宰相発見
「ジン・サガラが居たぞ!」
陛下を探すために呼吸と気を整えようとしていると、頭の方から声がするので首を上に向ける。小綺麗な鎧を着た集団がこちらを見ていた。貴族連合がこんなところにいるということは陛下は見つけられていないようで安心する。あとで陛下にお会いしたらどうやって隠れたのか教えて貰おう。
「見つけたぞ……ジン・サガラッ!」
見ていた連中を押し退けて久し振りに見る顔が現れ憎しみを込めて叫ぶ。初めて見た時の余裕でいけ好かない顔はどこへやら。青筋を立て口から泡を吹かんばかりに御怒りの様子。せめて礼節に則った挨拶をして差し上げたいが、面倒くさいのでこのまま見つめることにした。
「こうなれば貴様の首だけでも!」
「たかが子爵の首を取っただけでご満足なのですか? 陛下の弟であらせられる貴族の中の貴族であるところのノービル殿下は」
ノービル殿下は歯ぎしりしつつ口の端から泡を吹きながら窓に手をかけ足を掛けて飛び出そうとするも、慌てすぎて足が引っ掛かり転げながらこちらに来る。丁度気が不足していたので頂戴すべく、ゴロゴロ転がって来たノービル殿下の背中に手を当て
「吸気!」
大した量はないだろうが気を吸収させてもらい横へ転がる。元居た場所に仰向けに寝転んだノービル殿下は気持ち良さそうな顔をして寝ていた。見た感じ気は空になっていないだろうが暫くは動けないだろう。
見ていたお仲間も急いで庭に出て来た。気を貰い動けるようになったので彼らと入れ違うように城の中へと戻る。吸気をノービル殿下からしたので彼のようにならないか心配だったが特に気分的な変化はないみたいだ。
「ジン!」
右側からシシリーが飛んで来て肩に着地し座る。一呼吸おいてから、師匠が門の前に居るクライドさんたちに王妃たちを預けたのを確認し、師匠から別方向から陛下を探すという伝言を頼まれたと教えてくれた。シシリーに礼を言い、陛下を探すべく城を移動して行く。
初めて城の中を動き回るが想像以上に部屋が多い。それでも城内の気は最初と比べて十分の一くらいに減っていた。少し迷いを生じたので一旦足を止め、相棒であるシシリーの考えを聞いてみることにする。
「陛下が出てこないのも、まだ敵がいるからなんじゃないかなと思うんだ。数も少なくなったことだし、宰相を先に確保しようと思うんだけどどうだろう」
「こんな重要な局面で意見を求めてくれるなんて嬉しいわ! ……あまりしたくないけど、このくらいの人数なら大丈夫だと思う。目を閉じてくれる?」
よくわからないがシシリーが言うならと目を閉じる。少し間があってシシリーの小さな手がおでこの中心に触れた。するとあちこちから声が耳に届いて来る。中にはクライドさんや王妃に王女、それに……宰相の声もあるぞ! 方向は……恐らく三時の方向から聞こえている。
「凄いなこれ……妖精の力なのか?」
「やっぱり繋がったのね」
目を開いて喜ぶも、シシリーは悲しい顔をして手を退け肩に座る。なぜなのか問うと、例の魔法発動によって繋がりが強くなったと感じたから試してみたという。妖精は身を護る為の能力として、必要に応じて聴覚を倍加出来る力が備わっているらしい。
シシリーが感覚を繋げた結果、同じ力を得られて聞こえたようだ。そう聞くと改めて人離れして来たなぁと冗談ぽくいって笑うもシシリーは笑ってくれない。
「私たち妖精はこの世と別の場所の間に生まれたとも言われているわ。現れては消え現れては消える種族。死というものがあるのかすらわからない。その私たちと繋がるのがジンにとって良いことなのかどうか」
「なるべく魔法とかそういう力に頼らないで生きるよう頑張るよ。このくらいの範囲内で使う力なら影響ないって思ったから貸してくれたんだろう?」
「もちろん。夢をみせた子供たちも皆老いて死んだもの。それに比べたらミクロレベルにも満たないわ」
意味ありげな言葉に対して細かく聞きたかったが、タイミング良く貴族連合の残党がこちらを見つけて声を上げた。宰相に気付かれたら逃げられる、そう考えて先ずは残党を倒すべく駆けだす。人数的には7人程だったので吸気のみで戦闘不能にし、宰相を確保すべく走り出した。
辿り着いた場所は議事録室で、宰相が隠れているとしたららしい部屋ではあるなと思う。ドアをノックすると、どうぞと声がしたのでドアノブを回し中へ押す。
「ようやく来たな英雄殿。もう騒動は収まったのかね?」
本棚が立ち並んだ奥、窓際の日の当たる場所で机に肘を立て手を組みながらこちらを見て宰相は尋ねて来た。まるで他人事のように言う宰相を見て、だからこれまでどこにもいなかったのかと納得する。
「もうじきに終わるでしょう。宰相閣下はずっとこちらに?」
「ああ。私も人質になれば面倒な存在だ。彼らに見つからぬよう逃げ続け、今さっきここに来たのだ。本来なら陛下をお探しに行くべきだが何分老体。英雄殿の邪魔になるだけだ」
穏やかに語る宰相。なんというか底知れない妖怪じみていて、その老体すら嘘だと思えて仕方がない。
「宰相閣下の目的は果たせましたか?」
「目的? 君もなんとなくわかっていたろうがこんなものは成功するはずがない。私の目的とやらがあればこんな体制で行っただろうか」
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