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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第四章 光を探して

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噛み合わないおじさんたち

シャイネン内の手芸用品店は二階建てで高級感漂う御店だった。中はやはりお洒落な女性が多くいて男は見当たらない。三人は中に入って行き外にある黒革の椅子に座って待つことにする。お店側もこういうパターンを考えて椅子を用意しているんだろう。座り心地も良くてこちらとしてはとてもありがたい。


ゆっくりしながら人の流れをぼーっと見ていたら、カップルが来て女性が中に入り連れの男性は同じように店の前にある椅子に座った。


「いやぁこんなところで会うなんて奇遇ですなぁ」


 突然挨拶もなしに横に座った男性に話しかけられる。奇遇とはなんだろうと思いそのまま口にしたところ、あなたのような有名人にあえるなんて思ってなかったと言われた。いくらなんでも昨日の今日で名前と顔が知れ渡っているとは思えない。なにを目的に接触して来たのだろうか。


自分はあなたを存じ上げないがと言うとそれはそうでしょうと言って頷く。名を名乗るのかと思いきや名乗らず、捕縛ミッションに関しての話が始まる。かなり自己中心的な人物だなと思いながらも、ここを離れるわけにもいかないので黙って聞いていた。


ンデロ兄弟を母親に会わそうとは思わなかったのかと聞かれたので、あなたとの考え方の違いでしょうとだけ答える。あの時既に捕縛ミッションは発令されスロートの町周辺は冒険者が屯していた。急いで捕縛し収束させるのが一番と判断し連れて行ったのは間違いだと思っていない。


「正義の味方として素晴らしいですな」


 なにやら挑発されているようだが、相手の言葉を聞いて鼻で笑ってしまったので失礼、と謝罪する。正義の味方って言うのはもっと名誉も金銭も投げうって人々のために戦う者のことだろう。残念ながらこの世界に来て生まれて初めてできた仲間も家族も居るので、自分にはそういった考えはない。


他人から見ればそう見えるのかもしれないが、お門違いで考えれば考えるだけ笑いそうになってしまう。笑うと今度はこちらが挑発していると思われかねないので、考えないようにするため呼吸を深くする。


「民衆は、少なくとも冒険者たちはあなたを希望の星と見ています」

「失礼ながらあなたは何十万といる他人の考えを、自分と違うからと一人一人変えていかれるのですか?」


 人の口に戸は立てられぬという言葉があるし、思うのも自由だ。こちらが公言しそうお題目を唱えているならまだしも、どこの誰だか知らない人間が勝手にこちらを値踏みしレッテルを貼るのを気にしたり、咎めたりは特にこの世界では時間の無駄になってしまう。


もちろん火の粉を払いのけるための予防策は大事だとは思うが、具体的にどうすべきかはわからない。他人にとって良いことをし続けると今度はそれを期待され押しつぶされてしまいかねない。


元の世界くらい情報が発達しても、一度流布された根も葉もない悪いうわさは良いうわさを消し去るほど強く残り続ける場合が多く、素早く対処しないと消すのも時間がかかるのを見た。弁護士に頼んで訴えることも出来ない世界では、地道に活動し精々後世の歴史家たちに頑張って間違いない記録を記してもらいたいと思うことしか出来ない。


「なるほど、若い冒険者よりも人生経験があるだけ揺るがないですな」

「あなたも言う程年ではないでしょう?」


 初めて隣にいる人物を見ると高そうな黒のスーツを着たピエロのような化粧をした金髪で癖毛の人物が座っていた。最初から変な人だなと思って会話をしていたので、驚きはしたがかなり抑えられている。青銅の鎧を着て町を歩いているが、町の人は基本シャツだったりカジュアルな服装をしているので、スーツを着た方が目立たないのかなと思ったくらいだ。


ピエロのような化粧をした人がこちらを見て怪訝な顔をしたので思ったことを口にする。聞き終わる前に更に怪訝な顔をされた。気を悪くされましたか? とたずねると眉間に皺をおもいきり寄せてから、大きな溜息を吐きつつ顔を横に振る。


「やはり情報の齟齬があるな……思った以上の変人だ」

「そ、それはどうも」


 奇声を発して立ち上がるピエロのような化粧をした人。こちらの前に仁王出しして見下ろしているが、背丈が二メートルくらいありとても迫力がある。なにがしたいのかわからないのでぼーっと見ていると、米神に血管が浮き出てどこからかステッキを取り出しこちらに向けた。


即座に覆気(マスキング)して構えているとステッキの先の小さな水晶が光り出す。急いで不死鳥騎士団の盾を前に出した。魔法でも放つのかと思いきや、ぽんっと音がして煙が出ただけで他は何もない。


目を丸くしているとピエロのような化粧をした人は満足したのかステッキを放り投げて消した。こういう場合拍手でもした方が良いのかと思い戸惑いながら拍手をする。


「君は私が気にならないのか?」

「え?」


 どうやら選択ミスらしい。盛大な舌打ちをされた。ピエロのような化粧をした人は言う。どこから来たのかとかなぜ自分を知っているのかとか聞きたいことはあるだろう、と。危うく何も考えず別に、と言いそうになったのを急いで口を抑えてこらえる。


「聞いて驚きたまえ! 私はヴァンパイア族にして暗闇の夜明けの一員、ブラゴ卿だ!」

「え!? ヴァンパイアって昼間歩けるんですか!?」


「驚くのそこじゃねーよ!」



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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