ゲンシとニコ
「ダークエルフって妖精をみたことないんですか?」
「な、無いで御座る……拙者特に森に囲まれて育ち申したが、なんと言うか全然違う感じで妖精よりも妖怪の方が馴染みがあるで御座る」
ナギナミの国はネオ・カイビャクのさらに東にあり、島国で森も多く妖怪や人間の国が乱立し内戦が多かったそうだ。これまたヤスヒサ・ノガミが立ち寄り事件を解決し交流を始めたことで、外との交渉が重要となり纏まったらしい。
大和の国がその中心となり対外的な交渉をしてきて、マテウス・キーファスの母と父が出会ったのはその国だという。彼が刀を持っていたのも生まれ育った国の得物だからだそうだ。個人的には元居た世界の自分の国で廃れてしまったものが、この異世界でしっかり残っているというのも意外な気がする。
師匠曰くヤスヒサ・ノガミも刀を持っていたが、それは妻の月読命に渡して以来使わなかったそうだ。自慢ではないがと前置きしたうえで、ヤスヒサ・ノガミは七つの武器を器用に扱いそれぞれを誰の教えも受けずに超一流に使いこなしたらしい。
個人的にはそれこそが正しいチートだなぁと納得する。普通扱い方の違う武器を七種類超一流の使い手としてなるには人の人生では足りないだろう。
「まだ見ぬ武人を探してネオ・カイビャクからこちらに来たで御座るが、こんな小さな人が喋る上に人間と行動を共にしているとは……世界は広すぎるで御座る」
「感心しているがこれでもまだ世界の欠片でしかねぇからなぁ。親父の頃より広く見えはしてるが余計謎が深くなった気がするし、この星がどれくらいの土地や種族や海があるというのが判明するのは恐らく二、三百年先だろうな」
話している間に残りの分も到着し、皆でご飯を頂く。やはり大通りの御店と違い価格以上の美味しさがあってとても満足だ。師匠に奥様の機嫌を伺うと、深い溜息を吐いて肘を突いて手を横に振る。どうもシスターが直ぐにネオ・カイビャクに行くと知り激昂しているという。
マテウス・キーファスが来たのもあまりの嵐にたまらず城を出てここに逃げて来たらしい。師匠の奥さんであり竜神教大支部を纏めるニコ・ノガミさんは、小柄な美人に見えるがとてつもなく強い。それもそのはず、竜族の女性で力を使い人型になっているのだ。
ヤスヒサ・ノガミと竜族との大戦の結果和平が結ばれ、相互交流として修行も兼ねて師匠が竜族に送られた際に、歳が近いニコさんと一緒に育てられたので所謂幼馴染。二人は喧嘩しながらも仲良く育って行く。
師匠が十五の時に人間族との和平に快く思わない竜族たちが蜂起。師匠とニコさんはそれを鎮圧するべく背中を預け戦ったという。
「古い話だ。なんとか親玉は二人でぶっ飛ばしたが、奥の手だとかで変な魔法を起動させて星を破壊するとか言ってよ。こりゃ駄目だと思った瞬間、親父が来て一撃粉砕よ。やってられんぜこっちは」
「……十五歳で竜族と戦う先生も大概で御座るがな」
「まぁジジイの自慢話なんてしたくねぇけどよ、母ちゃんは強ぇんだよ要するに。それこそ竜の大群が来たところでびくともしない。これ以上暴れられると色々支障が出るから、なんとかティアナと二人で出来るだけご機嫌を取らないといけないんでマテウス、今日はお前がこの三人を案内してやってくれないか?」
「心得ました。どうか早めに解決を。拙者寝るところがなくて困るで御座るよ……」
「ジンたちと同じ宿に止まれ。今日から城は泊まり勤務無しってことに全員なったから」
それを聞いても喜ばないマテウスさん。森とか自然の中ならどこでも寝れるらしいが、こういう場所では決まったところでないと寝づらい体質らしい。師匠は御店の料理を幾つかテイクアウトして城に戻って行く。見送ってから早速シャイネンを案内してもらうことになったが、出来ればこの国の大きな図書館に行きたいというと
「それがその……図書館はニコ様の管轄と言うか、ヤスヒサ・ノガミ様から直接受け継いだものなので言わばニコ様の所有物でもあるので御座る。故に一番大きな図書館には許可が無いと誰も入れないで、先生はご機嫌取りに忙しいのでして」
なるほど……それで師匠はシスターと共にニコさんの御機嫌取りをしなければならないのか。そうなると暫くは図書館には入れそうもないなと思いつつ、そうとわかったのなら焦ってもどうしようもないので鍛錬できるような場所はないかと尋ねると案内してくれるという。
町の中央から西へ歩いて行った先には大きなドーム型の建物があり、看板に”鍛錬場”と書かれていた。中へ入ると幾つか部屋があり、色んな人種の人が得物を持ったり魔法を使ったりして鍛錬を行っているのがガラス越しに見える。
魔法によって空間を切り取られており、外へ被害が出ないようになっているので思い切り鍛錬が行えるらしい。暗闇の夜明けがシャイネンを襲撃しないのも、国民がこう言った施設で鍛錬を行っているからこそなんだろうなと思う。
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