圧倒する力
「流石竜騎士団の一員だな。シンラたちが回りくどい真似をせざるを得ないのもわかる」
「私を認めてくれているのは有難いが、こちらとしては屈辱だな。わかるか?」
「さぁな……どうしてだ!?」
なにか言いたそうなので不死鳥騎士団の盾で左の篭手剣を思い切り弾く。互いに損傷はなく気持ちが前のめりではあるが頭は冴えている。向こうの手の内の全てが見えていないものの現在は互角。ここからスピードを上げてくるのは間違いない。呼吸を整えつつ気を放出しながらもなるべく多く体の周りに留めておくように気を付ける。
「畏れ多くも竜騎士団”竜牙”団長という名誉ある職を頂く者が、たかが一般人に涼しい顔で全力の剣撃を捌かれるのは屈辱だよ」
「全力?」
「ああそうだ全力だとも。俺の剣速はこれ以上上がらない。参ったなぁ」
ニヤニヤしだすクルツ・リベリ。この不必要な間の取り方を見ると、素早く決着を付けたいとは思っていない。となると俺の力の持続時間を計っている可能性があるな。そうなるとイーブンに持ち込んであっちの用件だけ済ませて喋らない方向で進められてしまう。
「実に仕事に忠実だな竜牙の団長」
「何の話だ?」
「俺の力の持続時間だけ計ってイーブンという形にして情報を話さないつもりだろう?」
「はっ! 甘いなぁジン・サガラ。私は竜騎士団”竜牙”団長。一般人に舐められたままタダで帰すと思っているのか?」
「良かった逃げないでくれるんだな」
一瞬視界から消えた後、右から斬りかかってきたが拳で剣腹を叩く。間合いを広げて相手の気を追うとちゃんと追えたので完全に消えているわけではないのがわかった。”一撃”のショウが何者なのかは知らないが、”一撃”と言うからには武術の達人だったんだと思う。
クルツ・リベリはその子孫だと言うなら、剣技よりも武術の方を継承していても可笑しくはない。武術を継承しているならその気を最小限にして追わせないのも可能になる。
「なるほどそう言うことか……やるなクルツ・リベリ」
「なにをわかった風な口をきいている!」
通常は目で相手の動きを追うものだ。気の鍛錬をしていてもどうしても見る方を優先してしまう。その隙を突いた彼の戦い方は素晴らしい。前情報なしに命のやり取りになれば死んでいても可笑しくはないだろう。
「そこだ!」
背後に微弱なクルツ・リベリの気を察知し拳を直接当てるつもりで突き出した。力が上がっているからなのか、予想外に風を起こしてしまい直撃させられずただ押しただけのようになってしまう。風が起こらなければ直撃だったのはクルツ・リベリもわかっていたようで、驚きながら姿を現した。
「貴様本当に何者だ? 格闘を軸にした冒険者というのは装備を見てなんとなくは察するが、ただの素人がこんな凄いとは信じられん」
「先祖の言い伝えに無いんだな? 俺の詳細は」
歯噛みして再度姿を消すクルツ・リベリ。目を閉じ深呼吸をすると、森の全てと意識が繋がったような感覚を覚える。相手の体温が動いているのを感じ
「はあっ!」
移動する先に向けて右足に力を入れ思い切り蹴り上げ直ぐに下げる。風が巻き起こり体温が止まったのを見て直ぐに間合いを詰めた。相手は剣を持っているので不死鳥騎士団の盾を持つ左手を思い切り突き出す。
「ぐっ!?」
ガンッ! という音が森の中に響く。篭手を交差させて防いだのだろうが、音からして腕は痺れているもしくはそれに近い状態で鈍っているはずだ。もう一撃叩き込むべく不死鳥騎士団の盾を引きながら右拳を突き出す。
同じような音を立てながら移動していく。逃がすわけにはいかない。確実に一撃叩き込むと宣言した以上達成させてもらう!
「まてぃ!」
一際でかい気がクルツ・リベリの背後から現れた。目を開け見ると、三メートルはありそうな背丈で筋骨隆々、黒の道着に赤い帯をしたライオンのような髪型でひょろりとした髭を生やした男がいる。
新しい竜騎士団が現れたか……お膝元だから可笑しなことはないにしても、これだけ強大な気をこちらに感じさせずに接近してくるなんてどれだけ竜騎士団は人材豊富なんだ。
「邪魔をしないでもらおうか」
「この勝負、我輩に預けてもらいたい」
「断る。彼を倒さねばこちらが必要としている情報が手に入らない」
「欲している情報とは?」
「見も知らない人間に話す気はない」
「……我が名はハオショウ。こやつとは血縁関係にある」
「なら不可侵領域の話を知っているな? 先祖の”一撃”のショウの遺言めいたものの話だ」
そう言うとハオショウという巨漢はクルツ・リベリを見た後暫くしてから頷いた。血縁関係者なら知っているとなると、こうなるのを予想して代々話を受け継がせた”一撃”のショウとは何者なのか興味が湧いて来た。
「不可侵領域関連で知っていることを教えてくれれば、あとは一発ソイツを殴らせてくれればそれ以上は求めない」
「”一撃”のショウからの言伝は教えよう。だが殴るのは許可できない」
「悪いが最低条件だ。譲れないなら二人とも相手をするし加減はしない」
「おい、そこまでにしておけジン」
ハオショウの後ろから馴染みのある声が聞こえたので見ると師匠が現れた。誰が知らせたのか知らないがいいタイミングで現れたな。
「師匠、これはけじめの問題です」
「わかるがその状態でやるのはフェアじゃないって言ってるんだ。無防備で直撃させれば死ぬぞ? そう思ったからこそハオショウも止めに入った」
「全くわかりません」
「気が高ぶってやがるな。シシリー! なんとかジンの気を四散させろ。スイッチが切れないようだ」
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