皮の鎧ゲット!
翌日から雨の日が続いていた。皆が自前の蓑や笠を持っている訳ではなく、濡れて風邪をひくと風邪薬も無いし医者も高いようで、荷受け場の仕事を受ける者が少なくなる。受ける者が少なくなるとギルドも荷受け場も困り賃金アップしていた。
こちらはベアトリスの分も改めて蓑や笠を購入しており、仕事を受けるのに支障が無いので喜んで引き受ける。いつもよりも多めに給金を頂け、先日のデザートと蓑や笠代を超える金額を稼げた。
いくら雨具があるとはいえ動いて作業をする関係上濡れてしまうが、運良く二人とも風邪もひかず元気に過ごせている。
「ベアトリス、よく頑張ったな!」
「えへへ」
頑張りが認められたお陰で親方だけでなく周りの人にも可愛がられ、最初のつんけんした感じから可愛らしい表情が少しづつ出てきた。
あまり言い方は良くないかもしれないけど、お兄さんが行方不明になり出て来ざるを得なかったのは、彼女にとって良かったのかもしれないなと思う。
稼いだお金に関しては雑貨屋で購入した筆と墨、それと紙を使い互いに記し管理している。自分のお世辞にも綺麗とは言えない字を見ると、字が綺麗なベアトリスに代筆して欲しいなと思ってしまう。しかしそこは我慢し綺麗に書けるよう気を付けながら記載していく。
雨が始まった日から二週間が経った日の仕事終わりに雨が上がり、ボーナスタイムも終了だなと思いつつギルドへ行った後で宿に戻り、帳簿を付けたが終わると歓喜した。ようやく皮の鎧代と当座の生活費を加味した金額に達成したのだ!
元々の所持金が百五十ゴールドあり、荷受け場の依頼が一回十五ゴールドで二週間合計二百十ゴールド、早上がりの日が六日あって追加で依頼を受け溜まったのが六十ゴールドで、合わせて四百二十ゴールドになった。
雨の日の増えた分は、ベアトリスと町を散策した時に色々食べたり買ったりして使い、疲れた時の御褒美として甘味も食したりして消費している。自分は生まれ育ったところの関係で使うよりも貯金をしたい派だが、若いベアトリスに強要する気は無い。
これまで彼女は訳あって荒んだ生活をしていたのだから、頑張った分ご褒美は欲しいだろうと思ってこちらから出した。何はともあれ使ってもちゃんと目標額を達成している。元の世界では趣味もほぼ無いし使う喜びは無かったが、初めてそれを経験することが出来ると思い、ワクワクしていた。
「お疲れ様でした!」
貯金達成の翌日はなんと仕事も早上がりで天気も良く、まるで祝福されているような気分になる。親方や他の作業仲間たちは、テンションのやたら高いこちらに首を傾げていたが、笑顔で一礼してその場を後にした。
ああ興奮する! 駆けだしたい気持ちを抑えながら、ゆっくりしっかり踏みしめて防具屋へと向かう。ゲームだとレベル一から町の外に出て魔物を倒しお金を得ていたが、現実は非情である。親切に武器や防具をただでくれる人はいないし、無いと死にはしなくとも怪我をすれば借金生活だ。
運良く力が強い状態でこの世界にこれ、奥様たちを助けられたから篭手を貰えたものの、さぁモンスターと戦うぞとはなれなかった。いつ帰れるかもわからないので、なるべく借金や怪我とは無縁でいたいという思いから、なるべく慎重に行動している。
異世界に来て会社員から冒険者という派遣労働者となって働き、やっと貯まったお金を握りしめて防具屋に入った。
「いらっしゃい! 今日はどうしたの?」
「マリノちゃんこんにちは!」
「ベアちゃんもいらっしゃい!」
女性同士楽しそうにしていたのでそのままにし店内を物色する。なにか目玉商品でもあればと思ったものの、さすがに都合よく見つからなかった。あっという間にお目当てのコーナーに到着しその前で立ち尽くす。自分にとってはどんな鎧よりも輝いてる鎧が目の前にあった。
