風雲、ヨシズミ城
目指すは一階奥の王座の間。出来れば床に穴をあけて一気に行きたいが、王様がどこにいるかわからない以上無茶は出来ない。胸元を見るとシシリーはまだ寝ていた。このまま寝かせてあげたいが今は一人でも多くの力が必要だ。
掌に乗せて優しく背中をトントンしていると目を覚ましてくれた。寝ぼけ眼のシシリーに事情を説明し、王様を探すために力を貸してくれと言うとよろけながら立ち上がり背伸びをする。そのまま肩へ掌を移動させると座ったので走り出す。
起きたばかりだからすぐには難しいだろうからその間は気を探りながら移動していく。とはいえかなりの人数が城の中におり、戦闘中なので大きくなったり小さくなったりしているものがあちこちにある。
「敵だ!」
「ジン・サガラだ!」
脇道から白いローブたちが現れて道を塞ぐ。見れば得物に統一感はなく、ボウガンやアックスに刀そして背丈くらいの剣などバラバラだ。ヤスヒサ・ノガミ由来の武器だとすれば得手不得手がないのかと感嘆する。
風神拳で全員まとめて吹き飛ばすのが正解か迷う。一人一人叩いて行けば直ぐに侵入を知られないし師匠の陽動もあって時間が稼げる。風神拳を使った場合、正面の師匠と中の俺とで狼煙が上がり相手に混乱を起こさせる。
もっと情報があれば選択肢も選びやすいが全くない今、奇襲でイニシアチブを取る相手の優位を崩すのが先決と考え風神拳を放ち城の壁もぶち破って外へ吹き飛ばした。エレミアへ放った時と同じように以前と風神拳の威力と言うか技が変わった感じがする。
見れば廊下には風の渦で傷が付いたようになっていた。室内で放つのは例の鉱山以来久し振りだけどこんなだったかなと考えてしまう。
「なんかジン凄いね」
シシリーがそう言うので見ると何故か悲しそうに俯いていた。どうしたのか尋ねると、例の家の前でのことをシシリーは気にしているという。
「魔法はね、便利だけどそれだけじゃないんだよ? 使う人によっては多くの人の命を奪う。特に人の精神に直接作用するものは直接攻撃する魔法とは全然違うの」
「あの時のあの状態は魔法によるものなのか?」
「魔法は通常人間族や獣族が触れる法則の外にあるもの。ジンがあの時したのは自分の怒りの感情を相手の脳に直接送り込んだ、たぶん私たち妖精族の魔法に近いもの」
シシリー曰く、妖精は悪戯をするため人に幻覚をみせるという。あの家で起こした現象はそれに似ているが凌駕するものであり、禁忌なのではないかと語る。怯えるように震えるシシリーに手を添え使わないよう気を付けるよと言うと手にしがみ付いて頷いた。
激昂するような問題はこれまで何度もあったがそれでも耐えて生きて来た。あんなにも自分が激しく怒ったのを時間が経って改めて冷静に振り返ると、別人のようで恐ろしい。
「こっちだ!」
下へ降りる階段まで移動すると人間教だけでなくこの国の兵士も混じって現れた。この戦いが終わっても沈静化するのは容易ではないのを痛感する。出来ればノービル殿下にはわかりやすく行動して欲しいが、漁夫の利を得るためどこかに隠れているんだろうなと思うと鼻で笑ってしまう。
「なにが可笑しい!」
「お前たちの大将はどうした? 部下が死ぬのを飯でも食いながらくつろいで見ているのか?」
「死ぬのは貴様……う」
「俺が死ぬかお前たちが死ぬか……どちらか確かめに来たらどうだ?」
階段に直撃しないように斜め下へ風神拳を放ち、先頭にいた集団を下の階の壁ごと吹き飛ばした。それを見て後に続いて来た連中は後退りして行く。逃がすわけにはいかないと考えゆっくり歩いて距離を詰めた。確実に追い詰めて恐怖を植え付けなければ、あとで反撃に打って出たりされれば元も子もなくなってしまう。
「我らには……我らにはヤスヒサ・ノガミがついてるぞ!」
虚しい掛け声を上げて兵士と白いローブたちは下がるのを止め得物を手に突っ込んできた。ゆっくりと覆気をして思い切り右拳と右足を引き力を溜め、左手を突き出し照準を合わせる。
「あああああ!」
全てを吹き飛ばすくらいの気持ちで放った風神拳は、信者たちだけでなく廊下の床も壁も削り一番遠くの壁を突き破る。脇から出て来た応援に来た信者たちはその様子を見て動きを止め、目を見開き口も開けっ放しでこちらを見た。
「風神拳はヤスヒサ・ノガミの代表的な技じゃないのか? お前たちも打てるはずだろう? 加護があるなら」
「ひ、ひぃいいいい!」
我先にと逃げ出す信者たち。恐慌状態に陥り転んだ仲間を踏みつけて去っていく。踏まれた男に対して宰相とノービル殿下はどこだと尋ねると、知らないと首を振ったので横の壁を拳で少し壊した。すると今度は素直に話してくれて、王とその家族を探すため場内を徘徊しているという。王は見つけられたのかと聞くとひょろい緑の帽子の男と共に場内を歩いているのを目撃したと教えてくれた。
他の国の使者と共に最上階で階段をしていたから下に降りたと思うとも教えてくれて、感謝の言葉を伝えると共にしばらく動かない方が身のためだと告げて去る。
どうやらケイドロみたいになってきたなと思いつつ移動を開始。あちこちに信者と貴族主義の兵士がおり、完全に陛下側の兵士が急襲で潰されたりまたは外へ誘き出されたりで相手は数的有利を確保したままだ。あまりしたくはないがこのままでは相手の有利を覆せないので移動しながら潰していく。
「ジン、上には居ないわ。兵士も下の方が多い」
ようやく目が覚めたシシリーの言葉に従い下の階段を目指し走る。
読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。




