ギルド憲章に背いた者
商人ギルドでも依頼主の取引相手を問題視していたが、先代がギルドに対して貢献してくれたこともあり様子見をしてきた。商人にとって契約は命の次に大事なものであり、理由もなく破棄した点は許せる限度を超えたとしてギルドとして対応してくれるという。
依頼主がここに来るまでに襲われた件についても冒険者ギルドに協力を求め詳細を調べるので、警護の情報を教えて欲しいと言われると、依頼主の商人はしょんぼりしたまま黙り込んでしまった。辛い気持ちに寄りそいながら、相手が罪を犯すのを防ぐためにも教えてもらえないかと受付の男性に説得されると話し始める。
警護をしていた二人は亡くなった知人の子どもで、小さいころから面倒をみてきたという。母親が病にかかり、竜神教の治療院で見てもらうために金銭が必要だから仕方なかったと話す。依頼主の話を聞いて、アリーザさんの面倒を見てくれていたのも国から支援金が出ていたからかもしれないといまさら思った。
シャイネンから支援金などは出ていないのかとたずねると、押し黙る依頼主。皆で言葉を待っているとかなり時間を要したが話してくれた。冒険者ギルド所属時に商品の搬送依頼を受けたが数量を誤魔化して冒険者ギルドから処罰を受けているという。
竜神教と冒険者ギルドは別団体ではあるが、敵対関係ではない。シャイネン内のギルドと竜神教は関係が悪化していても、知る限りそこだけだ。ある程度の情報の共有はあるだろう特に処分関係は。支援金も打ち切りとなり焦って今回の犯行を思いついたのか加担したに違いない。
「一度罪を犯しても再起するチャンスは我がギルドだけでなく冒険者ギルドにもございますし、実際再起された方はとても多い。確かに非難は免れませんが自らを律し再犯せねばいいだけのことです。温情を仇で返すが如き恩人に対する強盗など救いようがない」
「で、ですが……」
「亡くなった知人の息子で目をかけてきたのでしょうが、ご自分の家族を差し置いて彼らの罪を永遠に背負っていかれますか? 今彼らを止めなければ最悪の結末を迎えるでしょうが、いかがしますか?」
受付の男性に感情的な部分はなく淡々と話している。再起した者は多くいても、全員ではないので似た事案に何度も接した結果事務的なのだろう。依頼主は涙を流し横に座っていた馭者がバッグに入れていたタオルを取り出して渡すと顔を覆った。
名前や住んでるところなど、警護の二人の情報を全て聞き終えると受付の男性は席を立ち、落ち着いたら受付にまた声をかけに来てくださいと告げて出て行った。馭者を含め皆で依頼主が落ち着くまでじっと待ち、陽も傾きかけたころ彼らの病の母親も気になるので帰ろうと言い立ち上がる。
応接間から出て事務所の皆さんに一礼してからラウンジに戻り受付に声をかける。すると受付の人からラウンジで待つよう言われ椅子に座っていると、豪華なコートにウェストコートそしてスラックス、高そうな靴を履いた人物がこちらに来た。
「どうも初めまして皆さま。私はスロートの商人ギルドの長でジャック・スロイドと申します、以後お見知りおきください」
ハットを取りながら名乗り一礼したのでこちらも立ち上がり一礼する。オールバックに口ひげを生やしたジャックギルド長は、微笑みながら近くから椅子を持ってきて同じテーブルについた。受付から報告があり緊急性が高いと判断し、冒険者ギルドとも直ぐに協議をしたという。
結果権限を使い警護と襲撃者に対して捕縛ミッションを発動したと告げられ、依頼主は天井を見上げる。初めて聞く言葉でよくわからないでいると、ジャックギルド長が説明してくれた。各ギルドでギルド憲章などに背き逃走した場合、通常は第一段階として知人や仲間に説得依頼が出る。第二段階は知人らによる捕縛依頼、第三段階ではギルド員による捜索になるという。
長い時間をかけるわけにはいかないため、第三段階までを二か月以内とし失敗した場合は第四段階に入り、ギルドとして捕縛ミッションを発動し冒険者を動員して捕縛に動く。
国家犯罪や冒険者殺害、依頼品の奪取や依頼人殺害など重罪に関しては最初から討伐ミッションとなり生死を問わないものになるという。今回被害者が商人ギルド所属員であり、加害者が元冒険者ギルド所属で再犯であることや罪もない恩人を襲撃したこと、しかし強盗未遂であったことを考慮し討伐ミッションを避け捕縛ミッションでの対応となったそうだ。
「正直なところ緊急ミッションを発動するのはギルドとしても極力避けたいところだったが、国家や一般国民に迷惑をかけては我々の仕事が成り立たなくなってしまう。なにせ依頼した人々がギルド員なら犯罪者ではないと信じてくれるのも、信頼があってこそだ。申し訳ないが、依頼主のあなたには数日スロートに滞在してもらいたい。あなたの御店には人を派遣している」
依頼主は頷くほかなく力なくうなずく。個人的に気になったので名乗ってからジャックギルド長に、依頼主に対する補填はないのかたずねた。
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