「……凄い気合入れて見てるなお前」
「はい……遂にこの日が来たと震えています」
「値段見たか?」
「え?」
親父さんの言葉に嫌な予感がした。ま、まさか村では三百五十ゴールドだったが、町になると倍以上の値段をするのかと思い震える。たしかに地方と都会じゃ値段が違うなと今さら思い出し、恐る恐る視線を値札に向けた。
「あれ」
「分かったか?」
値札には百五十ゴールドと書かれており膝から崩れ落ちる。これまでの貯金の日々は一体何だったんだろう、そう思わずにはいられなかった。
「どったの?」
「ん? 何か知らんが皮の鎧がもっと高いものだと思ってたらしくてな。感慨深げに立って見てるから現実を教えたらこの様よ」
親父さんにマリノさんだけでなくベアトリスまで笑っている。皆が笑うのも分かるし、何やってんだと自分に対して憤りを禁じ得ない。なにしろ雨が続く前までですでに百五十ゴールド所持していたし、気付いていればもっと早く金額の高い依頼を受けれたはずだ。
荷受け場じゃベアトリスの兄さんは見つけられないし、高い依頼なら目立つのは間違いなく目に留まる可能性も高いだろう。
「まぁ金が無くなった訳じゃなし、良かったじゃねぇか安くなって。それに時期的にそろそろモンスターたちも活発になる時期だからよ。稼ぐなら今からだぜ?」
「そ、そうなんスか?」
「おうよ。兵士も敵が攻めてこないとはいえ、常時の守りや緊急時の為に控えてる。店もったり畑もったりしてる人間も、当然ながらモンスター退治に出られない。だからこそ冒険者っていう仕事がある訳よ。まぁ気軽な職業じゃないからこそ給金も高いし保険もある。一歩間違えば明日が無い職業だしな」
親父さんは最後の方を少し悲しそうに笑いながら言った。恐らくこの間貰った盾の所有者を思い出したのだろう。仲間を見つけるにしても、いつまでも路銀がある訳では無かっただろうから、冒険者として登録してたに違いない。
ギルドに戻ったらミレーユさんに尋ねてみよう。彼が探していた人たちに関するヒントか何か残っていないか、聞いても無駄にならないはずだ。
「取り敢えずここで着ていくか?」
「はい、着方ってありますか?」
親方に百五十ゴールド渡し残金は二百七十ゴールドになる。少し軽くなったが防御は増した。親方に見て貰いながら皮の鎧を付けて行く。最初脛当てと足の甲、腰当のベルトを締めシャツを着る様に胴を付け、両脇端のベルトを締める。最後に肩当を血が止まらない様に気を付けつつ、腕の付け根にベルトで締めて装着完了だ。
奥様に頂いた篭手があるから篭手は要らないが、一応予備として親方のところで預かってもらう。
「まぁ要らなくなったら下取りするし、それで次の鎧を買うと良い」
「次って鉄ですか?」
「鉄の方が良いが、力に自信があるなら銅を着ても良い。あれは鉄より錆びにくいし硬度的には劣るが悪くない。ただ見た目の色がなぁ」
親父さんの視線の先を見ると、まさに十円玉の色の鎧がそこにはあった。胴の鎧には兜があるが皮の鎧には兜はないそうなので、別売りの銅の兜か鉄の兜を買った方が良いという。
「ね、値段は……」
「銅が三百五十、鉄が五百」
皮や胴と比べて鉄の値段が高いのはそれらに比べて加工が難しく、さらに怪我がなるべくないように工夫が加えられているかららしい。後々を考えるとそれは是非欲しい防具なので、また今日から貯金生活の始まりだ。
皮の鎧を手に入れたことでこれからはモンスター退治にも出れるし、そうなれば稼ぐ額が上がるからそう遠くないだろう、と思うことにする。
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