ノガミ家の事情
「便利になる弊害はありますよね」
「そうだな。エルフを見ればわかりやすい。彼らは魔法に長けているが体力も力も人間よりかなり劣っている。対して人間は、魔法においてエルフを凌駕するのは一握りの天才以外は難しいだろう。彼らより優れている点である肉体の強靭さと力を維持するためにも、便利になり過ぎるよりは適度に困難な方が良いと私は思う。まぁそれも上の決めることだが」
少し間があってから上と言えばと切り出されたのは、例の師匠の奥さんで竜神教大支部を管理しているニコ様に関してだった。”一撃”のショウからの伝言にあった”ワルプルギスの夜”と不可侵領域との関連などは、先に教えてもらった不可侵領域研究資料にあるだろうが、それを見るにはやはり図書館への入館が必要だ。
元々ネオ・カイビャクのデラウンという都市で生まれたクルツさんは、師匠について十一歳から世界を旅し十五で竜騎士団に入団する。二十歳で欠員によりシャイネンへ出向してきた。
「ニコ様はさっき言ったように私にとっては親戚にあたるが、シャイネンに出向して来るまではほぼ伝説の人物に近い認識しかなかった。出向し上司となってから間近で対してみると中々難しい。まぁ大部分は師匠とあの兄妹が原因だが」
「母として寂しいんですよね」
「そうだ。こう言ってはなんだが、師匠に紹介状なり書いてもらって単身来た方がマシだったと思う。ただお前が師匠だけでなくティオナも連れてきたことに関しては評価はプラスになると考えていい。図書館への入館に関してはもう家族の問題なのでお前は余計なことをせず待っているのが大切だ。首を突っ込むと爺さんになるまで見れない可能性もある」
恐ろしい話を聞いてぞくっとしてしまう。城の中に入ったりしなかったのは幸運なのかもしれない。現在他の竜騎士団たちも城の中ではなく、兵舎の方で仕事を行っていて外交に関してもそちらで行っているらしい。
竜騎士団も大部分は本部があるネオ・カイビャクに居て、日々飛び回っているので集まる機会はあまりないそうだ。そう聞いて思い出したが、司祭からネオ・カイビャクに行ってサラティ・ノガミに会い今回の事件を伝えて欲しいと言われていた。
クルツさんはそれを聞いてやはりニコ様待ちだろうなと言う。サラティ・ノガミは師匠の姉でありニコ様の義理の姉にあたる。ノガミ家の棟梁である彼女に会うには、紹介状を持っていたとしても単身で行って会える確率は低いという。
「師匠とニコ様の紹介状が必要ってことですか?」
「いや、もっと簡単になる裏技がある。師匠もそれがあって一緒に来たんだと思う。まぁそういうわけだから、大人しく待つ以外無いな」
「そうですか……実は家族をヨシズミ国に残してきているので少し気掛かりでして」
「お前もか。私も国に母を残してこちらに来ているので気に掛けている。そういう場合は手紙を送ると少しは相手も安心するからするといい。お前ならギルドを通して郵便を出した方が確実に届くだろうから、こちらのギルドから出すのを勧める」
集落のギルドはギルド長の方針から初心者から上級者まで分け隔てなく丁寧に対応するし、犯罪に関する処罰も厳しいので勧めてくれたようだ。さらにアドバイスとして地主などの集落方面の資産家には注意するように教えてくれた。
シャイネンに入れなかった資産家は欲に際限がないので、自分が必要な時でもなんとか一ゴールドでも自分が払わず済まそうとするので依頼を受けても損をするだろうと言われる。前回それを実感したのでそうしますと告げると、自分も酷い目に遭ったので気を付けるよと言いクルツさんは笑った。
俺たちがギルドに報告してからさらに地主からも報告があり、妙な男と女がうろついていて森の奥で何かしているようだと通報があったという。ゴブリンの集落を潰した翌日に門兵から俺たちが通過したと報告があり、通報があったので調べないわけにはいかず森に単身来たそうだ。
恐らく自分の土地に被害があっては困るのと、知ってて報告しなかったと疑われるのを恐れて報告したんだろうと言うクルツさん。この件で真に怖いのは地主だったという話で呆れる他無い。
「今後は同じ師匠を持つ者同士、互いに曲げられないこと以外は仲良くしたいものだな」
握手を交わしクルツさんは去って行く。心強い味方を一歩間違えば失うところだった自分の迂闊さを戒めながら見送り、集落のギルドへと戻る。ラウンジではシシリーとエレミアがお茶を飲みながら待ってくれていたのでクルツさんと話した内容を伝えると、深い溜息を吐いた。
「やっぱ人間て恐ろしいわね」
「間違いないわね。お化けよりも恐ろしいわ」
二人には同意なんだけど、人間が多いギルドでこれ以上大きな声で言われるのは困るので依頼の話を振ってみる。すると幾つかよさげなのは見つけたらしいが、今の話を聞いてもう一度探し直すという。
見た感じ地主とかでもないと思うから良いんじゃないかと言うと、駄目だと言って依頼書をひったくり齧りつくように見ながら一枚一枚捲り始めた。
読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。




