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異世界営生物語~サラリーマンおじさんは冒険者おじさんになりました~  作者: 田島久護
第三章 爵位の意味を探して

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陰よりいでしもの

「失敗だわ……まさかこんな手があるなんて」


 エレミアは木に背中を預けて苦笑いをしながらそういう。風神拳の話をシンラはおろか他の人物からも聞いていなかったとしたら意外だ。イメージ的には暗闇の夜明けは情報をしっかりと掴んで動く暗躍を得意とした少数精鋭な組織だったんだが、報連相が出来ないのだろうか。


「誰からジンの話を聞いていたのか教えて貰おうか」

「誰からも何もシンラよ。まぁあんな状態のシンラから聞いたとしても冷静な評価じゃないから仕方ない面はあるわね」


「そんな状態でヨシズミ国を陥れるために動いて大丈夫なのか?」

「だから言ったでしょ? 私たちの目的はあなたが考えるような王を取るっていう役目じゃないって」


 そう言われて高速で頭を回転させる。組織の長であるシンラが冷静に考え動くことが出来ない今、人間教と宰相に依頼を受けて戦力を投入する意味、目的はなんだろう。彼らが王よりも欲しているもの……そう考えてアリーザさんが思い浮かんだ。シンラは言っていた。国を取るよりアリーザさんという実験体の回収が大切だと。


アリーザさんは一度人間としての生を終えていた。しかしシンラによって心臓に代わるものを埋め込まれて蘇生していたとティーオ司祭から聞いている。鉱山で出会ったガイラも同じような感じがしたし、アリーザさんは施された中でも特別な存在なのはわかる。


結婚して浮かれていたと認める他無い。完全な失態だ。


「なるほどそういうことか」

「気付いたようね。最初から言ってたのにね。私たちは王の命なんてどうでもいいのよ。目的はアリーザの回収」


「くっ!」

「頑張って走りなさい。予め突き出しておいて番犬とアリーザのお目付け役がもう動いている。私があなたの所在を確かめたのもそのため」


 例の偽シンラと自警団団長だろう。急いでシスターをおぶり走り出す。これまでで一番早く走れと自分に念じながら足の指で地面を掻き蹴る。木も岩も全て砕ききるつもりで一直線に走り続ける。丘を下り川を超えて突き進んだ。


家の近くまで来ると見たことのない、同じような黒い軽鎧を着た連中が屯していた。こちらを見ると手にしたそれぞれの得物を向けて来たが構わない。無視して突っ切る。


「ジ、ジン」


 倒れているベアトリスが見えた途端、血の気が引き次に怒りで体が強く力んだ。さらに剣を振り上げている黒い軽鎧に兜を付けた男が見えたので叫び声を上げて突っ込む。


「な、なに!? ジン・サ」


 頭突きをくらわし空へ向かって吹き飛ばし、足を踏ん張りブレーキを掛ける。ベアトリスに駆け寄り慌てて抱きかかえたが致命傷になるような怪我が無くてホッとした。


「遅くなってすまない」

「ううん。それよりアリーザさんが」


「わかってる」


 そう、わかっているがベアトリスを放ってはおけない。ベアトリスを抱きかかえ家に入れて休ませようとしたが、黒い軽鎧の連中は家に火を付け始めていた。周りにご丁寧に小さな枝などをあらかじめ撒いていて、あっという間に火は家を包んで行く。


やっと手に入れた仲間たちとの俺の家が燃えている……元の世界でも手に入れられなかった温かい家が……。燃え盛る中に仲間たちとの短いけど楽しかった生活が走馬灯のように走り吸い込まれ消えていく。


「フハハハ! どうだ! 見たかジン・サガラ! きさまごときヤスヒサ・ノガミにすら劣る人間が英雄気取り貴族気取りとは、おこがましいにもほどがある!」





は?




「ひっ!? あ、足が!?」

「ジン……?」


 何が可笑しい?


「あ、ああ……誰か! 手が……手がああああ!」

「ジン、しっかりしろ!」


 誰に劣るとか勝るとかそんな理由で俺の大切なものを奪うのか?


「逃げ……ろ! もう俺のい」

「落ち着いてジン!」


 また世界は俺を捨てるのか。両親が俺を園に捨てたようにまた俺は……!


――怒りに身を任せなさいジン・サガラ


 誰だ。


――誰でも良いじゃないか、君の味方だよ僕は。


 何をしてくれる?


――力を与えよう。誰にもお前から奪う気を起こさせないほど強い力を


 嘘ならお前も殺す。


――構わないよ殺しにおいで。この世界の果てで待っているから来たかったら来るといい。だけどそんな弱さじゃ護りたい者たちすら護れないけどね。


 すらりとした鼻に切れ長の目、幼さが残る顔立ちとぼさぼさの金髪にそれほど高くない背丈。白いワイシャツにワインレッドのネクタイ、茶色のベストに茶色のスラックスの人物が頭の中に映る。


「うあああああああ!」


 これまで出した覚えのないくらい大きな声で空に向かって叫ぶ。それに合わせるように地面は揺れ始める。絶対に許さない。ただそれだけが自分の心を支配していた。 


「もうその辺にしておいたらどうかな」


 さっき頭の中に聞こえた声と同じ声がしたのでその方向を見ると、アイシア・クロウが舌を出しお尻を地面に付けてこちらを見ていた。


「……え、お前喋れるのか?」

「君に分かり易く言うなら無線拡声器みたいなもんだよ。まぁボクの魔法なんだけどね。それより見てごらん」


 言われて周囲を見ると黒い軽鎧たちが白目を剥いて転がっているし、シシリーやシスターそれにベアトリスも気を失っている。


「凄い大きな声だね。君の声がデカ過ぎてみんな気を失っちゃったよ?」

「あれ、足がどうとか言ってた気が」


 見ても黒い軽鎧たちは地面に突っ伏しているが手も足も折れたような曲がり方はしてない。怒りで我を忘れていたが聞こえてはいた。


「簡単に言うと君の怒りの圧が彼らに幻覚作用っていうのかな、そういうのをみせたんだよ恐怖のあまり」

「これは魔法?」


「そう魔法。怒りで常識人寄りの君の思考のリミッターが外れた御蔭で僕の力をダイレクトに受け入れられたんだ。感謝して良いよ?」



読んで下さって有難うございます。宜しければ感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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