夜の宴
「おんやぁ? こんなところで宴でも始めるつもりかな?」
シシリーとエレミアが言う羽を確認しようとしたが、元来た方向から煽るようなイントネーションをわざとしている声がしたので視線を向ける。そこに居たのは今朝宿の前で見た竜騎士団の金色の鎧を着たおかっぱだ。
「森で宴とは酔狂だな」
「そうか? 文明は発達してるが今も繋がりは消せないどころか魔法粒子の復活によって深まっている。例えばある一定期間のみ力が強まり宴が始まる、などという御伽噺も消えはしない」
おかっぱが何を言っているのかさっぱりわからない。こちらの混乱を狙って討とうという魂胆か?
「役目を果たせ妖精に祝福を受けた者よ。宴の夜はお前を待っているぞ、ジン・サガラ!」
手を前に突き出すと空間が避け蛇がうねりながら這い出て来る。完全に体全体を出しきった蛇の尻尾をつかむと振り回しこちらへ向けて振り下ろした。動けばエレミアに当たってしまう。ここは避けずに蛇を捕まえ引き寄せた方が被害は少ないだろう。
「良い判断だ。私はまがい物に興味はない。興味があるのは貴様だけだ!」
「人違いだ。お前の言ってることは何一つ理解出来ない」
左腕に蛇は絡まったがこちらに噛みつくことなく微動だにしない。おかっぱに視線を戻すと訝しんだ顔をした後鼻で笑う。さっきから続く言動からして、ゴブリンの友から力をもらった後に発動した力の正体を知っているのかもしれない。
そう考え腕に巻き付いた蛇を更に巻き付けおかっぱを引き寄せるも、即座に蛇を放棄されてしまう。ならばと詰め寄ろうとするも突然姿を消した。逃げられたのかと周囲を伺うと左の方角に突然現れる。
これも魔法の為せる業なんだろうか。ダークエルフのミアハが放った攻撃魔法ともエレミアの召喚とも違う。竜神教の守護騎士と言うからには多くの手札を持ち合わせているはずだ。こちらが様子を伺っているとおかっぱはヘラヘラとしだす。
「実は私もなんだよ。先祖の”一撃”のショウからの遺言のようなものでな。”これから向かう場所へのヒント”だそうだ」
これから向かう場所? まさか不可侵領域に関するヒントだっていうのか!? おかっぱの言葉に動揺してしまうが、ヘラヘラした態度を見るからにこちらの動揺を誘うための嘘のようにも思えた。だがどうしても引っ掛かる。
「その話、詳しく聞かせてもらおうか」
「お前が私の御眼鏡に叶えば知ってる話はしてやろう」
「丁度良い。ゴブリンの友人の弔いとして一撃喰らってもらうぞ」
「ゴブリンの友人とはね。常識では計れん男だな貴様は」
おかっぱは両手を一度上げた後振り下ろすと、篭手と刃が一体になったものを召喚し装着していた。魔法だけでなく武器も初めて見るもので驚くばかりだ。
「せめて名を名乗れ。このままだとおかっぱとしか言えない」
「おかっぱ……絶望的なネーミングセンスだな。マッシュボブと言えマッシュボブと! 例え貴様ら側だけでもそんなネーミングで呼ばれるのは侮辱だ。名乗ってやる。クルツ・リベリだ。二度とおかっぱなどと言うな絶対にだ!」
なんかよくわからんが一本取れたらしい。本気で嫌なようで歯を剥き出しにして唸っていた。やる気のない相手より、気合の入った強い相手と今は戦いたいし弔いにも相応しい。
「では始めようクルツ・リベリ。友に託された者として勝たせてもらう」
「先ほどまでは小突いてやるだけにしておこうと思ったが話が変わった。無礼な言葉を私に使った罰は受けてもらう」
右拳を前に突き出し構えると、相手も同じように構えた。じっくり見合って相手の出方を伺いたいが、体から湧き上がる気が抑え込めない。一呼吸吐き終えた瞬間、不死鳥騎士団の盾を下ろし左手に持ちながら相手の間合いに飛び込む。ニヤリとして素早くこちらに向かいクロスするように斬りつけるが、それを不死鳥騎士団の盾で叩いて行く。
空いている右拳を最短で突き出しその顔面へ直撃する寸前でまた姿を消した。だが完全に消えたわけではない、近くにいる。強い殺気を左上空から感じ見上げると、篭手剣を突き出しながら降下して来た。
落下速度が大きく迎撃が間に合わないと判断し、受けずに間合いを取り着地の瞬間を狙おうとするもまた消える。今度は向こうの攻撃を待って捕えてみる方針に変更。気を張り巡らし間合いを広げていくと姿を消したクルツが背後から飛び掛かってきた。
素早く後ろを向き左手の不死鳥騎士団の盾と右拳を上げファイティングポーズを取り、こちらの受ける意思表示を見て邪悪な笑みを浮かべながら斬り掛かってくるクルツ。左右で休みなく斬りかかって来たのを盾と拳で遅れないよう弾き続けた。
嬉々として攻めてきているが粗くない太刀筋は鍛えこまれたものだけでない才能を感じる。魔法まで使えるのだから竜騎士団は他にもクルツのような小隊長みたいのが居るとすれば、とんでもない集団だ。
シンラはこれに対抗するなら魔法を扱える人間を同等以上に揃えなければならず、国が消し飛んだ事件も焦りからの行動だろう。基礎も知らない普通の人間に魔法を教えれば危険があるのを知らない訳はない。竜騎士団を意識するあまり早く足場を固めて対峙出来るぞと見せたかったのかもしれないなと思った。
読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。




