敵対する者
「おいおい、まさか待っていてくれたわけじゃないだろうな」
城下町を抜けてから山沿いへ向かうために森に入って少しした頃、道を塞ぐ者が居た。
「もちろんその通りよ。あなたに教えてあげようと思ってね」
「体調はもう良いのか?」
山で風神拳を受けた時はだいぶしんどそうだったが、今は平気そうに見える。またなにか問題が発生したのを教えてくれるようだ。せめて一息吐かせて欲しいが敵の狙いはそれだから仕方ない。ならこちらも例のこの世界を作ったとか言うのに会った話をしておかないとな。
「随分呑気なのね?」
「まぁね。エレミアお探しの神様にあったからかな。そっちがこっちより早く動くのも頷ける」
「は?」
エレミアは急に顔色を変えこちらを睨む。まぁ彼女にとってそれは憎むべき敵だから当然だろうけど。家を襲われた時の話とアリーザさんが暴走した時の話を包み隠さず全て話すと、エレミアは一瞬目を見開いて驚いた後、悲しそうな顔をして俯いた。
同志として行動を共にしていたからショックを受けるのも仕方がないが、話を信じてくれたのは意外だ。普通犬が喋ってそれがこの世界を作った神様だと言われても信じないだろう。エレミアにそんなに信用されていたと思うと、もっとなにか教えられないかと記憶を探る。
「そんなに頑張ってくれなくても大丈夫よ。あなたが私に対して嘘を吐くにしてもこんな手の込んだ長い話をするとは思えないし」
「いやぁすんなり信じてくれたから他にも何か気付いた点はないかなと記憶を辿ってたんだが……」
「あなたに関することだけで信じたわけじゃないのよ。聞いてるかどうか知らないけど、私の家系は魔女の一族と昔から呼ばれていた」
エレミアは自分の一族の話を始める。例のヨシズミシープが見つかるより前からこの土地に根付いていた一族で、医学が発展する前は医者の代わりをしていたことから不思議な力があると畏れ敬われていたようだ。
天候を読むだけでなく、少し先のことをぼんやりとではあるが予測できる力もあり、例のヨシズミシープに関して王族から相談を受けたこともあったらしい。その時に一匹残らず大事にするように伝えると共に、蔑ろにすれば祟りがあるとも伝えたと昔の記録にあるという。
「結果は知っての通りよ。以降私たち一族は自分たち以外に占うのを止めたけど、占う力だけは代々伝わっていく。特に私の姉は一族でも突出した占い……いえ、あれはもう未来予知に近い力を持っていたわ」
「エレミアにも占う力があるんだな」
「ええもちろん。姉ほどの精度はないけどそれなりにはね。そしてここに来る前にも占いもしたし寝ている時に見た。だからあなたの話を信じたのよ」
「神が来るのをみたのか」
一見人の良さそうな顔をした青年が、この国を抱えるようにしていたのを夢でみたらしい。神の一人だろうと感じ、この作戦に率先して名乗りを上げて来たという。本当に神なのか自分自身で確かめるために。
「テオドールが絡んでいるというのは良い情報ね。奴を締め上げればソイツの居所を知れるでしょうからね」
「今アジトに戻ってテオドールがいるかな? 俺がエレミアと何度も接触しているなら神様を嫌ってるのを知っていると考えるだろうし、接触すれば今回の件を話さない確率は低いとテオドールなら考えるだろう。のこのこ帰るよりは極力接触しないようアジトに戻らないと思うけど」
「暗闇の夜明けが今回の件で積極的に出ないで私一人に救援を任せたのは、厄介払いの可能性もあるわね」
「どうだろう。元から今回の件で出て来て俺と接触しようとしてたとすれば、その可能性はあるかもしれないね」
「ジンはどうするの?」
「俺は怪しげな奴にもらった魔法に頼るつもりはないし、協力するつもりもない。仲間を攻撃されたら例え無駄でも立ち向かう」
胸元に居るシシリーを見ながらそう告げる。今は奴が希望していた不可侵領域になにがあるのか調べ、対策できるならしておきたいと考えている程度だ。去り際のやり取りからしてまた来るのは間違いないし。
「そうなると私たちは敵同士ではなくなるわね」
「良いのか? 暗闇の夜明けを裏切っても」
「裏切るもなにもあっちが裏切ってたんだからお門違いよ。それに下っ端は知らないけど上は基本的に寄り合い所帯で皆それぞれの目的のために集まっているにすぎないし」
「確かにその通りだけどあっさり裏切るんだねぇエレミア」
すぐさま不死鳥騎士団の盾を腰から取りエレミアを押し退けて盾を前に出す。木の上から降りながらの一撃は重いがなんとかこらえて受け払った。
「ウィーゼル、来ていたの?」
「保険をかけておかないほど錯乱してはいないみたいだよ? 我らがリーダー様は」
前にコウガを追って現れた巫女服に顔半分お面で隠した獣人のウィーゼル。善を滅する者という冒険者狩りを行う人物だ。
「私が裏切ると予見していたとはね」
「たぶん違うよ。アンタが原因というよりそこの坊やが原因で引き抜かれるかもと思ってたんじゃないかね。なにしろここはアンタの故郷だし」
「センチメンタルでそうなると?」
「幾ら長生きしても処女だものねぇお婆ちゃま」
「あばずれが……!」
左腕を寝かせて甲を右肘に当て、右腕を立て頬に手を当て煽るように下卑た笑みを浮かべて見下ろすウィーゼル。エレミアが美しき女神を呼び出すより早く、ウィーゼルは飛び掛かる。
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