御城、鎮まる
「問題は……まぁないと言えばないで御座るが、なにはともあれ師匠が御呼びで御座る」
師匠が呼んでいると言われれば、弟子としてよほどの事情がある場合以外は断るわけにはいかない。理由がよくわからないのでドキドキしながらマテウスさんとミアハと共に城へ移動する。シシリーやエレミアはお構いなしに手芸専門店での話をしながら歩いていて、ミアハは最初はマテウスさんの少し後ろを歩いていたが徐々に下がり出した。
最終的には三人でファッションの話に花を咲かせ、城に到着すると近くにある店で待ってるからと言い去っていく。マテウスさんと唖然としながら見送り城の中へと移動する。受付の兵士に挨拶をしマテウスさんの案内で最上階まで移動した。
「おう、よく来たな」
「あ、はい」
シスターにニコ様、師匠の三人が床にうつぶせになっている。助け起こした方が良いのか迷ったがマテウスさんは気にせず通り過ぎ、横にあった客人用のソファとテーブルがある場所へ移動したのでそれに続く。
「もう気が済んだで御座るか?」
「たぶんな。だいぶ怒りも収まったろう」
少しして師匠が起き上がりこちらに来て向かい合う様に座る。師匠が座ってからマテウスさんのあとにソファに座るとマテウスさんが師匠に問いかけた。師匠曰く今回はかなり御怒りだったようで、一年に数度あるかないかのレベルだったらしい。
司祭たちはヨシズミ国にずっといるし、師匠も人が住む領域を見て回っているから不在がちなのでニコ様も寂しいでしょうね、と同情する発言をしたらニコ様が凄い速度で起き上がりこちらに来た。師匠に体当たりするように横に座り、もっと言ってやってと促される。
相手の詳しい家庭環境はまったくわからないが、営業時代に会得した女性店長さんと雑談になった時用の会話テーブルを引っ張り出した。なるべく旦那さんを貶めないようにしつつ、奥様の献身を讃え大げさすぎないように褒める。
ニコ様はうんうんと大きく頷き、話が一段落すると未だうつぶせになっているシスターを回収しに立ち上がり、シスターを抱えて笑顔でこちらに手を振りながらそのまま下の階へと降りて行った。こちらも見えなくなるまで笑顔で手を振りながら見送り、完全に気配が遠のいたのを確認してから真顔になり大きく溜息を吐いてぐったりする。
「いやぁジン、よくやってくれたな」
「いえいえ上手くいってなによりです」
「本当に危険で御座った。あれ失敗したらまた一からやり直しで御座るぞ」
とんでもない地雷踏んでて笑えないが、元の世界で培ったものが役に立って良かった。ほっと皆でしたところで早速呼ばれた理由についての話が始まる。なんとシャイネンの図書館への入館が近々叶うという。
ただ図書館はこの前まで、ニコ様がストレスを発散するために自由時間や休憩だけでなく、寝る場所にもしていたらしい。ベッドを片付けたり読んでそのままにしておいた本を片付ける時間が欲しいので待って欲しいと言われた。
シスターが連行されたのもどうやらその片付けのためだったようだ。こちらとしては元々ニコ様が譲られた場所に入らせてもらう立場なので、焦らず待ちますと伝える。次いで竜騎士団と兄弟子であるクルツ・リベリさんに関しての話になった。
「まず最初に謝らなきゃならねぇな。嫁さんにへそ曲げられるようなことをしてたから嫁さんが怒ってるのを見越してお前に色々紹介しておくべきだった」
「いえいえ急にお邪魔したので仕方ないです」
「竜騎士団に関してもシンラの件で町のギルドと対立しているのは知っていたが、部下に任せすぎたようだ。俺もしらばくここに留まって仕事するから改善する」
それに関しては他国の話なので内政干渉を考えてはいともいいえとも言わない。クルツ・リベリさんに関しては本人に聞いた内容を師匠視点で話した感じだった。師匠が記憶にある頃には”一撃”のショウさんは亡くなっていて、父であるヤスヒサ・ノガミから指導を受けそれをリベリさんたちにも教えたようだ。
不可侵領域については師匠も詳しい内容まではよく知らないという。現在も不可侵領域として周辺の種族は護っているが環境の変化のチェックなどを行われていて、特にこれと言った報告はないと師匠は教えてくれる。
以前から神聖不可侵の領域として伝えられ、周辺国や村はそれを護り誰も踏み入ってはならないとしている。解明の手がかりがあるとすれば”一撃”のショウが記した書籍と、古文書にも記されている以前師匠も話してくれた”この星に危機がありしとき、剣星アルブラムは蘇る”というのがあるのではないかと言う。
「まぁここにすべてがあるわけでもないし、結局は現地近くに赴いて調べるのが一番だろう」
今シャイネンとしても用があってネオ・カイビャクと連絡を取っているが、丁度式典の準備が忙しく直ぐには対応できないらしい。終わったら連絡するといわれ、時間が出来次第向こうの代表でありノガミ家の代表であるサラティ・ノガミと話をしてくれるそうだ。
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