間に立つ元凶
色々聞きたいことはあるが今はそれどころじゃない。先ずシシリーやシスターそれにベアトリスの無事を確認しないと。シシリーは胸元に居たので手に乗せて鼻の近くに耳を寄せると、寝息を立てているだけだったので大丈夫なようだ。
次に背負っているシスターを下ろして寝かせ、同じように耳を寄せさらに脈を図ったが呼吸も普通にしていて脈も乱れはない。倒れているベアトリスにも同じように確認したがこちらも問題ない。
「さぁ案内するよ。アリーザのところへ行くんだろう? 走りながら話をしようじゃないか」
「ジン!」
シスターとベアトリスを地面に寝かせておくわけにはと思ったところで町の方角から複数の足音が聞こえて来て名前を呼ぶ声がした。見ると町長が兵士を引き連れて駆けつけてくれたようだ。近所の人が火事だとギルドに報告してくれたらしい。
「イーシャさんとコウガたちは?」
「町に買い出しに来ていたらしくてな、町の井戸から水を桶に汲み他の兵士と来るよう言っておいた。燃え広がらないよう先に来たがコイツらは一体……」
「コイツらは放火犯です、全員捕縛し尋問を。俺は逃げたコイツらの仲間を負いますので」
町長にそう告げると、アイシアは腰を上げ走り出したのでその後を追う。アイシアが走り向かっている方向はヨダの村でその先は関所がある。このままだとアリーザさんは国外に連れ去られてしまう……もっと速度を上げないと駄目だと考えアイシアに負けないよう全力で走る。
「さぁ競争と行こうじゃないか。こちらが追い付くか奴らが逃げるか」
「何面白そうに言ってるんだ? 俺はお前を信用していない」
「それでいい。いきなり信用されても気持ち悪いしね。師匠や康久のなんらかのメッセージが残ってると面倒だから、最初に君には僕の目的を話しておくよ」
アイシアを遠隔拡声器として使う人物は、魔法を使いこの世界を作ったという。自分自身は完璧であったが後に遺伝子の異常が判明し、今度こそ完璧な存在として生まれ変わるべく活動していると語る。
エレミアが聞いたら卒倒するような話だなと思いつつ、はいそうですかと納得できるはずもない。本当に力を与えられていたとしても、それだけで神様だと信じないだろう。何の素養も無い力を貰ったとしたら中々説明がつかないが。
「よくわからないが何故俺に力を与える?」
「可能性があるからだよ。僕が求める最強の遺伝子の列に加わる可能性がある。特に君は僕が選んだわけでも師匠が呼んだわけでもないのに頭角を現しているからね」
「やってることが気持ち悪いな」
「まったくもってその通りさ。気持ち悪いのを自覚しているからこそ、君に少しだけ魔法の力を与えてみた。君が望むならもっと力を与えても良いけど?」
「いらん」
「言うと思った。そう言うところがシンラとは違うね」
「シンラを知っているのか?」
「もちろんだとも。僕は彼に呼ばれたようなものだからね。彼はこの世界では神である僕に祈ったのさ”竜神教を亡ぼせる力を”とね」
「魔法の力を拡散させるのではなく?」
「目的と手段が入れ替わるなんてよくある話だろ? もっとも今はそれに君も加わってるだろうけどね」
ストレートに迷える者を救わない感じは神様っぽいなとは思う。シンラにも力を与えたとしたらコイツがその元凶なんじゃないのか?
「シンラが暴れ始めたのもお前のせいじゃないのか?」
「なんの可能性もない力を与えても使えないからね。不器用な者に絵を描く工程全てが見えたとしても描けないのと同じだ。まぁそういう者の行く末を見るのは面白くはあるけどね」
「自分のせいじゃないって話か」
「ありていに言えばね。さぁ見えて来たよジン」
ヨダの村を囲む柵の傍を馬車が走っている。見れば馭者はワインレッドのローブを着た頭髪スッキリおじさんで、間違いなく偽シンラだ。頭を抑えるべくアイシアと共に速度を上げる。
「っしゃああああ!」
気合を入れる為叫び声を上げる。それに驚いた馬は止まろうとするも速度を落とせず馬車ごと転倒した。
「君やること粗いね」
「うるさい。さっさとアリーザさんを探してこい」
「探さなくても中だよ」
アイシアはお座りすると自分の毛繕いを始めた。煽っているように見えるその姿にイラッとしつつ馬車の中を見ようとすると
「くっ……また貴様かジン・サガラ!」
馭者をしていた偽シンラは倒れた席から這い出ようとしながらそう言ってきた。面倒なので腕を掴んで引き出してから思い切り回転し、砲丸投げをするように偽シンラを空へ放り投げた。断末魔が凄かったが何を言っているか聞く気もない。
「アリーザさん、しっかり!」
中を見るとロープで縛られたアリーザさんが倒れていたので急いで出して地面に寝かせ声を掛ける。あんなに強いアリーザさんをどうやって大人しくさせたんだろうか。
「シンラが魔法で開発した物を心臓の代わりにしているようだね。なにか機能停止させるような言葉なりがあるんじゃないのかな」
呑気に欠伸をしながら答えるアイシア。ないかな、じゃない明らかにそうなのにもったいぶってるのがまた腹立たしい。
「で、解除する方法は?」
「良いのかい? 僕にそんなお願いばかりしちゃってさ」
「事の発端はお前だろうに。被害弁済の足しにもなりゃしない」
「はいはい。”目覚めの秘宝”」
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