シャイネン城
シャイネンの街並みは芸術家が建てたような家が多く立ち並び、ここだけ元の世界の建築からみても近未来のような感じになっている。町を歩いている人もいるがほうきで空を飛んでいる人や、靴が光っていて忍者のように建物を蹴って移動している人もいた。
まるで別世界。これを他のところにも広げたいという願いをシンラが持つのも少しわかる気がする。便利になることで弊害があるから竜神教は認めていないんだろうけど。
「か、閣下! 御嬢様!」
「お疲れお疲れ」
町の一番奥に聳え立つ、穂先の大きな槍が地面から突き出したような建物の前に来ると、門番が師匠とシスターを見て慌てふためいた。急いで中に入り少し間があった後、細かい装飾の為された縦長の帽子とローブを着た、ブロンズ色の長い髪をした女性が走ってくる。
「おう! しばらくぶり!」
師匠が手を上げて明るく挨拶すると、その女性も微笑みながら近付いて来たので久し振りの再会を喜ぶのかと思いきや、拳が届く距離までくると凄まじい殺気を放った。急いでエレミアとシスターの手を引いて距離を取る。
「うひょっ」
「ちぃっ!」
綺麗な姿勢で高速の正拳突きが師匠の顔面を捉えようとしたが、あっさり片手で抑えられる。だが師匠以外の周りに衝撃波が起こりあちこちひびが入った。なんなんだこの人は……驚きながら佇んでいると
「母上ただいまー」
シスターが呑気にそう言いながら正拳突きをしていた人に駆け寄る。すると今度はシスターに向かって正拳突きを繰り出す母上。
「うひょっ」
「このっ!」
師匠の時とは違い、シスターが避けたのでそれを追い掛けて攻撃を繰り出して行く。それをぼーっと眺めていると、長いから中へ入ろうと師匠に促されエレミアと共に建物の中へと入る。真っ直ぐ進んだところの床に五芒星が書かれた場所があり、そこに立つと五芒星を囲むように光が走って浮き上がる。
「ここが最上階だ」
エレベーターのように上昇し広い場所に出て停止する。師匠はその広い場所の一番奥にある玉座にどかりと座り、肘かけの先にある水晶に手を置くと椅子が二つ目の前に現れ座るよう促された。
「やっとこさ着いたわけだが、ここから先も長いぞ? シャイネンの北にある船着場から出ているネオ・カイビャク息の船に乗り、さらに歩かなきゃならん。まぁその前に不可侵領域の資料をうちの図書館で調べて行くんだろう?」
「そのつもりです」
「ならその間にお前を鍛えて海での移動以外は速度を上げて進めるくらいにしよう。この部屋には面白い機能があってだな」
師匠が水晶を二回触れると部屋の景色が変わり荒野になった。魔法の力でこの場所だけを隔離したらしく、師匠も父親であるヤスヒサ・ノガミや母親のラティ・ノガミに鍛えられたという。
「ここならどれだけ暴れても建物や無関係な人間に被害は出ない……ちょっとやってみるか。お嬢さんも掛かってきていいよ」
エレミアは椅子から立ち上がると即美しき女神を呼び出し師匠にけしかける。美しき女神の拳が師匠の顔面にヒットするかと思われたが、拳一つ分くらいのところで見えない壁に遮られた。
それがなんなのか気になり美しき女神の後ろから師匠へ近付き拳を叩き込む。ぶつかった感覚はなく、どう力を入れてもそれ以上先には進めない。
「この先なにがあるかわからないから、さわりだけでも触れておくといい。これも魔法だ」
どう抗って良いかわからず暴れてみるも、あっという間に距離を離されてしまった。美しき女神も同様にエレミアのところに戻ってくる。
「私が知っている魔法とは違うわね」
「まぁな。こちとら生まれた時から鍛錬をしてるし、お前さんも長生きだろうが年季が違うってところだな」
「あの、これはどうやって防いだら良いんでしょうか」
「覆気を全力でして攻撃、プラス吸気を使用して相手を削るって感じかな。俺も親父から習ったのがそれからだし、お前も段階を踏んで行くといい。縁があって弟子としたからにはしっかり鍛えてやる。お嬢さんも例の神様名乗る奴と戦うなら鍛えなきゃ勝てないだろう?」
「まさか竜神教のトップに鍛えて貰えるとは思わなかったわ」
「コイツと手を組んでラッキーだったな。神様名乗る奴に一泡吹かせられるかもしれん」
話が終わると早速このまま鍛錬をしようとなり、言われた通り全力で覆気して攻撃を仕掛ける。ただ全力で覆気した時に余計な気が使われて無駄に消費していると言われ、極力大きさは広げずに密度を増すように意識してみろと言われた。
流石に直ぐには出来ないので全く敵わず、向かっては放り投げられを繰り返すだけだった。この日は一旦これまでとなり、元の空間に戻る。暫くするとシスターたちも上がって来たが、シスターは母上に抱きしめられていて、こちらを見ると必死にもがき始める。
「酷いわ! ゲンシもティアナも全然帰って来てくれないし! ティーオなんてまっっったく帰って来てくれないのよ! どうしてなの!?」
母上の怒りが収まらないようで暫く苦情を聞き続けた後、皆で一階に下りる。
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