ブラゴ卿の話
「相変わらず妙な連中に好かれるらしいな」
「ど、どうもです」
プレートアーマー集団に逃げ道を塞ぐように包囲され、真ん中で突っ立っているところにリベリさんが細い路地からきて苦笑いしながら言う。握手を交わすとプレートアーマーの集団に対し、暗闇の夜明けと接触が多いのはコイツがシンラに重傷を負わせたからだとリベリさんが説明する。
感嘆の声を上げ敬礼しプレートアーマーの集団は包囲を解いて去って行った。リベリさんには色々あってここで冷静になろうと思って来たというと、だろうなと言われる。どうやらブラゴ卿が接触していたと報告があったので素早く駆けつけたという。
どこの誰だか知らないけど、店内でブラゴ卿と会っただけで俺とも接触していたとよくわかったなぁ。一人感心しているところでリベリさんが言うには基本シャイネン内には竜神教徒が多く、また魔法学校生徒も多いので暗闇の夜明けで判明しているメンバーの人相書きは持っているらしい。
ブラゴ卿はそんなに有名なのかとたずねると幹部の中では古株だという。竜神教としてはブラゴ卿の姿勢からして無理に戦闘は行わない方針のようだ。ヴァンパイアだから人を襲うのではないかと問うも血の採取が出来れば問題ないと言われる。
竜神教としてもヴァンパイアを警戒していたが、師匠が散歩中にブラゴ卿と会って話をしたという。その際に彼の目的や食事のとり方などを聞いて、戦う姿勢を明確にしない限りは彼個人は問題ないという結論に達したようだ。
「奴が変わっているのはお前もわかったと思うが、性格だけでなく特に変わっているのはヴァンパイアなのに日中で歩くという点だ。その上弱体化もせず戦える。もちろん夜は能力を更にアップさせるんだから質が悪い。こちらとしても戦わなくていいのなら絶対に戦いたくない相手だ」
リベリさんの口振りからして戦った経験があるのかと思いたずねたらやはりあると答えた。以前他のヴァンパイアが集落を襲い、若い女性が数名干からびた状態で見つかり竜神教に依頼があり竜騎士団として出動したようだ。
昼間に”竜牙”団全員で周辺の捜索にあたり、小さな城を発見し突入する。犯人のヴァンパイアの棺を見つけて止めを刺そうとした時に、ブラゴ卿と戦闘になったようだ。団員に犠牲者が出たものの、ブラゴ卿はリベリさんが引き付けている間に団員が犯人のヴァンパイアの棺を陽の光のもとに出し、開けて消滅させたらしい。
戦闘の際に話をしたが、ブラゴ卿は犯人のヴァンパイアの知人で止めに来たと語っていたとリベリさんは言う。ヴァンパイアにとっては血液が食料だが、致死量吸う必要もないし対象も二足歩行の生物に限らない。彼らにとって二足歩行の生物が一番美味しく、一度吸ってしまうと薬物に侵されたような状態になるから止めに来たそうだ。
「こちらの処理が終わったのを知ると悲しそうな顔をして帰ったよ。その後も数度戦闘をしたが、特に夜は桁違いの強さをみせていた。正直なところ日中の戦闘ですら欠片も本気は出してないと思う。種族としては圧倒的にあっちが上だしな、条件が制限されているにせよ」
どうして暗闇の夜明けに参加したのかと聞いたことがあるようだが、正義の味方の敵になりたいからと言っていたらしい。その割には悪党らしいことを彼自身は何もしていないので苦慮しているという。
もしかするとブラゴ卿は自殺願望があるのかもしれない。事情があってみずから命を絶てず、ならば太陽より眩しい正義の味方に倒されたい、と考えて暗闇の夜明けに入ったんじゃないかと思った。
仕事がまだ残っているから帰るがなにかあったら必ず連絡するように、と言ってリベリさんは去って行った。シャイネン内では竜神教や魔法学校の生徒の目があるが、集落の方ではそうはいかないのだろう。
正義の味方になる、などという考えはない。リベリさんはこれから先はわからないというが、変わらないと思う。今の世界を正したいとかもないんだよな。支配欲が皆あり強欲であるのは変わらない。自らを律することが出来ないから法律がある。
それぞれの中にある底なしの欲の獣を互いに縛り合い共存しているのだから、誰かがそれを破り捨て暴れでもしない限り正義の味方の出番はないだろう。
いつの間にか夕暮れが近くなったので宿に戻ることにした。宿に着き二人の部屋をたずねるとシシリーとエレミアはまだ今日買ったもののチェックなどをしている。しばらくして夕食を宿の食堂で頂いたが心ここにあらずでそそくさと部屋に戻ってしまった。
この日はそのまま就寝し翌日、朝食を頂いて食堂でお茶をしながらマテウスさんが来るのを待っていたがなかなか来ない。三人で宿を出て城へ向かうとミアハがこちらに向かって歩いて来る。マテウスさんから言伝があって、今日は仕事で遠出するので稽古はお休みだと教えてくれた。
なにか嫌な予感がしたので、ちょっと城へ行ってくると三人に告げ一人城へと向かう。
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