格させたのだ。ゴールドランク特別依頼書を読むと、シャイネン近郊のエルフの村で不審な現象が目撃されており、現地にて確認対応を求めると書かれていた。
前向きに考えたのが仇になったのかダメージが大きい。やはりろくでもない理由で昇格させられたようだ。能力があると見込まれてだろうが、これまでだって命懸けだしギリギリなんとかなったし運の要素が大きかった。こちらの意見も聞かずにランクを上げて厄介事を押し付ける。まるで会社のようだ。
とりあえず心の中で悪態を吐いてサインし、なんとか踏ん張って笑顔を作り横にいる彼女に渡す。受け取ると詳しい内容の掛かれた紙をテーブルにおいてから失礼しますと言って去っていった。二度も同じことをしてはいけない。
彼女はあくまで上の命令でやっているだけだ。今回の件を考えるに、どの世界においても組織に所属するとなると嫌な指示にも従わなければならないってことだ。こっちの世界では危険も大きく失敗すれば大事故に繋がる事件も担当せざるを得ない。
見返りは依頼料を考えれば多いが、そろそろ本格的に冒険者家業に関して考えなければならないなと思った。このまま行くとブラゴ卿が言う正義の味方になりかねない。資金をがっつり貯めてお店を始める方向で考えなければ。
「どったの?」
「坊や、ママが居なくて寂しかったの?」
シシリーのママが再発したのをなんとかこらえて二人にさっきのやり取りを説明する。聞いた二人はゲンナリした酷い顔をしていた。受けざるを得ないし受けたので、このゴールドランク特別依頼を先ずこなさなければならない。
その後の話についても二人に話すと大きく頷いた。元の世界では会社に属していたが、この世界に来ても組織の闇を見るとは思わなかったが仕方ない。目指せ独立、を合言葉に三人で依頼書の内容を確認する。
シャイネンから西北にあるエルフの村近郊で、光の球が多数浮遊し行き来する人を追い掛け攻撃するという事件が起こっているようだ。不審な現象が目撃されてるどころの騒ぎじゃないだろと辟易しながらテーブルの上の紙を軽く叩く。
最初から確実に事件を解決して来いと書けばいいものを実に回りくどい。会社か? ここは。確認対応だけならサインするが、事件を解決しろと言われたら難色を示すだろうと考えての別紙にイライラしてくる。
「とりあえず経費は全部ギルドが持つし解決した場合は五百プラスアルファって書いてあるからふんだくりましょう」
「絶っっっ対にふんだくろう!」
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