ダークエルフと人間
「あら注文しても良いかしらダークエルフの給仕さん?」
「は? 誰が人間なんかのために働くものですか」
「あら可笑しいわね。竜神教は英雄ヤスヒサ・ノガミと最高の竜人ラティによって再興されたものであり、彼らの奇跡によって世に魔術粒子は復活したはず。それを享受しておいて人間なんかって」
「流石人間ね。馬鹿の一つ覚えみたいにそれを唱える。宗教だから仕方ないけど覚えておくといいわ。ヤスヒサ・ノガミにはヤスヒサ・ノガミを勝利に導いた一番の立役者であるマギ・イザナを始め、多くの負傷兵を救い医学の発展にも寄与したパルヴァ・キーファスなど多くの同胞がその勝利に貢献したのよ?」
「それエルフじゃない。ダークエルフは誰なのよ」
押し黙るダークエルフの人。俺は全くわからないのでメニューから美味しそうなのをチョイスし、離れたところにいる給仕の人に持っていたメニューを掲げて指さした。向こうもそれを見て頷きメモし、サムズアップしてくれたので、こちらも同じようにしする。
「と、とにかく。ヤスヒサ・ノガミ、ヤスヒサ・ノガミ、アンタたち人間は五月蠅いけど、多くの種族が協力したからこその魔術粒子復活なの」
「そうね。だから人間であることで差別される謂れはないわ。他にご意見は?」
「ヤスヒサ・ノガミが特別だっただけでアンタたち人間がデカい顔するなって言ってるのよ」
「言ってることが滅茶苦茶でよくわからないけど、要するに”あの戦いで多く死んだのは人間だし動いたのも止めを刺したのも人間だけど、あまり言われると立場がないから優しくしてね傷付くから”ってことでしょ? そうね敢えて言うなら」
エレミアはわざとらしく周囲を見渡してから鼻で笑いながらトイレを指さし
「生まれ変わって来いクソヤロウってことかしら」
と素敵な笑顔で吐き捨てるように言った。鎧の中の定位置で盛り上がりながらチラ見していたシシリーも、ついには顔を出して拳を突き出し歓声を送り始める。見たくないけどダークエルフの女性の顔を見ると額中に血管が浮き上がり白い炎を纏い始めた。
「あら、いよいよかなぐり捨てて人間の敵に、悪しき竜の後継者になると決めたのね。良いわ潔くて大好きよ。結界を張って我が身可愛さに身を隠し、全てが終わった後に甘い汁を吸いにノコノコ出て来た汚物共に相応しい末路だわ」
「絶対零度」
右手をダークエルフの女性が突き出すと周囲は熱を失いだし一気に気温を奪い去られていく。彼女の右手には粒子が渦を巻きだしてる。
「ジン、私はシンラとは協力していたけど趣旨に完全に同意していた訳じゃないのよ。その理由はこれよ。こういうクソヤロウが本を読むだけで影響も考えず分不相応な魔法を使えるようになる。そんな世の中がもう始まりかけている。これ以上増やせば確実に世界はまた傷付く」
「生意気な人間め!」
「差別されるのが嫌いな癖に差別しに来る、見下す民族の上前を撥ねてるくせに被害者面をする、その上自分は死なないと思って言る。最早手に負えないわ」
「死ぬが良い!」
「その手を突き出したらお前の首を突くで御座る」
渦を巻いていた粒子が速度を上げ周囲の冷気もそれに集まりヤバい、と思って不死鳥騎士団の盾を下ろして前に出ようとした瞬間、ダークエルフの女性の背後に人影が現れ首元に刀が付き付けられる。
「邪魔をするな!」
「ならば撃て。お前が撃つのと拙者がお前の命を絶つのとどっちが早いか、競争して見る度胸があるか? 結果はあの世で知ることになるで御座るが」
「くっ……」
明らかに間に合わないのを察し、突き出していた手を下げるダークエルフの女性。周囲からも冷気が解消されて元通りになり始めてエレミアとダークエルフの女性以外はホッとする。見ると白いローブに身を隠し三度笠を差して口元を隠した人物が女性の背後にいた。
「さっさと消えるで御座る。お主一人に我が民族を貶められては堪らない」
「ちっ! 人間の犬め!」
背後にいた人物が刀を収めて出て行くよう告げると、捨て台詞を吐いて女性は逃げるように店を出て行った。我が民族っていうとこの人もダークエルフなのだろうか。見ただけでは隠れている部分が多くてわからない。
「お礼を言った方がいいかしら?」
「いや結構……というよりお主たちならあれをどうとでも出来たであろうというのはわかっている。だがこちらにも一応誇りがあるで御座る。汚名返上も出来ておらぬのにこれ以上塗りたくられては返しようもないのでな」
「ダークエルフの方ですか?」
「我が民族のものが大変無礼なことをしてしまい申し開きようもない。是非お食事は拙者に出させて欲しいで御座る」
「知らない人に恵んでもらうほど私たちは飢えて無いわ」
「も、申し訳ないで御座る。遅ればせながらお初にお目にかかります、我が名はマテウス・キーファスと申す。以後お見知りおきを」
「キーファスって確か」
「ちょっとそこらへんは大変複雑な感じで御座るよ……」
「なら丁度ご飯奢ってくれるんだし一緒に食べながら話してよ」
「えぇ……」
マテウスさんはエレミアの申し出にうろたえながらも、同族が迷惑をかけた負い目か席を近くから持ってきて一緒のテーブルに着いた。
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