正義の味方と戦いたいおじさん
ヴァンパイアが昼間歩くなんて知識がなかったので驚いたと伝える。ピエロのような化粧をした人ことブラゴ卿に、それ以外にもっとお前にとって驚くべき点があるだろうと言われた。思い返すと暗闇の夜明けの一員と言っていたなそういえば。
白昼堂々、彼らにとっても因縁あるシャイネンという場所で接触してきた大胆不敵さからして余程自信があるのだろう。周りの人を巻き込みたくないので戦うなら場所を変えよう、と言ったがブラゴ卿は拒否する。俺が正義の味方じゃないから戦いたくないらしい。
「君は聞いていたより自己肯定感がとても低い。今の世界の状況下で君の功績は人の目を引くものであるのは自分でもわかっているはずだ。英雄や正義の味方にアレルギーがあるのかね?」
「これまでの人生で肯定できるようなものが無かったからですかね。なんとか生きてたっていう。今は仲間が居るので護るために戦ってます。英雄や正義の味方とは程遠い」
「他人のために戦うその姿こそ、正義の味方に近いがね。後ろ向きで受け身な正義の味方。そう考えると地味なのも頷ける」
「なぜ正義の味方にこだわるんですか?」
「そりゃ悪党としては光り輝く正義の味方と戦いたいじゃないか、勝つにせよ負けるにせよ。まぁ私の理想であってこれも人それぞれだが。シンラの場合、世間から見て自分が悪党だと理解した上で、自分の理想が現実になれば人々の幸せに必ず繋がると信じて戦っている。それがどれほどの犠牲を出すとしても。君らは案外似てるのかもしれない」
能力があるのに後ろ向きで他人の話を聞かない、破滅的にさえ見えるその姿に人は惹かれるのかもとブラゴ卿は語る。前に国一つ吹き飛ばすような事件を間接的に起こしたシンラは、それを気に病んだりしていないんじゃないかとたずねるとブラゴ卿に鼻で笑われてしまった。
人が大勢死んだところで気にも留めないような者が、世界の公正のために魔法を普及させよう、竜神教から解き放つために人間族であるのを捨てようとするかなと言われる。自分の妹たちにも話していないようだし、家族だけでなく自分自身を捨ててでも理想を叶えようとしているなんて破滅的なのは間違いない。
似ていると言われたが流石にそこまでじゃないと抗議すると、君は子爵の地位を捨ててここでなにをしているのかな? と問われ返す言葉がない。自分が言えた義理じゃないが、と前置きしたうえでブラゴ卿いう。
護るべき仲間を置いて、せっかく得た子爵の地位を捨てるような形で不確かな情報を基に長旅に出る。自分の妻一人のために仲間も国も捨てる男と、理想のために家族も自分も捨てる男。私にはどちらも事の大なり小なりはあるにせよ似ているように見えるという。君の方が人間味があるがね、と重い空気を払おうとしたのかブラゴ卿は微笑みながら言った。
「さて、私はそろそろ中に入って彼女の相談相手になりに行くよ」
用が済んだとばかりにそう告げて立ち上がるブラゴ卿。暗闇の夜明けの一員として俺を倒さなくて良いのかと問うも、最初に言った通り正義の味方でもない者と戦う気に慣れないからと小さく笑った。
中に入る間際、これから先はわからないけどねと言い残して去っていく。一人取り残され御腹以上に重苦しい。アリーザさんを助けるため、この世界の神だというクロウ・フォン・ラファエルが俺を連れて行こうとした不可侵領域を調べるためシャイネンへ旅立った。
時間が止まってしまったアリーザさんを一人残す訳にも行かず、仲間に後を託し勢いで出て来てしまったが、こういう行動に出たのは初めてな気がする。もっと慎重に色々調べたりクロウ・フォン・ラファエルの出方を待つという選択肢もあったかもしれない。
クロウさえも知らない情報を探り先手を取るため勝てる可能性を探るためなので後悔はないが、仲間たちがどう思っているか考えなかった点に後悔はある。無事帰ったら謝らないと。
よくよく考えれば、自分が考えていた正義の味方の定義に片足を突っ込んでいる気がしなくもないし、破滅的な行動を取っている気がする部分もある。なるべくそういった点に注意して行動しよう。
「待たせたわね」
「いや別に」
シシリーやエレミア、ミアハが出て来たので立ち上がる。兄弟子であるリベリさんに集落のギルドから手紙を出すと言いと聞いたので、あとでヨシズミ国の皆のところに近況報告の手紙を出そう。途中で雑貨店に行っても良いか聞こうとしたら、三人がこちらを見て首を傾げた。
どうしたのか聞くとこっちの台詞だと言われる。シシリーやエレミアはまだしもミアハに暗闇の夜明けの話は騒ぎになると考え、超大盛りを食べ過ぎてしんどいと答えた。三人は互いに顔を見合い、そういう時もあるねと言って歩き出す。
ミアハは学校に用事があるのでと別れ、こちらは宿で今日の戦利品をじっくり堪能したいというので宿に戻ることになった。手芸品の堪能会は二人に任せ、散歩して来ると告げて集落へ移動する。
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