父と子
「失礼、Dr.ヘレナはいらっしゃいますか?」
もう少し色々聞いてみようと思ったところでノックがする。Dr.ヘレナがどうぞというと扉が開き、入ってきたのはリベリさんだった。師匠に俺を連れて来るように言われてここに来たという。急ぎの用らしくそのままついて行くことになる。
出る前に振り返りお礼を言って一礼すると、Dr.ヘレナはまたねと笑顔で言いながら手を振っていた。あの時借りたコップを返そうと思い言いかけたが、遮るようにまた今度ねと念押しする感じで言われそのまま部屋を後にする。
校舎の外には馬車が待機していて、リベリさんと共に乗り込むと馬車は構内を疾走していく。なにか緊急事態なのかとたずねたが、リベリさんは難しい顔をしたまま腕を組み俯いてしまった。恐らく図書館から不可侵領域関連の書籍がなくなった件だろうが、一応Dr.ヘレナから聞いたのは黙っておいたほうが良いだろう。
竜騎士団も図書館を警備していただろうから、他から聞いたとなるとただでさえ肝を冷やしている中で胃を痛めかねない。
あっという間に城へ到着し受付に移動すると、朝来た時と違い全力で敬礼された。リベリさんは溜息を吐きながら右手を軽く上げて通り、一礼して後に続く。城の中にいた兵士はこちらを見ると胸が飛び出んばかりに張り敬礼した。
最上階へ赴くと師匠が机に向かい書類の山と格闘している。迷わずリベリさんは師匠に近付き、断りを入れてから俺たちを連れて来たと告げると顔を上げた。いつもの師匠と違いとても疲れているように見える。
机から離れ近くのソファに移動しつつ、師匠はリベリさんには感謝の言葉をくちにしてから仕事に戻るよう告げ、ミアハにはニコ様が図書館でへこんでいるので助けてやってくれと頼んだ。リベリさんとミアハは一礼してそのまま部屋を出て行った。
残った俺たちにソファに座るよう促し、向かい合う様に座る。すぐに話が始まるのかと思いきや、だいぶ間が空いてから溜息を吐き髪の毛をさすってうつむく。
「正直なところ、何から話したらいいものかと思ってな」
師匠はしぼりだすようにそういった。またしばらく間が空いたが話が始まる。師匠たちノガミ一族は、毎年年の初めにネオ・カイビャクのリベンに散り散りになった一族が集結し、年始の宴会を開くという。
宴会の最後に一族の代表であるサラティ・ノガミによって占いが行われており、二年前の占いで数年のうちに異世界からこの星のヨシズミ国付近に人間が一人現れるという結果が出たらしい。一族はそれを頭に入れ、該当する人間が現れた際には手厚く保護し一族の代表であるサラティ・ノガミに必ず連絡するようにと申し伝えられていたようだ。
元々ヨシズミ国は天然の要害があり同盟を結ばず中立国を宣言していた国で、竜神教は二年前まで支部を置いていなかったという。丁度占いが出た年の春、密告が師匠のもとに来る。密告の内容は師匠の息子であるティーオ司祭が、暗闇の夜明けの結成に加担し魔法書を図書館から盗み出し渡したというものだった。
ニコ様がティーオ司祭に確認したところ認め、処罰をしないわけにはいかないとシャイネンからしばらくのあいだ追放となった。この大陸ではシャイネンは魔法を有し強力な国ではあるが、戦乱を起こさず他国とは同盟に留めている。
どこか適当な国に与って貰おうと考えていた際に、ゲマジューニ陛下から竜神教に協力を求める書簡が来ていた。ティーオ司祭はそれを知りヨシズミ国行きを希望する。師匠はティーオ司祭の腹の中が読めないが、他の国は戦争を起こしたがっていたのでそれらに行かせるよりは安全と見て許可した。こうしてティーオ司祭は竜族から預かっていたティアムと妹のシスターティオナを連れて旅立つ。
「今にして思えばニコに隠れてもっと詰めておくべきだったなと思ってるよ」
顔を上げて天井を見ながらソファにもたれ掛かり溜息を吐く師匠。ティーオ司祭のヨシズミ国竜神教支部就任から程なくして、暗闇の夜明けがシャイネン付近から姿を消した。どこかに隠れているはずだと師匠も探したが見つからない。
この時ヨシズミ国を外したのはティーオ司祭が居るが、ティアムもシスターティアナもいるので平気だろうと考えたからだという。結果平気ではなく、ヨシズミ国で不穏な動きが徐々に出始めてくる。これ以上増やすまいと周辺国を調査し小さな暗闇の夜明けのねぐらを潰したが、恐らくそれも今となっては陽動だったのだろうと師匠は言う。
師匠がやっとヨシズミ国にこれたのは俺と牧場近くであった時だったそうだ。司祭から連絡は受けていたが、まさかと思い半信半疑だったらしい。出来れば長居したかったが長期間シャイネンを留守にしていたので帰らなければならず、師匠は俺に修行を付けた後シャイネンに帰国する。
師匠が帰国してから事態は変化していきついにシンラと直接対決することになった。イグニさんの犠牲によってなんとか倒せたが、何故か俺が凄いみたいな話が師匠のところにまで伝わり首を傾げたという。
俺がそいうことをする人間でないのは知っていたし、広めたところで意味がない。何かの間違いだろうと師匠は放置したが、これももう少し調べるべきだったという。シンラを倒したという事実だけでなく単独で倒した可能性があると知った幹部が調べるのではなく直接報復に動いたからだ。
読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。




