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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第四章 光を探して

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顔見せ的な鍛錬

「あなた魔法使えるの?」

「少々」


 空いている部屋を確認しながら進み、やっと見つけた部屋に入ると地面以外は真っ白な空間だった。師匠が玉座に座った時に現れたものよりも質素に感じるのは、一般施設だからだろうか。


「早速稽古を付けてくれるわけね」

「ええ。ただの観光よりもこちらの方がお好みで御座ろう?」


 少し距離を取り向かい合うように立つマテウスさん。肘を曲げ左掌を胸の高さまで持ってくると力を込める。じわりじわりと地面から煙が現れマテウスさんの背後に集まり人型を作っていく。


「面白いわねそれ」

「先輩として稽古を付けるからには力をみせねばならぬ。故にこの草原駆ける鳥(メドウ・ティパチャ)を呼び出した」


 マテウスさんの言葉に反応するように筋骨隆々の体にワシっぽい頭、それに翼を生やした煙が脇を締め拳を握り低い声で唸り、たい気が揺れる。どうやらマテウスさんだけでなくこの煙もやる気満々らしい。


見た感じからしてエレミアのような魔法生物に近い感じがした。意思もあるようなので作り上げたというよりは、元々どこかにいた精霊を使役しているのかなと思い尋ねてみる。


「精霊ですか?」

「よくご存じで御座るな。だが何故草原駆ける鳥(メドウ・テバチャ)という名前なのかというのは残念ながら失伝しているため答えられないで御座る。母上が生涯かけて探したものの見つからず、拙者に受け継がれているで御座るよ」


「精霊の故郷探しをしてるのね」

「如何にも。であるが故に拙者は強くあらねばならぬ。どこにあるとも知れぬ精霊の故郷を探すには弱くては話にならぬので」


 お母さんの代から契約している精霊で、共に故郷を探すという目的の一致があるからなのか、呼び出してからマテウスさん自体の力もアップしている気がする。あの二人は契約で繋がり強さもリンクしているということなのだろうか。


「初めて見る形態で興味をそそるわ」

「いつでもどうぞ。本気で来てもらって構わんで御座る。お二人同時でも」


 美しき女神(ディオサ)を呼び出しマテウスさんに殴りかかって行く。それを見てマテウスさんは抜刀の構えを見せたが、草原駆ける鳥(メドウ・テバチャ)が腕を組みながら躍り出て美しき女神(ディオサ)へ先に拳を叩き込むのを見て驚きを隠せない。


個人的な読みだが、マテウスさんの抜刀術を切っ掛けに反応を見て草原駆ける鳥(メドウ・テバチャ)が動く気がしていたからだ。あの精霊は好戦的に見えるが、そんなに野蛮ではないと思ったのもある。


草原駆ける鳥(メドウ・テバチャ)の攻撃にに対して美しき女神(ディオサ)は体を変形させて潜り抜け、草原駆ける鳥(メドウ・テバチャ)の顎へ拳を叩き込んだ。


降下する鳥(カラオテ)!」

「遅い!」


 草原駆ける鳥(メドウ・テバチャ)は体を高速回転させ拳を避けた。エレミアはそれも読んで美しき女神(ディオサ)を軟体化し脇を通り抜け一気にマテウスさんに詰め寄る。ここでもまた違和感がした。高速回転させる技で避ける必要がある攻撃ではないし、フェイント交じりであるのを読めないとは思えない。この違和感の正体はなんだ?


「一閃!」


 抜刀の構えを取っていたマテウスさんは自分の間合いに飛び込んで来た美しき女神(ディオサ)へ向けて素早く刀を引き抜き上部を吹き飛ばす。気を探れるならわかるが、そこにエレミアはもちろんいない。


マテウスさんの一撃をエレミアは避け、素早く納めた刀を抜くには難しい距離まで詰め切る。この行動は刀を使うマテウスさんなら予測できる動きだ。これに対してのカウンターは確実に出して来るだろう。


「もらった!」

「なんの!」


 完全に取ったかと思いきや鞘に副えていた左手で鞘を握りそのまま突き出し、空いた右手でエレミアを突き飛ばそうとした。この動きで確信に変わる。マテウスさんはエレミアを傷つけることを異常に恐れている、と。


まったく本気で無いとは言わないが、全てがけん制であり一撃必殺や重傷になるような攻撃は一つもない。無意識にやっていると思うのでエレミアも感じていないのが助かっているが、普通なら怒られると思う。


エレミアをいなしけん制攻撃だけで誘導するのは動きは流石だし、本気で攻撃すれば少なくとも二回確実に倒す間があった。女性を攻撃し辛いよな……自分もその気持ち良く分かる。ただエレミアも鈍感なタイプではないので、なにか察した場合の気持ちのおさめどころを作っておかないとなと考え、少し侮辱的な行動で攻撃を止める。


「二人でと言ったのは拙者で御座ったな」

「力をみて卑怯ではないと思ったもので」


 全速力でマテウスさんとエレミアの間に不死鳥騎士団の盾を持った腕を差し込み、後方から迫る草原駆ける鳥(メドウ・テバチャ)に対して風神拳の簡易版を放ちけん制した。わかる人には”二人相手でも余裕でカットできるぞ”という態勢をみせる。


草原駆ける鳥(メドウ・テバチャ)を見ると察してくれたようで、ゆっくりと腕を組んでマテウスさんの背後に戻った。


「アタシはまだやれたわ」

「そうだろうね」


 エレミアの言葉に嘘はない。この体勢でもまだ反撃の手を残していたと思うが、このままやってもマテウスさんが窮屈で鍛錬にならない気がしたので止めに入った。自分が女性に対して稽古を付けろと言われても、何度か指導経験を積まないと体の作りとかも違うので難しいと思う。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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