他の大陸の話
今後は小さな依頼をこなして生活費プラスアルファを稼いで出発しようとなり、遅い昼食を取りにミアハが暴れた食堂へ足を向ける。マテウスさんの仕事の内容を聞きたかったがとてもそんな雰囲気ではないので、また別の日に聞くことにした。
お店はお昼を過ぎていたので人も少なく窓際の席を余裕で確保する。改めてメニューを見ると色々なものが載っていて目移りしてしまう。海が近いこともあって海産物系のものもあるし、集落の方で行われている牧場から肉を仕入れているので肉料理もある。
シシリーはフルーツ盛り合わせ、エレミアはステーキセット、俺はパエリアを頼んで皆でそれぞれ分け合って食べた。一応余裕はあるから二つずつとデザートを頼んでも問題ないが、豪遊になってしまうので慎む。
ネオ・カイビャクの物価がわからないし、長期滞在となれば費用もかさむだろう。向こうの冒険者ギルドの依頼もわからないのでシルバーランクを維持できても全てが一からやり直しに近い。国が離れているだけでなく違う大陸ともなれば事情もちがうだろうし。
ネオ・カイビャクはこの大陸とは違い未開拓地域が少ない大陸だとエレミアから聞いた。エレミア自身も実際目にした訳ではなく、書籍で見た程度だというが知ってる範囲でならと話してくれる。ヤスヒサ・ノガミの旅の終着駅であるネオ・カイビャク、ネオ・カイテンやシン・ナギナミ、ハイ・ブリッヂスにインセクトハイランドそして竜人王国。
これらが大陸をある程度分割支配していた。領土はやはりネオ・カイビャクが一番広く、次いでネオ・カイテンが横に長く取っている。ハイ・ブリッヂスは爬虫類族を中心にエルフ族も政治に参加し熱帯雨林地域を領土としていた。
シン・ナギナミは島国でその周辺の小島なども所有している。操船技術がどの国よりも高く、また造船技術も随一らしい。インセクトハイランドは昆虫族がメインで自然をそのまま残しつつ、快適な環境を模索しながら観光業もしているという。
聞いただけでワクワクしてしまった。今回の旅はあくまで不可侵領域に行くだけなので冒険はしないだろうが、いつか行ってみたいなという気持ちになる。シシリーが言うにはこの世界のどこかに世界樹があるようだ。
昔は世界樹があちこちにあって、その下にエルフ族は里を作っていたようだが、魔術粒子の消失により数が激減する。世界樹と言うと葉っぱとか雫とかで人が蘇ったりするのかなと聞くと、そんなことを試した者は誰もいないのでわからないと言われた。
ひょっとすると効果が無くはないんじゃないかと思い、世界樹に興味が湧く。まだこの星には両方の大陸の者が訪れていない大陸もあるそうで、まだまだこの星には冒険する場所があると思うとなんだか嬉しくなる。
そこには見たこともないような生物や遺跡や集落があるに違いない。こことは違う通貨が主流になっているかもしれないなぁ。食事をしつつ考えていると、シシリーとエレミアに笑われてしまう。何故かと問うと百面相のようだからだと言われた。
ついつい妄想にふけって楽しくなってしまったらしい。いけないと頭を振り二人との雑談を楽しむ。新たな旅や大陸を夢見る前に、やらなければならないことが多くある。アリーザさんの目が覚めたら皆で新しいことを始めるのもいい。
例え少しでも楽しみが先にあると思えば、辛いことだって耐えられる。小さい頃からそうして少しの楽しみを見つけて歩いて来た。例え世界が変わっても大丈夫だろう。
食事を綺麗に食べ終えた後、三人で集落のギルドへ行き早く終わりそうな依頼がないか見てみようとなって移動する。到着して中へ入ると丁度元気な受付嬢が居て挨拶した。すると何故か背筋をぴんと伸ばして綺麗に頭を下げる。
どうしたのかとたずねると失礼があってはいけないのでと神妙な面持ちで言い、最初の頃と全然違う彼女の態度にシシリーとエレミアと顔を見合わせてから吹き出してしまった。そんなに畏まられても困るので普通にして欲しいと頼んでみたところ、彼女は大きく息を吸って吐いてからやっぱりそうですよね! と力強く言って普通に戻ってくれて一安心する。
まぁ肩書を色々見ると変な対応になっても仕方ないので、今後そういうことがあればこちらから言うように気を付けよう。早速依頼書を見たいと頼むと受付嬢は目を閉じて俯き腕を組んで唸り声を上げる。しばらく待っていたら目を開き急いで後ろの扉へ入って行った。
だいぶ待ってから出て来た彼女は、手に依頼書を持っていてこちらに出す。見ればそこにはゴールドランク用と書かれていた。驚いて間違いじゃないかと指摘するもギルドからの指示だという。試験も何も無しにゴールドランクに上げられても困る。
前にも聞いたがゴールドランク自体人数が少なくて冒険者でも一握りだと聞かされていた。試験もなしに急にこれは受け入れられない。受付嬢は説明してくれる。この大陸のギルド的には依頼の達成度を見てもとてもシルバーランクの実績ではなく、ランクの基準が跳ね上がってしまうので自動的に繰り上げするというお達しがきたようだ。
読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。




