雲行きが怪しくなる
個人的に竜神教に対してこれといった悪いイメージはなかったが、竜騎士団と接触して初めて嫌な感じを受けた。師匠が竜神教の偉い人でシスターにも司祭にも大きな恩がある身としては複雑だ。
竜騎士団が去ったのを確認し、再度外へ出てストレッチを行う。今朝は宿で朝食を取ることにしていたのでのんびり過ごせる。シシリーやエレミアは日が昇った頃に起きて来て共に朝食を頂き、迎えに来てくれたマテウスさんと昨日の鍛錬ルームへ向かう。
この日も例のダークエルフの女性が付いて来て、なぜかエレミアと稽古を付けることに。理由を尋ねるとマテウスさん一人に対して卑怯だからだという。エレミアのボルテージを上げてくれるのは結構だが、終始喧嘩を売りに来てるので冷や冷やする。
出来れば八つ当たりされないことを祈るばかりだ。どんな技を使うのかと尋ねると、彼女は氷の魔法の使い手で竜神教の魔法学校の生徒でミアハというらしい。ミアハはマテウスさんを知っているがマテウスさんは一度会ったことがあるかも程度のようだ。
なにやら複雑な事情があるみたいだが、ミアハは聞いてほしくなさそうなので稽古を開始した。個人的には善戦を期待している。エレミアの美しき女神しか見たことがないので、他にあるのなら見てみたいからだ。
「では始めましょうか」
「よろしくお願いします!」
こちらも稽古を付けてもらう。今回は初めから一気に距離を詰める。一閃で刀の間合いを保ちたいだろうが潰し、こちらの土俵に持ち込み維持していくのが狙いだ。草原駆ける鳥はこちらの狙いを察知し昨日と同じような動きをしてくる。
「お互い様子見で御座ったか」
体当たりをぶつける勢いで突っ込んだが、それよりも早く刀を抜かれ完全に距離を潰せず不死鳥騎士団の盾で受けざるを得なくて下がってしまう。その勢いを利用し回し蹴りを背後にいた草原駆ける鳥に放つと、不意を突いた形になり顔面にヒットした。蹴りの反動を利用しマテウスさんに空中で風神拳の構えを取りながら飛び掛かる。
「旋風!」
マテウスさんに新しい技を出させたと一瞬喜んでしまうが、即座に風神拳を放つ。旋風と声を発しながら回転しつつ抜刀し放たれた剣圧は渦を巻くように上空に向かってきた。なんとか相殺し頭上から襲い掛かるも高速の突きを出されてしまい、一撃加えられずに距離を取る。
「流石先生の弟子。基礎はしっかり出来ているで御座るな。それに風神拳をマスターしている」
「それしかないですけどね現在」
「ならばそれ以外を自分で考えてみては如何かな? あの先生は手取り足取り教えてくれるような人では御座らん。ジン殿の鍛え上げられた基礎があればなにか閃くものがあると思うで御座るよ」
アドバイスをもらい稽古中もなにかあるだろうかと考えながら戦い続け時間となってしまう。一朝一夕では難しいから焦らずとも言ってもらい、時間をかけて考えてながら体を動かしてみようと思った。
結局エレミアの方は美しき女神以外の技は見れず、ミアハが鍛えられる側になっていたようだ。稽古を終え四人で城に向かうも相変わらずらしく今日も城前で解散となる。エレミアと共にギルドに行くと入るなり視線を皆に逸らされた。
「なんか嫌な感じね。言いたいことがあるなら言いなさいよ。アタシ今日は機嫌が悪いんだけど」
消化不良だったからかカウンターに向かうなりいきなりズバッと切り出すエレミア姐さん。圧に押されのけ反る受付嬢は蚊の鳴くような声で
「で、出来れば他でお願いしゃす」
と絞り出す。黙って頷く筈もないエレミア姐さんは受付嬢を見続けた。怖いので顔を見れないが凄まじい迫力であるのは受付嬢の恐怖する顔を見れば分かる。ここで粘ったところで変わらないだろう。宿の親父さんが言ってた”ギルドは竜騎士団の下部組織化”っていうのが間違いじゃないと証明されたわけだし。
怒り心頭のエレミアの手を引きギルドを後にする。気が収まらないのかギルド上に対して色々威嚇していたようだけど見ないことにした。
「随分あっさり引き下がるけど何かあったの?」
エレミアに聞かれて今朝の話をすると
「アンタは納得してるわけ?」
そう問われた。自分の国なら可笑しいと声を上げるか行動するだろう。だがこっちはあくまでお客さんだ。この国の人々が良しとしているならそれに対して口出しする権利はない。薄情じゃないかと言われたが、国とは人の集まりで出来ているものだからそれを変えたいなら長い時間をかけないとならないし、解消する利点も提示しないと支持は得られないだろうと返した。
「流石子爵様って感じ?」
「位もそうだけど力でなんとか出来ることは案外少ないよ。何事も地道な努力が必要だってこの世界に来ても思い知らされた」
「この世界?」
「ああこの国か」
慌てて言い直す。異世界人なんて言ったところで得は無いし、それの証拠になるものも持ち合わせていない。ふと八百屋の前に来たのでりんごを十個ほど購入して昨日の森に三人で様子を見に向かう。
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