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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第三章 爵位の意味を探して

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今使える技で

「鬼ごっこをしている余裕が貴様にあるのか?」

「お互いにそうだろう。そっちの宰相はどこにもいない、陛下のように追われているわけでもないのに何故だろうな」


 このまま隙を永遠にうかがい続けるのはお互いにとって意味がない。だが先に動いた方がこの場合不味い。駆け引きをしなければならないが、ありがたいことにあっちから仕掛けて来たのでしっかり返す。何事もなかったかのような顔をしてゆっくりとこちらの動きを追っていたが、こちらが移動し終わり足を完全に地面に付ける寸前に高速で突っ込んで来た。


踏みしめて受けるのも考えたが、鎧を着たガタイのいい獣族の突進をそのまま受ける勇気はないので残した足で地面を蹴りギリギリのタイミングで飛び退く。相手もこちらが飛び退くのは考えていたので方向を変えて来たが、それはこちらも呼んでいる。今度は両足を揃えて飛び退く。


「ジン!」


 背後でその声を聴いてハッとなりベア伯爵を見るとニヤリと笑う。利用出来る者は全て利用して勝つ。生き残るために必要な判断だ。だが……!


「来い!」

「ぬぅん!」


 覆気(マスキング)をして左掌を突き出し構える。それに対してベア伯爵は俺が一歩も引けないのを利用し体全てで押しつぶすべくショルダータックルをして来た。全力で覆気(マスキング)してどれだけ踏み止まれるか。上手い具合にここに照準を合わせて付き合ってくれていたのに気付かなかったのは失策だ。


「おおおお!」


 気合を入れてベア伯爵のショルダータックルを両掌で気の壁を作り受け止める。強い衝撃があったが、後ろから小さな悲鳴が聞こえただけで移動していないのを感じるので大丈夫だったようだ。ベア伯爵はもちろん当たっただけで諦めない。押しつぶすべく足で地面を掻き押し込んでくる。


この体勢から風神拳は出せない……何か他に手はないか!? 自分が教えてもらった中で使えそうな技はないか!?


吸気(インヘル)!」


 覆気(マスキング)を一瞬解除し目を閉じ相手の気をこちらに吸い込むイメージを浮かべ、ベア伯爵の肩に触れた瞬間叫ぶ。体に燃えるような気が流れ込み筋肉が隆起する。


「ば、馬鹿な!?」

「っしゃあ!」


 こないだのように倒れる前に吸気(インヘル)を解除し即頂いた気を使い覆気(マスキング)する。先ほどまで押し込まれていたのが嘘のように、ゆっくりと押し戻した。驚いてバランスを崩したベア伯爵の懐に入り込み、地面に着こうとしていた右手の手首をつかんで背負い投げで投げ飛ばす。


ベア伯爵は驚き空中でバランスを崩したが、あと一歩のところで体勢を立て直し不格好だが着地をした。このチャンスを逃さない! すぐさま風神拳の構えを取り町の外れまでぶっ飛ばすべく思い切り叫びながら風神拳を放つ。


「ぬぉおおおっ……ああああああ!」


 両足を踏ん張り腰を落として暴風を堪えていたが、徐々に足元の地面が傷付きだしつま先近くの地面が削れ浮いた。足の指で地面をつかもうとしたが叶わず、ベア伯爵は暴風に飲まれ空へと舞い上がり飛ばされていった。


最後まで油断せず構えを解かずに見守っていたが、流石にもう大丈夫だろうと思って構えを解くと一気に疲れが襲って来て尻餅をつく。今までで一番重くてデカくてパワフルな相手だった。今出来る全てを出してこの場からどかすしか出来なかったが仕方ない。


「シシリー、王妃様たちは?」


 振り返ると王妃様と王女様の肩に手を置いている白髪の老人がいた。


「師匠来てたんですか?」

「見てたよあの獣族を押し返すところからだがな。不味かったら手を貸そうかと思ったが、なんとかなったな」


「ギリギリですよ。御覧の通り動けない」

「その程度で済んで良かったじゃねぇか。アイツはお前さんが言うように貴族連合の武の切り札。見ての通りただの獣族じゃあない。最近はヨシズミかぶれしてあんなだが、元々は名の知れた肉弾戦大好きな武闘派だ」


 それを聞いて血の気が引いた。剣を振り回してたが格闘がメインだったとは。修行し続けていたら負けてたんじゃないのか!?


「う、運が良かったですね……俺」

「元々素質があった奴だがそれに任せて暴れ名を挙げた男だ。貴族主義に見せられ怠惰の時を過ごした奴にお前が負けたりしないだろうし、ここでなんとかなってもいずれ誰かに殺されてただろう。お前だから死なずに済んでアイツにとっては幸運だったよ」


 とてもそうは思えないが、師匠がそう言うならそうなのだろう。まさか武闘派で師匠が知ってるほどの人物だったとは驚いた。どうか誰にも知られないか別の要因で負けたかの二択でありますようにと祈る。またわけのわからない者たちに突っかかられるのだけは避けたい。暗闇の夜明けだけで十分だ。


「取り合えず王妃と王女を外の連中に託してこよう。王様も探さにゃならんのだろう?」

「あ、はい……っと」


 起き上がろうとするも足がよろけて膝を付いてしまう。吸気(インヘル)した分は全部出したから当然か。


「そんな調子じゃ駄目だな。そのまま待ってろ二人は俺が連れて行く」

「師匠、申し訳ありません」


 そのまま大の字になって寝転ぶ。出すもの出し切ってようやく勝てたけど本当に良かった。あの人より強い敵は今は居ないはず。



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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